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投資計画の企業と事業規模の見積り

トランプ米大統領の訪日にあわせ、日米関税協議で合意された5500億ドル(80兆円)の対米投資計画について、日米両政府は投資に関心を示す企業名を公表した(共同ファクトシート)。
 
まだ投資の実施を確定していない企業名を公表し、その事業規模の総額(投資、売上等)の見積もりまで開示するのは、今までトランプ大統領が行ってきたやり方だ。
 
具体的な企業名と事業規模の見積りは以下の通りである。
 
1)エネルギー分野
・Westinghouse (最大1000億ドル)
・GEベルノバ日立(最大1000億ドル)
・ベクテル(最大250億ドル)
・キーウィット(最大250億ドル)
・GEベルノバ(最大250億ドル)
・ソフトバンクグループ(最大250億ドル)
・キャリア(最大200億ドル)
・キンダー・モーガン(最大70億ドル)
 
2)AI向け電源開発
・ニュースケール/ENTRA1 エナジー
 
3)AIインフラの強化
・東芝
・日立製作所
・三菱電機(最大300億ドル)
・フジクラ
・TDK
・村田製作所(最大150億ドル)
・パナソニック(最大150億ドル)
 
4)重要鉱物等
・ファルコン・カッパー(20億ドル)
・カーボン・ホールディングス(最大30億ドル)
・エレメントシックス・ホールディングス(5億ドル)
・マックスエナジー(6億ドル)
・ミトラケム(3.5億ドル)
 
この共同ファクトシートで示された企業は、4分野合計21社、そのうち日本企業は3)AIインフラの強化の分野に集中しているが、全体の3分の1程度であり、米国企業主導のプロジェクトとなっている。各社が示す事業規模予定額(最大値を含む)は単純に合計して3934.5億ドル(約60兆円)と、5500億ドルの投資計画の既に71.5%に達している。

大きな問題を残す5500億ドルの投資計画

米国での投資計画は、当初、日本政府が日本企業による対米投資計画として米国側に提示したものだ。日本企業の投資によって雇用が増加するなど、米国側にも利益があるWin-Winの枠組みとの説明だった。
 
ところが、日米関税交渉の中で、最終的には米国主導の枠組みとなってしまった(コラム「日米合意の投資に関する覚書:米国優位の不平等な取り決めに」、2025年9月5日)。
 
投資計画の最終決定が米大統領に委ねられる点、日本企業を支援する日本の政府系金融機関が資金を出資、融資、融資保証の形で提供する枠組みに、米国企業が参加すること、米国政府が投資から得られる収益を得ること、など、米国主導で日本にとっては不平等な取り決めになってしまったのである。
 
また、投資対象は日米が協調する経済安全保障分野とすることで、日本の国益にもよりかなうもの、とされたが、実際には米国の製造業の復活と拡大に資する枠組み、というのが米国政府の思惑だろう。
 
訪日しているラトニック商務長官は、日本経済新聞のインタビューで、第1号の案件は電力分野であり、年内にも決まるとの見通しを示している。投資計画は、順調にスタートする兆しを見せてはいるが、投資計画が日本にとって不平等なものであり、それが日本の国益を損ねていないかについては、今後もしっかりと検証を続けていく必要がある。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。