10月利上げの可能性が高いとはなお言えない
日本銀行は9月19日の金融政策決定会合で、大方の予想通りに金融政策の維持を決めた。ただし予想外だったのは、政策委員の2名が利上げを主張し、金融政策の維持に反対したことだ。これを受けて、金融市場では次回10月の金融政策決定会合で利上げが実施される、との観測が強まった。
しかし実際には、10月利上げの可能性が高いとはなお言えないのではないか。植田総裁の記者会見での発言に変化があるかどうかには注目しておく必要があるものの、総裁、副総裁らは引き続き追加利上げに慎重な姿勢と推察される。そうした中、今回利上げを主張した2名のいわゆるタカ派に続くタカ派は、政策委員の中に見当たらないからだ。
しかし実際には、10月利上げの可能性が高いとはなお言えないのではないか。植田総裁の記者会見での発言に変化があるかどうかには注目しておく必要があるものの、総裁、副総裁らは引き続き追加利上げに慎重な姿勢と推察される。そうした中、今回利上げを主張した2名のいわゆるタカ派に続くタカ派は、政策委員の中に見当たらないからだ。
国内の基調的な物価上昇率は頭打ち
トランプ関税が発表されて金融市場が動揺した4月以降、日本銀行は関税の影響を見極めるため、利上げを事実上一時停止している。
19日に発表された8月消費者物価統計(CPI)で、生鮮食品を除くコア指数は前年同月比+2.7%と前月の+3.1%を下回り、9か月ぶりに2%台まで低下した。ただしこれは、政府のエネルギー補助金が再開された影響が大きい。エネルギー価格を除けばなお3%を超える上昇であり、食料品価格を中心に高い物価上昇率が続いている。
こうした物価情勢は日本銀行の利上げを後押しするとの見方が少なくない。しかし、食料品価格の上昇は、コメの価格の上昇、円安による輸入食料品、原料の価格上昇といった、供給側の一時的な要因によるところが大きい。
食料・エネルギーを除くCPIは、8月に前年同月比+1.6%と前月と同水準であり、基調的な物価上昇率は日本銀行が目指す2%を下回る水準で安定している状況だ。また、日本銀行が2%の持続的な物価上昇率達成の鍵と位置付けてきた賃金からサービス価格への転嫁はなお明確に見られず、8月のサービス価格も前年同月比+1.5%で安定した水準を維持している。こうした点から、現在の国内物価情勢は、日本銀行の利上げを促す要因とは言えないのではないか。
19日に発表された8月消費者物価統計(CPI)で、生鮮食品を除くコア指数は前年同月比+2.7%と前月の+3.1%を下回り、9か月ぶりに2%台まで低下した。ただしこれは、政府のエネルギー補助金が再開された影響が大きい。エネルギー価格を除けばなお3%を超える上昇であり、食料品価格を中心に高い物価上昇率が続いている。
こうした物価情勢は日本銀行の利上げを後押しするとの見方が少なくない。しかし、食料品価格の上昇は、コメの価格の上昇、円安による輸入食料品、原料の価格上昇といった、供給側の一時的な要因によるところが大きい。
食料・エネルギーを除くCPIは、8月に前年同月比+1.6%と前月と同水準であり、基調的な物価上昇率は日本銀行が目指す2%を下回る水準で安定している状況だ。また、日本銀行が2%の持続的な物価上昇率達成の鍵と位置付けてきた賃金からサービス価格への転嫁はなお明確に見られず、8月のサービス価格も前年同月比+1.5%で安定した水準を維持している。こうした点から、現在の国内物価情勢は、日本銀行の利上げを促す要因とは言えないのではないか。
日銀は米国経済の動向に最も注目
この先の日本銀行の追加利上げの時期に大きな影響を与える要因が3点ある。第1に、足もとで雇用情勢に弱さがみられる米国経済の先行き、第2に、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策、第3に、新政権の金融政策に対する姿勢、である。
10月4日に行われる自民党総裁選で仮に高市前経済安全保障担当相が選出されれば、金融緩和維持を主張する同氏は日本銀行の追加利上げを牽制し、結果として日本銀行の利上げが後ずれする可能性はあるだろう。
しかし、そうした国内政治要因は、この先の日本銀行の金融政策に影響を与える最大の要因ではない。最大となるのは第1の米国経済の行方だ。植田総裁、氷見野副総裁ともに、関税の影響はこれから顕在化する可能性が高いことを指摘した上で、特に米国経済への影響に注目している。
雇用統計など足もとで公表されている米国の労働市場関連の指標はにわかに下振れており、関税や移民規制、連邦職員削減などのトランプ政権の政策が経済に与える悪影響が確認できる。今後、米国経済が本格的な調整局面に陥れば、日本経済は景気後退局面に陥り、賃金、物価も下振れることになるだろう。米国経済は日本経済、物価、賃金にも大きな影響を与える先行指標である。
足もとでみられる米国の雇用情勢の下振れが、個人消費の低迷などを通じて本格的な景気悪化につながるかどうか、日本銀行はなお注視していくだろう。
10月4日に行われる自民党総裁選で仮に高市前経済安全保障担当相が選出されれば、金融緩和維持を主張する同氏は日本銀行の追加利上げを牽制し、結果として日本銀行の利上げが後ずれする可能性はあるだろう。
しかし、そうした国内政治要因は、この先の日本銀行の金融政策に影響を与える最大の要因ではない。最大となるのは第1の米国経済の行方だ。植田総裁、氷見野副総裁ともに、関税の影響はこれから顕在化する可能性が高いことを指摘した上で、特に米国経済への影響に注目している。
雇用統計など足もとで公表されている米国の労働市場関連の指標はにわかに下振れており、関税や移民規制、連邦職員削減などのトランプ政権の政策が経済に与える悪影響が確認できる。今後、米国経済が本格的な調整局面に陥れば、日本経済は景気後退局面に陥り、賃金、物価も下振れることになるだろう。米国経済は日本経済、物価、賃金にも大きな影響を与える先行指標である。
足もとでみられる米国の雇用情勢の下振れが、個人消費の低迷などを通じて本格的な景気悪化につながるかどうか、日本銀行はなお注視していくだろう。
FRBの利下げは日銀の利上げの制約要因に
第2のFRBの金融政策について、9月17日の米連邦公開市場委員会(FOMC)でFRBは6会合ぶりに利下げを再開した。FOMCの参加者及び金融市場は、年内2回の会合で連続利下げを予想している。さらに、金融市場はトランプ政権の介入によってFRBの利下げが過度に進む可能性を予想している。
FRBの利下げ再開が経済の下振れリスクを軽減するとの期待もあり、ドルは比較的安定を維持している。しかし、米国経済の下振れ傾向がより明らかになる中で利下げ観測が強まる場合、あるいは政治介入によって過度な利下げが進むとの観測が強まる場合には、ドル安傾向が強まることが予想される(コラム「政治圧力が高まる中でFRBが利下げを再開」、2025年9月18日)。
昨年、FRBが利下げを行った9月から12月の間は、日本銀行は利上げを実施しなかった。為替市場が比較的安定していれば、FRBが利下げを行う中でも日本銀行は利上げを実施できると考えられるが、FRBの利下げとともにドル安円高が急速に進む中では、それを加速させかねない利上げ実施を日本銀行は躊躇うだろう。急速な円高進行は、国内経済に大きな打撃となるためだ。
日本銀行の追加利上げには、このように3つの壁が立ちはだかっている。とりわけ、下振れ傾向を示す米国経済の動向を見極めるためにはなお時間が必要だ。この点から、今回の決定会合で政策金利の据え置きに反対する2名の政策委員が出てきたとはいえ、10月29・30日の次回金融政策決定会合で利上げが行われる可能性はなお高くなく、利上げ再開は今年12月になるとの従来通りの見方を維持したい。
FRBの利下げ再開が経済の下振れリスクを軽減するとの期待もあり、ドルは比較的安定を維持している。しかし、米国経済の下振れ傾向がより明らかになる中で利下げ観測が強まる場合、あるいは政治介入によって過度な利下げが進むとの観測が強まる場合には、ドル安傾向が強まることが予想される(コラム「政治圧力が高まる中でFRBが利下げを再開」、2025年9月18日)。
昨年、FRBが利下げを行った9月から12月の間は、日本銀行は利上げを実施しなかった。為替市場が比較的安定していれば、FRBが利下げを行う中でも日本銀行は利上げを実施できると考えられるが、FRBの利下げとともにドル安円高が急速に進む中では、それを加速させかねない利上げ実施を日本銀行は躊躇うだろう。急速な円高進行は、国内経済に大きな打撃となるためだ。
日本銀行の追加利上げには、このように3つの壁が立ちはだかっている。とりわけ、下振れ傾向を示す米国経済の動向を見極めるためにはなお時間が必要だ。この点から、今回の決定会合で政策金利の据え置きに反対する2名の政策委員が出てきたとはいえ、10月29・30日の次回金融政策決定会合で利上げが行われる可能性はなお高くなく、利上げ再開は今年12月になるとの従来通りの見方を維持したい。
プロフィール
-
木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。