トランプ政権の半導体業界への介入
トランプ米大統領は先週、経営不振に陥っている米半導体大手インテルのリップブー・タン最高経営責任者(CEO)が中国のハイテク企業に投資していたことを「利益相反も甚だしい」と批判し、CEO職を辞任するよう迫った。
一方、14日には、トランプ政権がインテルに出資する可能性を協議していると報じられた。インテルが出資を受け入れれば、トランプ政権がCEOに対する政治的圧力を緩和するという取引がなされている、との見方がある。
トランプ政権は半導体を国家の安全保障に関わる重要産業と位置づけ、今後、100%の関税の適用を通じて国内生産の拡大を狙っている。インテルへの出資検討も、そうした戦略の中に位置づけられるだろう。
またトランプ政権は、半導体大手エヌビディアとアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)が対中輸出に半導体輸出再開の許可を与えることと引き換えに、中国での売上高の15%を政府に支払うことを約束させた(コラム「トランプ政権は中国向け半導体輸出再開の見返りにエヌビディアに売上げの15%の支払いを求める異例のディール」、2025年8月12日)。これも、半導体業界に対する政府の前例のない介入の例だ。
介入の対象は半導体業界に限らない。トランプ政権が日本製鉄によるUSスチールの買収を承認するのと引き換えに、日本製鉄の「黄金株」を獲得したことも、極めて異例なことだ。
さらに、異例の高い関税を導入することで、国内の製造業を守り、国内生産の拡大を図ることも、民間の経済活動に対する政府の強力な介入である。
一方、14日には、トランプ政権がインテルに出資する可能性を協議していると報じられた。インテルが出資を受け入れれば、トランプ政権がCEOに対する政治的圧力を緩和するという取引がなされている、との見方がある。
トランプ政権は半導体を国家の安全保障に関わる重要産業と位置づけ、今後、100%の関税の適用を通じて国内生産の拡大を狙っている。インテルへの出資検討も、そうした戦略の中に位置づけられるだろう。
またトランプ政権は、半導体大手エヌビディアとアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)が対中輸出に半導体輸出再開の許可を与えることと引き換えに、中国での売上高の15%を政府に支払うことを約束させた(コラム「トランプ政権は中国向け半導体輸出再開の見返りにエヌビディアに売上げの15%の支払いを求める異例のディール」、2025年8月12日)。これも、半導体業界に対する政府の前例のない介入の例だ。
介入の対象は半導体業界に限らない。トランプ政権が日本製鉄によるUSスチールの買収を承認するのと引き換えに、日本製鉄の「黄金株」を獲得したことも、極めて異例なことだ。
さらに、異例の高い関税を導入することで、国内の製造業を守り、国内生産の拡大を図ることも、民間の経済活動に対する政府の強力な介入である。
「米国流国家資本主義」への転換に危うさ
トランプ政権は対外的には米国第一主義を掲げ、国際協調路線を修正した。同時に国内では、民間企業の自由な活動と市場メカニズムを重視する伝統的な市場主義を修正し、民間企業・経済に強く介入する政策を進める。これは「米国流国家資本主義」への転換とも言えるだろう。
米国は長らく、中国経済を支援することで中国の「国家資本主義」の修正を促し、それが政治体制の民主化につながるものと考えていた。しかしトランプ政権は自ら「米国流国家資本主義」を進め、逆に中国のシステムに近づく動きを見せている。
しかし中国などの国家資本主義と違うのは、政府が民間経済への関与を強めることを、巨大な官僚組織を使って実行しようとするのではなく、大統領の権限を最大限利用することで進めようとしていることだ。
米連邦人事管理局(OPM)のクポー新局長は14日に、トランプ政権が今年、約30万人の連邦職員を削減するとの見通しを示した。年初に約240万人だった連邦職員は、累計で12.5%程度削減される計算となる。
またトランプ大統領は、雇用者数の大幅な下方修正を発表した労働統計局(BLS)の局長を解雇し、また米連邦準備制度理事会(FRB)に利下げ圧力を強めるなど、官僚組織、公的機関への介入も進め、それらの権限を弱体化させている。
トランプ政権は、政府・大統領への権限集中と、民間経済・企業への介入強化を同時に進めている。しかしそうした政策は、中長期の視点を欠き、大統領の思い付き、場当たり的な対応で進められている感が強く、官僚組織、公的組織を活用した精緻な国家戦略とは言えない。
こうしたトランプ政権のもとでの「米国流国家資本主義」は、この先大きな混乱を生じさせ、米国経済の再生という狙いとは逆に、米国製造業の弱体化を後押しすることになってしまうのではないか。
(参考資料)
“The U.S. Is Discussing Taking a Stake in Intel(米政府、インテルへの出資検討)”, Wall Street Journal, August 15, 2025
“The U.S. Marches Toward State Capitalism With American Characteristics(独自の国家資本主義に進む米国)” , Wall Street Journal, August 12, 2025
米国は長らく、中国経済を支援することで中国の「国家資本主義」の修正を促し、それが政治体制の民主化につながるものと考えていた。しかしトランプ政権は自ら「米国流国家資本主義」を進め、逆に中国のシステムに近づく動きを見せている。
しかし中国などの国家資本主義と違うのは、政府が民間経済への関与を強めることを、巨大な官僚組織を使って実行しようとするのではなく、大統領の権限を最大限利用することで進めようとしていることだ。
米連邦人事管理局(OPM)のクポー新局長は14日に、トランプ政権が今年、約30万人の連邦職員を削減するとの見通しを示した。年初に約240万人だった連邦職員は、累計で12.5%程度削減される計算となる。
またトランプ大統領は、雇用者数の大幅な下方修正を発表した労働統計局(BLS)の局長を解雇し、また米連邦準備制度理事会(FRB)に利下げ圧力を強めるなど、官僚組織、公的機関への介入も進め、それらの権限を弱体化させている。
トランプ政権は、政府・大統領への権限集中と、民間経済・企業への介入強化を同時に進めている。しかしそうした政策は、中長期の視点を欠き、大統領の思い付き、場当たり的な対応で進められている感が強く、官僚組織、公的組織を活用した精緻な国家戦略とは言えない。
こうしたトランプ政権のもとでの「米国流国家資本主義」は、この先大きな混乱を生じさせ、米国経済の再生という狙いとは逆に、米国製造業の弱体化を後押しすることになってしまうのではないか。
(参考資料)
“The U.S. Is Discussing Taking a Stake in Intel(米政府、インテルへの出資検討)”, Wall Street Journal, August 15, 2025
“The U.S. Marches Toward State Capitalism With American Characteristics(独自の国家資本主義に進む米国)” , Wall Street Journal, August 12, 2025
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。