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週明けの東京市場では大幅株高・円安が進む

10月4日に高市氏が自民党新総裁に選出されたことを受け、週明けの6日の東京市場は大きく動いている。日経平均株価は前週比2000円近くの大幅高となり、ドル円レートは前週末の1ドル147円台から150円直前までの大幅円安となっている。
 
株式市場が大幅高となっているのは、高市氏が掲げる政府による投資拡大や各種減税策が短期的な経済にはプラスになる、との期待があるためだ。さらに、円安進行も株式市場に追い風となる。高市氏は日本銀行に金融緩和の継続を求める考えであり、低金利持続への期待から、為替市場では円安が進みやすい。さらに、積極財政による財政環境悪化が通貨価値を損ねるとの懸念から、「悪い円安」が進む可能性がある。積極財政を志向する高市氏の勝利を受けて、債券価格は低下し、長期金利は上昇するだろう。財政リスクを映しやすい超長期ゾーンの金利には特に上昇圧力がかかりやすい。
 
高市氏の勝利を受けて1か月程度の間に、日経平均株価は最大で4万9000円までの株高、ドル円レートは最大で155円程度までの円安、10年国債利回りは最大で1.9%までの上昇を見込んでおきたい(コラム「自民党総裁選(15):候補者の財政・金融政策スタンスと選挙後の金融市場の見通し」、2025年10月2日)。

国民民主党との連立期待が高まればさらに株高・円安へ

金融市場の次の関心は、野党との連携及び連立の動きだ。そうした観測が交差するなか、金融市場は一方向ではなく不安定な動きを続けそうだ。
 
高市総裁は、臨時国会での首班指名までには野党との連立協議を進めたいとの考えを示している。連立相手として現時点で最も有力なのは国民民主党であり、国民民主党との間で連立を拡大させるとの観測が強まれば、高市氏が掲げる積極財政、金融緩和の政策姿勢は増幅され、株高・円安・債券安傾向は一段と強まる可能性があるだろう。
 
ただし、円安進行は物価高を通じて経済や国民生活にいずれマイナスに働く可能性がある。財政リスクの高まりを映した長期金利の上昇も、経済活動を損ねる。こうした点が意識され始めれば、株高の動きは一巡することが予想される。

高市氏の政策に2つの歯止め

高市氏の政策に歯止めをかける要素がある点にも注目したい。第1は公明党の政策だ。公明党は外交・安全保障政策面での高市氏の保守性の強い政策姿勢を警戒している。公明党は連立解消の可能性もちらつかせながら、高市氏の保守性の強い政策を牽制することが予想される。
 
第2に、経済政策面では、財政健全化や日本銀行の独立性を尊重する姿勢である麻生氏の影響力だ。総裁選の決戦で麻生派は高市氏を支持したとされ、高市氏は今後も麻生氏の強い影響力を受けやすい。高市氏が麻生氏を副総裁に、麻生派の鈴木俊一氏を党幹事長に指名するとの観測がある。鈴木氏は財務大臣の際にも財政健全化重視の姿勢が強かった。こうした麻生氏の強い影響力が、高市氏の積極財政、金融緩和色の強い政策に一定程度歯止めをかける可能性があるだろう。

日本銀行は麻生氏に期待か

日本銀行は、高市総裁から利上げを封じ込められる可能性を強く警戒している。高市政権が成立すれば、政府と日本銀行の共同声明(アコード)に沿って、日本銀行は2%の物価目標達成を目指す独自の金融政策を進めていることや、現時点では2%の物価目標は達成していないことから、金融緩和状態は今後も維持され、高市氏が警戒する利上げによる景気悪化は生じないことなどを、高市氏に伝えるのではないか。
 
その際に、日本銀行は日本銀行の独立性に理解を持っているとされる麻生氏を通じて高市氏を説得し、日本銀行の独立性を維持できるように働きかける可能性があるのではないか。
 
高市氏の出方を見極めるため、あるいは水面下で交渉するには一定の時間を要することから、10月の金融政策決定会合では追加利上げは見送られる可能性が高い。ただし、日本銀行内には引き続き利上げを進めることを支持する意見があることをアピールする観点から、前回の会合で追加利上げを主張した2名の政策委員が次回会合でも引き続き追加利上げを主張することを、執行部はむしろ期待するかもしれない。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。