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トランプ大統領は300%の半導体関税に言及

トランプ大統領は15日(金)に、来週か再来週に半導体関税を課す考えを述べた。当初は低い関税率から始め、国内で生産拠点をつくる時間的猶予を海外企業に与えたうえで、「とても高い関税」を課す考えだという。「場合によっては200%か300%を払わなければならない」とした。6日の記者会見では、半導体関税を「およそ100%」と発言していた。
 
トランプ政権が課す関税のうち、相互関税は輸入の抑制を通じて米国の貿易赤字削減、解消を狙った措置だ。これに対して、自動車、鉄鋼などの分野別関税は、米国の安全保障上のリスクに配慮し、国内での生産拡大も目指している。経済安全保障政策の一環とも言える。
 
国別の相互関税については、概ね決定されたが、分野別関税については、海外企業が輸出から米国内での生産にシフトする動きが鈍いと判断すれば、関税率を引き上げるという戦略をトランプ政権はとっている。この点から、既存の分野別関税については、今後さらに引き上げられる可能性があるだろう。実際、トランプ政権は鉄鋼・アルミの関税率を25%から50%に引き上げた。自動車の関税も25%から50%に引き上げる可能性を示唆したこともあった。
 
半導体については、医薬品と同様の戦略となる見通しだ。医薬品については、低い関税率から始め、企業に米国内での生産拡大の時間的猶予を与えつつ、最終的には関税率を250%まで引き上げるとトランプ大統領は説明している。

半導体関税の適用範囲に不確実性

半導体関税は日本企業にも新たな打撃となるが、最終的な関税率に加えて、大きな不確実性が2点残されている。第1は半導体関税の適用範囲である。
 
以前にトランプ政権は、半導体関税には、半導体、PC、スマホ、周辺機器、半導体製造装置などが含まれると説明していた。対象が半導体のみの場合と、半導体製造装置を含むより幅広い範囲となる場合とで、日本企業への影響は大きく違ってくる(コラム「トランプ大統領が半導体に100%関税を課す考えを示す:日本のGDPを最大で0.14%押し下げる可能性」、2025年8月7日)。
 
2024年の日本から米国への半導体輸出額は2,656億円で、輸出全体の1.2%に相当する。しかしこれに、半導体製造装置の5,298億円、PCなど電算機器の1,366億円、電算機器部品の3,034億円が加わると、その総額は1兆2,354億円となり、輸出全体の5.8%にも達する。

半導体関連への300%関税は日本のGDPを直接的に0.42%押し下げ

300%の関税が実質GDPに与える1年間程度の影響は、半導体への300%関税で-0.09%、それらを含む半導体関連全体では-0.42%となる。
 
後者の場合、トランプ関税の日本経済への影響は、相互関税、自動車関税ともに15%のもとでの-0.55%(1年間程度)から、-0.97%へ膨らみ、関税の海外経済への影響も含めると-1.10%になる計算だ。

半導体関税に最恵国待遇は適用されるか

さらにもう1点不確実であるのは、日米関税合意における半導体関税に関する取り決めである。欧州連合(EU)と米国との関税合意に関わる米国政府の公表文書(ファクトシート)では、「EUは自動車や自動車部品、医薬品、半導体を含めて米国に15%の関税率を支払う予定」と記されている。これについて、新たに分野別関税が課される医薬品、半導体についても、EUへの関税はトランプ政権が示唆しているそれぞれ250%、100%ではなく、ともに15%になるとの解釈が可能だ。
 
さらに日本政府は、医薬品、半導体の関税率について、「日本を他国に劣後する形で扱わない」ことで日米が合意した、と説明している。いわゆる最恵国待遇だ。この点から、日本への関税率はともに15%を上まわらない、とするのが日本側の解釈である。
 
しかし、日米合意に含まれたと日本政府が主張しているこの取り決めは、米国側の説明資料には出てこない。
 
半導体関税の対象が半導体に限られ、さらに関税率が15%の場合には、日本のGDPに与える影響は-0.01%弱となるが、半導体関税の対象が半導体製造装置などを含む広範囲に渡り、さらに300%の関税が課される場合には日本のGDPへの直接的な影響は上記のように-0.42%と実に100倍近くとなってしまう。どちらになるかで日本経済への影響は大きく異なるのである。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。