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10日に行われていた自民党と公明党の連立を巡る党首会談で、公明党の斎藤代表は、「政治とカネの問題」への対応について十分な回答を得られなかったとして、連立から離脱することを決めた(コラム「公明党の連立離脱観測で巻き戻される高市トレード」、2025年10月10日)。これを受けて、今後の政権の枠組みには不確実性が大きく高まっている。臨時国会での首班指名において、公明党は自民党の高市総裁を支持せず、斎藤代表に票を投じる方針を示した。
 
今後のシナリオは、第1に、自民党が議席をさらに減らした状態で少数与党を維持する、第2に、国民民主党、日本維新の会など野党の一部を連立に組み入れる形で自民党が少数与党を維持する、第3に、複数の野党を連立に組み入れることで、衆院で与党が過半数の議席を回復する、第4に、立憲民主党、国民民主党、日本維新の会の現在の野党3党を中核とする新たな連立政権が生まれる、の4つが考えられる。第3のシナリオに基づいて誕生する高市政権が最も安定すると考えられるが、実際には、第1のシナリオ、第4のシナリオが最も可能性が高いのではないか。
 
第1のシナリオのもとでは、自民党の政権運営はより不安定となり、高市氏が掲げる積極財政や金融緩和の継続などの政策は、実行可能性が低下せざるを得ない。第4のシナリオでは自民党が野党になることから、高市氏の政策はほぼ実現しなくなる。
 
週初からの円安・株高は高市政権の成立を前提としたものだった。今後のシナリオはなお不確実であるが、仮に第1のシナリオとなっても、高市カラーが弱まることは避けられない。このため、金融市場では、当面、「高市トレード」の巻き戻しが避けられないだろう。
 
公明党の連立離脱の報道を受けて、10日に4万8000円程度で引けた日経平均株価の先物は16時30分時点で4万7000円台半ば程度まで急落している。仮に野党連立政権が成立しても、石破政権よりは積極財政政策が実施されるとの期待は残るため、日経平均株価は、高市総裁誕生前の4万4000円台、石破首相が退陣を表明した直前の4万2000円台までは完全に巻き戻されることはないだろう。来週初めの日経平均株価は4万5000円台~4万6000円台までの低下が予想される。それ以降は、政治情勢を見極めて不安定な展開となるだろう。
 
仮に現在の野党による新たな連立政権が成立しても、政策理念が異なる寄せ集めとなることから、政権運営は安定しない可能性が高い。いずれのシナリオのもとでも政権運営はより困難を極めることになるだろう。こうした不安定かつ不透明な政治情勢は、株価など金融市場の不安定化につながるものだ。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。