医薬品・半導体関税の最恵国待遇を巡る米国側の確約は日本政府に残された課題
日米関税合意に関して9月5日に発令された大統領令が、9日付の米連邦官報に掲載された。その内容は公表後7日以内に発効するため、日本側が強く求めてきた自動車関税の27.5%から15%への引き下げは、16日までには実施される見通しとなった。
また15%の関税率が適用された相互関税については、現行関税率が15%未満の品目には差額分の追加関税を課して関税率を15%に引き上げ、15%以上の品目には追加関税を課さない、という特例措置の適用が明記された。特例措置の適用は2025年8月7日に遡って適用され、過払い分の関税は米税関(CBP)を通じて還付される。
この官報の公表を受けて赤澤大臣は記者会見で、「米側による日米合意の着実な実施の表れと認識している。引き続き強い関心をもって注視していく」と述べた。
他方、官報の公表を受けて、「相互関税の修正と自動車・部品の関税についての大統領令は発出されたが、医薬品や半導体についてはまだ決着がついていない」として、「引き続き米側への働きかけをしっかり続けていく必要がある」と強調した。医薬品や半導体に関する未解決の課題は、次期政権に引き継がれる。
日本は、日米合意の中で医薬品と半導体については最恵国待遇が決まったと主張する。最恵国待遇とは一般に、通商条約などで他国に対して、最も有利な待遇を受けることを約束することだ。ここでは他国に適用された関税率を上回らないことを意味する。米国は欧州連合(EU)との間で、将来、米国が医薬品と半導体について分野別関税を課す際には、15%とすることで合意し、文書化している。最恵国待遇が適用される場合には、日本についても医薬品と半導体の関税率は15%を超えないことになる。
また15%の関税率が適用された相互関税については、現行関税率が15%未満の品目には差額分の追加関税を課して関税率を15%に引き上げ、15%以上の品目には追加関税を課さない、という特例措置の適用が明記された。特例措置の適用は2025年8月7日に遡って適用され、過払い分の関税は米税関(CBP)を通じて還付される。
この官報の公表を受けて赤澤大臣は記者会見で、「米側による日米合意の着実な実施の表れと認識している。引き続き強い関心をもって注視していく」と述べた。
他方、官報の公表を受けて、「相互関税の修正と自動車・部品の関税についての大統領令は発出されたが、医薬品や半導体についてはまだ決着がついていない」として、「引き続き米側への働きかけをしっかり続けていく必要がある」と強調した。医薬品や半導体に関する未解決の課題は、次期政権に引き継がれる。
日本は、日米合意の中で医薬品と半導体については最恵国待遇が決まったと主張する。最恵国待遇とは一般に、通商条約などで他国に対して、最も有利な待遇を受けることを約束することだ。ここでは他国に適用された関税率を上回らないことを意味する。米国は欧州連合(EU)との間で、将来、米国が医薬品と半導体について分野別関税を課す際には、15%とすることで合意し、文書化している。最恵国待遇が適用される場合には、日本についても医薬品と半導体の関税率は15%を超えないことになる。
半導体関税率300%、医薬品関税率250%の回避へ
9月4日(米国時間)に公表された日米共同声明では、米国は、通商拡大法第232条に基づく関税措置において、「医薬品や半導体(半導体製造装置を含む)に対して課されるいかなる関税についても、日本の製品に対して、他国の製品に適用される税率を超えない関税率を適用する」と明記された。
しかしそれは法的拘束力がなく、大統領令などに盛り込まれない限り、最恵国待遇は保証されたとは言えない。次期政権も、この点について米国からさらに確約を得る必要がある。
トランプ大統領は、半導体関連の関税については300%、医薬品については段階的に250%まで関税率を引き上げると発言したとされる。仮にそうなれば、半導体関連では0.42%、医薬品では0.12%、実質GDPは1年程度の間に押し下げられる計算となる。関連する産業だけでなく、日本経済全体にも相応の打撃となる。こうした事態を避けるため、日本政府は引き続き米国に最恵国待遇を確約させることが求められる。
しかしそれは法的拘束力がなく、大統領令などに盛り込まれない限り、最恵国待遇は保証されたとは言えない。次期政権も、この点について米国からさらに確約を得る必要がある。
トランプ大統領は、半導体関連の関税については300%、医薬品については段階的に250%まで関税率を引き上げると発言したとされる。仮にそうなれば、半導体関連では0.42%、医薬品では0.12%、実質GDPは1年程度の間に押し下げられる計算となる。関連する産業だけでなく、日本経済全体にも相応の打撃となる。こうした事態を避けるため、日本政府は引き続き米国に最恵国待遇を確約させることが求められる。
5500億ドルの対米投資計画は不平等な取り決め
また、9月4日(米国時間)に日米が署名した5500億ドルの対米投資計画の覚書については、内容が曖昧である。赤澤大臣は「(日本側の)戦略的な考え方や法的な制約が適切に考慮されると考えている」と記者会見で説明したが、日本(政府系金融機関)が提供する資金を用いた投資を、米国の産業、経済の発展に資するかどうかの基準に照らしてトランプ大統領が最終的に決める、といった米国主導の枠組みになっていると解釈できる(コラム「日米合意の投資に関する覚書:米国優位の不平等な取り決めに」、2025年9月5日)。政府系金融機関が本来得るべき所得が米国に流れることになることから、日本の国益を損ねる面もあると考えられる。
この不平等な取り決めを修正していくことも、次期政権に引き継がれる大きな宿題となるのではないか。
この不平等な取り決めを修正していくことも、次期政権に引き継がれる大きな宿題となるのではないか。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。