&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

共和・民主両党の対立により米国は政府閉鎖に陥る

米国連邦議会は10月から始まる新会計年度の歳出を賄う「つなぎ予算」を成立させることができずに、米東部時間10月1日午前0時(日本時間13時)から政府機関の一部閉鎖が始まった。
 
トランプ米大統領は9月29日、共和党と民主党の合意に向けた最後の試みとして、共和党のスーン上院院内総務、ジョンソン下院議長、民主党のシューマー上院院内総務、ジェフリーズ下院院内総務と協議したが、打開の道は見出されなかった。
 
さらに民主党の上院議員らは、2025年末に失効する予定の医療保険補助の恒久的な延長を合意に盛り込むべきだと主張し、7週間のつなぎ予算の共和党案を再度否決した。一方で共和党議員らも、民主党の対案を否決した。共和党は上院では53対47で多数派を占めているが、共和党が議事妨害(フィリバスター)を回避して法案を可決するには、60票が必要となる。
 
政府閉鎖が経済、社会、そして金融市場に与える影響は、それがどの程度の期間続くかに大きく左右される。トランプ政権1期目の2018年12月から2019年1月に生じた前回の政府閉鎖は、35日間続いた。議会予算局(CBO)は、この政府閉鎖によってGDPが約110億ドル減少し、そのうち30億ドルは恒久的に失われたと試算した。またそれは、2018年10-12月期のGDPを前期比0.1%、2019年1-3月期のGDPを前期比0.2%、それぞれ押し下げたと試算した。
 
今回、仮に、この時と同様に政府閉鎖が35日間続く場合には、10-12月期の実質GDPは前期比年率0.6%下振れる計算となる(コラム「米国政府閉鎖の期限が近づき経済・金融市場への悪影響が懸念される:前回と同期間の政府閉鎖で10-12月期実質GDPは前期比年率0.6%下振れる計算」、2025年9月30日)。

連邦職員の解雇が行われる可能性も

CBOは9月30日に、政府機関の閉鎖により約75万人の連邦職員が一時帰休となる可能性があるとした。これは2025年3月時点の連邦政府職員の総数(軍人、郵便職員などを除く)約230万人の3分の1弱に相当する。すべての政府職員は通常の場合には給与を後日受け取るが、契約職員についてはそうならない可能性もある。前回の政府閉鎖では、約80万人の連邦職員が自宅待機となった。
 
ただし、今回の政府閉鎖では連邦職員の一時帰休ではなく同時に解雇が行われる可能性があり、その場合には経済活動への影響は大きくなる点には注意が必要だ。
 
トランプ大統領は、「われわれは閉鎖中に、彼らにとって取り返しのつかない悪いことを行うことができる」と「つなぎ予算」の成立を阻む民主党を脅している。これは、連邦職員の大量解雇と政府機能の縮小を意味していると考えられる。
 
9月24日に米行政管理予算局(OMB)が連邦政府機関に出した通知では、「人員の削減(解雇)を検討するために、この機会を利用すべきだ」とし、連邦職員の解雇を促している。
 
仮に連邦職員が10万人解雇され、その給与総額分だけ付加価値が失われるとして計算すると(連邦職員の平均年収はオレゴン州ポートランドを例に約8.5万ドル)、10-12月期の実質GDPはさらに前期比年率換算で0.4%程度押し下げられ、合計の押し下げ効果が1.0%程度となる計算だ(政府閉鎖が35日間続く場合)。

雇用統計発表延期で金融市場の不確実性が高まる

同時に連邦職員の解雇が実施されれば、今回の政府閉鎖がもたらす経済への悪影響は、従来以上に大きくなる可能性がある。足もとで米国の雇用情勢が変調を見せる中、それは金融市場にとって懸念材料だ。
 
さらに金融市場が懸念しているのは、政府閉鎖によって重要な経済指標の発表が遅れることだ。それは、経済情勢の把握を妨げることで金融政策の見通しの不確実性を高め、金融市場を不安定化させる。
 
政府閉鎖によって雇用統計などを発表する米労働統計局(BLS)は業務を停止し、データ収集・処理・公表が中断される。「閉鎖が実施されれば、雇用統計を含む経済統計の発表は延期される可能性が高い」と米労働省は事前に正式に発表しており、実際にそうなる可能性が高い。
 
このまま雇用統計などの公式統計の発表が遅れれば、10月末の米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策判断に大きな混乱が生じる可能性もでてくる。さらに、米国経済とFRBの金融政策に大きく左右される日本銀行の金融政策判断にも不確実性が高まるだろう。米国の政府閉鎖は、世界の金融市場の不確実性を高めている。
 
(参考資料)
“Government Heads for Shutdown as Rival Votes Fail in Senate(米政府機関閉鎖へ、上院が民主・共和各案を否決)”, Wall Street Journal, October 1, 2025
「米政府閉鎖で何が起こるのか?」、2025年10月1日、NIKKEI FT the World

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。