自民党総裁選と日銀の金融政策
自民党総裁選は9月22日に告示され、10月4日に投開票が行われることが決まった。そうした中、自民党総裁選の行方が日本銀行の金融政策に与える影響について、金融市場は関心を強めている。
総裁選出馬については「熟慮中」と説明する河野太郎前デジタル相は、9日のブルームバーグテレビジョンのインタビューで、日銀の利上げ先送りは「インフレが続くことを意味する。輸入するものすべての価格が今より上がることになる」と指摘した。そのうえで、円相場の安定の重要性を強調し、「そのためには、日銀が金利を引き上げる必要がある」と語った。
総裁選出馬については「熟慮中」と説明する河野太郎前デジタル相は、9日のブルームバーグテレビジョンのインタビューで、日銀の利上げ先送りは「インフレが続くことを意味する。輸入するものすべての価格が今より上がることになる」と指摘した。そのうえで、円相場の安定の重要性を強調し、「そのためには、日銀が金利を引き上げる必要がある」と語った。
報道を受けた年内利上げ観測で円高が進む
一方、9日夕刻にブルームバーグ社は、事情に詳しい複数の関係者の話として、9月18日・19日の金融政策決定会合では利上げは見送られるものの、「国内政治情勢が混乱する中でも年内利上げの可能性は排除しない」「経済情勢は7月の最新シナリオに沿った動きと判断」「(日米関税合意に関する)4日の(米国)大統領令は日銀の不確実性の一段の低下につながる」「米関税を踏まえた企業行動や新政権の政策など金融政策判断に重要な材料が、この秋以降には揃ってくる」などとの見方を報じた。そのうえで、当局者の一部には早ければ10月にも利上げが適切になるとの見方もある、と報じている。
この報道を受けて、9日夕刻の為替市場では、1ドル147円台半ばから146円台前半へと一気に円高が進んだ。
筆者も今年12月の利上げをメインシナリオとしているが、現時点で日本銀行が年内の利上げを見通せているとは思えない。上記の関係者は、利上げに前向きな審議委員など一部の関係者の見解であって、政策委員のコンセンサスを示しているとは思えない。他社の報道も見る必要はあるが、この報道は、日本銀行の執行部が意図して流した情報ではないだろう。
この報道を受けて、9日夕刻の為替市場では、1ドル147円台半ばから146円台前半へと一気に円高が進んだ。
筆者も今年12月の利上げをメインシナリオとしているが、現時点で日本銀行が年内の利上げを見通せているとは思えない。上記の関係者は、利上げに前向きな審議委員など一部の関係者の見解であって、政策委員のコンセンサスを示しているとは思えない。他社の報道も見る必要はあるが、この報道は、日本銀行の執行部が意図して流した情報ではないだろう。
日銀の利上げ時期を左右する最大の要因は米国経済の行方
7月の金融政策決定会合での植田総裁の記者会見、先日の氷見野副総裁の講演会での説明は、追加利上げに向けて慎重な姿勢を強調するものだった(コラム「不確実性を強調した日銀氷見野副総裁の講演:利上げの一時停止措置はしばらく続く」、2025年9月2日)。9月18・19日の金融政策決定会合後の記者会見での植田総裁の記者会見の発言も同様なものとなるだろう。
この先の日本銀行の金融政策に大きな影響を与えるのは第1に、足もとで雇用情勢に弱さがみられる米国経済の先行き、第2に、新政権の金融政策に対する姿勢、第3に、トランプ政権の為替政策と日本の金融政策に対する姿勢、の3点と考えられる。
自民党総裁選で仮に高市元経済安全保障担当相が選出されれば、金融緩和維持を主張する同氏は日本銀行の追加利上げを牽制し、結果として日本銀行の利上げが後ずれする可能性はあるだろう。
しかし、そうした国内政治要因は、この先の日本銀行の金融政策に影響を与える最大の要因ではない。最大なのは米国経済の行方だ。植田総裁、氷見野副総裁ともに、関税の影響はこれから顕在化する可能性が高いことを指摘した上で、特に米国経済への影響に注目しているように見える。
雇用統計など足もとで公表されている米国の労働市場関連の指標はにわかに下振れており、関税や移民規制、連邦職員削減などのトランプ政権の経済の影響が確認できる。今後、米国経済が本格的な調整局面に陥れば、日本経済は景気後退局面に陥り、賃金、物価も下振れることになるだろう。米国経済がそうした方向に進むかどうか、なお注視しておく必要がある。
この先の日本銀行の金融政策に大きな影響を与えるのは第1に、足もとで雇用情勢に弱さがみられる米国経済の先行き、第2に、新政権の金融政策に対する姿勢、第3に、トランプ政権の為替政策と日本の金融政策に対する姿勢、の3点と考えられる。
自民党総裁選で仮に高市元経済安全保障担当相が選出されれば、金融緩和維持を主張する同氏は日本銀行の追加利上げを牽制し、結果として日本銀行の利上げが後ずれする可能性はあるだろう。
しかし、そうした国内政治要因は、この先の日本銀行の金融政策に影響を与える最大の要因ではない。最大なのは米国経済の行方だ。植田総裁、氷見野副総裁ともに、関税の影響はこれから顕在化する可能性が高いことを指摘した上で、特に米国経済への影響に注目しているように見える。
雇用統計など足もとで公表されている米国の労働市場関連の指標はにわかに下振れており、関税や移民規制、連邦職員削減などのトランプ政権の経済の影響が確認できる。今後、米国経済が本格的な調整局面に陥れば、日本経済は景気後退局面に陥り、賃金、物価も下振れることになるだろう。米国経済がそうした方向に進むかどうか、なお注視しておく必要がある。
日本銀行の利上げの一時停止措置はしばらく続く
このように、現状では日本銀行は特に米国経済の先行きを慎重に見極めている状況にあり、4月以降の事実上の利上げの一時停止措置は維持されている。筆者は12月の利上げをメインシナリオにしているが、これは足もとでの米国経済の下振れが比較的短期的なものに終わることが前提だ。米国経済が仮に本格的な調整局面へと陥れば、年内どころか来年前半の利上げも難しくなるのではないか。
9月18日・19日の金融政策決定会合後の記者会見で、植田総裁から、年内の利上げを示唆するタカ派的な発言が出ることを期待していると、それは裏切られるのではないか。
ちなみに、トランプ政権は米連邦準備制度理事会(FRB)を支配して、利下げを進めようとしているが、その狙いの一つは貿易赤字縮小に資するドル安だ。その際に、ドル安円高を促すために、日本銀行に利上げを求める可能性がある。その場合、日本銀行がその要求を直接受け入れることはないものの、結果として利上げが促される可能性はあるだろう。
9月18日・19日の金融政策決定会合後の記者会見で、植田総裁から、年内の利上げを示唆するタカ派的な発言が出ることを期待していると、それは裏切られるのではないか。
ちなみに、トランプ政権は米連邦準備制度理事会(FRB)を支配して、利下げを進めようとしているが、その狙いの一つは貿易赤字縮小に資するドル安だ。その際に、ドル安円高を促すために、日本銀行に利上げを求める可能性がある。その場合、日本銀行がその要求を直接受け入れることはないものの、結果として利上げが促される可能性はあるだろう。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。