著名経済学者らがトランプ大統領のクックFRB理事解任を批判
9月2日に、米国の著名経済学者ら450人余りは、「われわれはクック理事および長年にわたって米経済の強さを支えてきた制度的な仕組みを支持する」とし、トランプ大統領が住宅ローン申請に関する不正疑惑を理由に解任に動いたクック連邦準備制度理事会(FRB)理事とFRBの独立性を支持する書簡を公開した。この中には、ノーベル経済学賞受賞者のゴールディン、ローマー両氏も名を連ねている。
書簡は、FRB理事の解任には極めて高いハードルがあるとして、選挙で選ばれた公職者は、中央銀行の独立性を損なう行為や発言を控えるべき、と訴えている。さらに、「クック理事に関する最近の公的な発言は、解任の脅しや既に解任されたとの主張など、いずれも証拠のない疑惑に基づいて提示されている」と指摘し、「こうしたやり方は中央銀行の独立性という根本的な原則を脅かし、米国で最も重要な機関の一角に対する信頼を損なうものだ」としている。
FRBへの政治介入については、海外からも懸念が示されている。欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は1日に、FRBの独立性が失われれば、米国と世界の経済に「重大な危険」を及ぼすことになる、と述べた。また、米国の金融政策が「もはや独立的ではなくなり、特定の人物の指図次第」となれば「非常に心配」、とも語っている(コラム「FRBの独立性は終焉を迎えるか」、2025年8月28日)。
書簡は、FRB理事の解任には極めて高いハードルがあるとして、選挙で選ばれた公職者は、中央銀行の独立性を損なう行為や発言を控えるべき、と訴えている。さらに、「クック理事に関する最近の公的な発言は、解任の脅しや既に解任されたとの主張など、いずれも証拠のない疑惑に基づいて提示されている」と指摘し、「こうしたやり方は中央銀行の独立性という根本的な原則を脅かし、米国で最も重要な機関の一角に対する信頼を損なうものだ」としている。
FRBへの政治介入については、海外からも懸念が示されている。欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は1日に、FRBの独立性が失われれば、米国と世界の経済に「重大な危険」を及ぼすことになる、と述べた。また、米国の金融政策が「もはや独立的ではなくなり、特定の人物の指図次第」となれば「非常に心配」、とも語っている(コラム「FRBの独立性は終焉を迎えるか」、2025年8月28日)。
インフレと米国債への信認低下のリスク
米欧のエコノミスト94人を対象としたフィナンシャル・タイムズ紙の調査によれば、2026年5月のパウエル議長の任期満了後に、トランプ大統領による攻撃を受けて、FRBは恒久的に雇用拡大や政府の資金調達コスト抑制を目的として、物価の安定よりも低金利維持を優先するようになる、と調査対象者の52%が回答している。
また42%の回答者は、トランプ大統領の攻撃はインフレ圧力を呼ぶ恐れがあるとの見方を示した。米国債に対する投資家の信認が失われかねないことが最大のリスクと見る回答者は35%に上った。
また42%の回答者は、トランプ大統領の攻撃はインフレ圧力を呼ぶ恐れがあるとの見方を示した。米国債に対する投資家の信認が失われかねないことが最大のリスクと見る回答者は35%に上った。
ドルへの不安から金価格は史上最高値を更新
トランプ政権のFRBへの政治介入に対して、金の価格は比較的敏感に反応している。政治介入によるFRBの信認低下はドルの信認低下につながることから、ドルの下落や物価上昇のリスクを回避するために金が買われている。
国際指標とされるニューヨーク先物(中心限月)はアジア時間の3日の取引で、一時1トロイオンスあたり3,581.2ドルを付け、史上最高値を更新した。足もとでの金価格の上昇は、相互関税の発表を受けて米国債が売られ、金融市場で米国資産回避の傾向が強まった今年4月以来の大幅なものだ。
日本経済新聞によると、1970年代以降のFRB歴代議長の中で、在任期間に最も金価格が上昇したのは、1970年~1978年のバーンズ議長の5倍だった。物価高が沈静化する前に当時のニクソン大統領の圧力を受けて利下げに転じ、その後のインフレ再燃を招いたとされる。現職のパウエル議長はその半分程度の2.6倍であるが、歴代議長の中ではバーンズ議長の次に大きい。
ただし、バーンズ議長と比べてパウエル議長は、大統領の不当な介入に屈しない姿勢はより明確だ。金価格の動きは、パウエル議長個人ではなく、人事権を使ったトランプ政権によるFRBという組織全体への政治介入の影響への懸念を反映していると言えるだろう。
国際指標とされるニューヨーク先物(中心限月)はアジア時間の3日の取引で、一時1トロイオンスあたり3,581.2ドルを付け、史上最高値を更新した。足もとでの金価格の上昇は、相互関税の発表を受けて米国債が売られ、金融市場で米国資産回避の傾向が強まった今年4月以来の大幅なものだ。
日本経済新聞によると、1970年代以降のFRB歴代議長の中で、在任期間に最も金価格が上昇したのは、1970年~1978年のバーンズ議長の5倍だった。物価高が沈静化する前に当時のニクソン大統領の圧力を受けて利下げに転じ、その後のインフレ再燃を招いたとされる。現職のパウエル議長はその半分程度の2.6倍であるが、歴代議長の中ではバーンズ議長の次に大きい。
ただし、バーンズ議長と比べてパウエル議長は、大統領の不当な介入に屈しない姿勢はより明確だ。金価格の動きは、パウエル議長個人ではなく、人事権を使ったトランプ政権によるFRBという組織全体への政治介入の影響への懸念を反映していると言えるだろう。
世界の金融市場を大きく揺るがすリスク
金の価格は比較的敏感に反応しているが、金融市場全体としては、トランプ政権によるFRBへの政治介入問題への反応は、今のところ大きいとは言えない。
先述のフィナンシャル・タイムズ紙の調査では、82%の回答者が、現時点で金融市場はホワイトハウスによるFRBへの介入を部分的、あるいはわずかにしか織り込んでいない、との見方を示している。今のところ全く織り込まれていないとする見方も12%あった。
トランプ政権によるFRBへの政治介入は、米国のみならず世界の金融市場の安定を損ねかねない重要な問題だ。この先、米国市場で株安、債券安、ドル安のトリプル安の傾向が強まり、世界の金融市場を大きく揺るがす、4月のような状況へと発展する可能性は十分にあるだろう。
(参考資料)
“Over 450 Economists Back Cook, Fed Independence in Open Letter(450人超のエコノミスト、クック理事とFRB独立性を支持-公開書簡)”, Bloomberg, September 2, 2025
「投資家はトランプ氏のFRB攻撃を軽視 エコノミストが警鐘」、2025年9月3日、NIKKEI FT the World
「金が最高値、ドル信認低下 FRB独立性に疑念 現議長在任中に価格2.6倍」、2025年9月3日、日本経済新聞
先述のフィナンシャル・タイムズ紙の調査では、82%の回答者が、現時点で金融市場はホワイトハウスによるFRBへの介入を部分的、あるいはわずかにしか織り込んでいない、との見方を示している。今のところ全く織り込まれていないとする見方も12%あった。
トランプ政権によるFRBへの政治介入は、米国のみならず世界の金融市場の安定を損ねかねない重要な問題だ。この先、米国市場で株安、債券安、ドル安のトリプル安の傾向が強まり、世界の金融市場を大きく揺るがす、4月のような状況へと発展する可能性は十分にあるだろう。
(参考資料)
“Over 450 Economists Back Cook, Fed Independence in Open Letter(450人超のエコノミスト、クック理事とFRB独立性を支持-公開書簡)”, Bloomberg, September 2, 2025
「投資家はトランプ氏のFRB攻撃を軽視 エコノミストが警鐘」、2025年9月3日、NIKKEI FT the World
「金が最高値、ドル信認低下 FRB独立性に疑念 現議長在任中に価格2.6倍」、2025年9月3日、日本経済新聞
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。