国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠とするトランプ関税に、再び違法判決
米連邦巡回区控訴裁判所は8月29日に、トランプ政権の関税措置を無効とする判断を下した。
国際貿易裁判所は5月、国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠とする相互関税などの課税に対して違法判決を下していた(コラム「相互関税に違法判決:トランプ関税に司法の壁」、2025年5月29日)。この判決はトランプ政権が連邦控訴裁に上訴している間は一時的に停止されたが、控訴裁は一審判決を支持し、再び相互関税などを違法と判断した。トランプ政権にとっては2連敗となる。
鉄鋼・自動車などの分野別関税は、国家安全保障を脅かすリスクに対応する権限を政府に認める通商法232条を根拠にしている。他方、中国、カナダ、メキシコに対して、合成麻薬フェンタニルや不法移民の取締りが不十分であることを理由に課している一律関税や、すべての貿易相手国に課している相互関税は、IEEPAを根拠にしている。
大統領は、緊急事態宣言を発出したうえで、IEEPAに基づいて貿易規制措置を講じることが認められている。海外からの輸入増加やそれによる貿易赤字拡大をもって国家の緊急事態と宣言することの是非も問われるべきだが、裁判所が違法としたのはそこではなく、「大統領に関税を決める権限までは与えられていない」という点だ。関税を決められるのは議会、という建国以来の伝統的な考え方を尊重した判決だ。
IEEPAに基づく輸入規制措置の発動には、事前に議会と協議し、発動後も報告することが政権に求められる。しかし、それらは実施されていないとみられる。
国際貿易裁判所は5月、国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠とする相互関税などの課税に対して違法判決を下していた(コラム「相互関税に違法判決:トランプ関税に司法の壁」、2025年5月29日)。この判決はトランプ政権が連邦控訴裁に上訴している間は一時的に停止されたが、控訴裁は一審判決を支持し、再び相互関税などを違法と判断した。トランプ政権にとっては2連敗となる。
鉄鋼・自動車などの分野別関税は、国家安全保障を脅かすリスクに対応する権限を政府に認める通商法232条を根拠にしている。他方、中国、カナダ、メキシコに対して、合成麻薬フェンタニルや不法移民の取締りが不十分であることを理由に課している一律関税や、すべての貿易相手国に課している相互関税は、IEEPAを根拠にしている。
大統領は、緊急事態宣言を発出したうえで、IEEPAに基づいて貿易規制措置を講じることが認められている。海外からの輸入増加やそれによる貿易赤字拡大をもって国家の緊急事態と宣言することの是非も問われるべきだが、裁判所が違法としたのはそこではなく、「大統領に関税を決める権限までは与えられていない」という点だ。関税を決められるのは議会、という建国以来の伝統的な考え方を尊重した判決だ。
IEEPAに基づく輸入規制措置の発動には、事前に議会と協議し、発動後も報告することが政権に求められる。しかし、それらは実施されていないとみられる。
法廷闘争は最高裁へ
相互関税などへの違法判決を示した控訴裁判所は、トランプ政権が最高裁判所に上訴する機会を確保するため、10月14日までは関税措置の継続を認めた。トランプ政権は最高裁に上訴する可能性が高い。
最高裁判事9人は、トランプ氏が第1次政権で保守派判事を指名したため、現在は保守派6人、リベラル派3人という構成だ。そのため、一審や二審より、政権側に有利な判決が出る可能性はある。
他方、課税を含め政府に多大な権限を持たせることを嫌う傾向は、伝統的な保守派に支持されているという面もあり、最高裁がどのような判断を示すかについては予断を持てない。
最高裁判事9人は、トランプ氏が第1次政権で保守派判事を指名したため、現在は保守派6人、リベラル派3人という構成だ。そのため、一審や二審より、政権側に有利な判決が出る可能性はある。
他方、課税を含め政府に多大な権限を持たせることを嫌う傾向は、伝統的な保守派に支持されているという面もあり、最高裁がどのような判断を示すかについては予断を持てない。
トランプ関税に立ちはだかる3つの壁
仮に最高裁で違法判決が下されても、トランプ政権は関税策を諦めないことが考えられる。不公正貿易に対する制裁措置の発動を認める通商法301条、輸入急増時にセーフガード(緊急輸入制限)を認める通商法421条、巨額かつ深刻な("large and serious")貿易赤字が発生している場合、最大15%の関税賦課を大統領に認める通商法122条、スムート・ホーリー関税法(1930年)などへ根拠法を変えることで、相互関税などを維持することは可能であるだろう。
しかし、トランプ関税に対する訴訟は他にも多く出されており、今後違法判決が相次ぐ可能性が考えられる。こうした「司法の壁」は、関税による物価高や景気悪化懸念が金融市場に悪影響を与える「金融市場の壁」や、国民が経済・金融環境の悪化からトランプ関税への批判を強める「世論の壁」とともに3つの壁を形成している。
これらの要因が複合することで、トランプ政権は年内にも関税政策全体を自ら後退させ始めることが予想される。
(参考資料)
“Appeals Court Rejects Trump’s Global Tariffs(米控訴裁、トランプ関税に無効判断)”, Wall Street Journal, August 30, 2025
「保守派多数、最高裁判断へ トランプ関税に再び「違法」」、2025年8月31日、朝日新聞
しかし、トランプ関税に対する訴訟は他にも多く出されており、今後違法判決が相次ぐ可能性が考えられる。こうした「司法の壁」は、関税による物価高や景気悪化懸念が金融市場に悪影響を与える「金融市場の壁」や、国民が経済・金融環境の悪化からトランプ関税への批判を強める「世論の壁」とともに3つの壁を形成している。
これらの要因が複合することで、トランプ政権は年内にも関税政策全体を自ら後退させ始めることが予想される。
(参考資料)
“Appeals Court Rejects Trump’s Global Tariffs(米控訴裁、トランプ関税に無効判断)”, Wall Street Journal, August 30, 2025
「保守派多数、最高裁判断へ トランプ関税に再び「違法」」、2025年8月31日、朝日新聞
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。