2%の物価目標を持続的に達成する確度が高まっている
10月30日に開かれた金融政策決定会合で、日本銀行は政策金利の維持を決めた。その後に開かれた植田総裁の記者会見では、日本銀行が利上げを再開するタイミングを推し量る質問が相次いだ。これに対して植田総裁は、次回の利上げ時期についての明確な材料は示さなかった。
今回利上げを見送った理由として植田総裁は、関税政策を受けた海外経済の不確実性とそれが日本経済・物価に与える影響をまだ見極める必要があるため、と説明した。
しかし一方で、今回の展望レポートで成長率、物価の見通しが前回7月と比べてほとんど変わっていない点を挙げ、実際の経済動向が日本銀行の見通しに沿って動いており、2%の物価目標を持続的に達成する確度が高まっていることの証左、と説明している。これは、12月など近い将来に利上げを再開する可能性が比較的高いことを示しているだろう。
今回利上げを見送った理由として植田総裁は、関税政策を受けた海外経済の不確実性とそれが日本経済・物価に与える影響をまだ見極める必要があるため、と説明した。
しかし一方で、今回の展望レポートで成長率、物価の見通しが前回7月と比べてほとんど変わっていない点を挙げ、実際の経済動向が日本銀行の見通しに沿って動いており、2%の物価目標を持続的に達成する確度が高まっていることの証左、と説明している。これは、12月など近い将来に利上げを再開する可能性が比較的高いことを示しているだろう。
春闘の初動のモメンタムを知りたい
また、従来、総裁が注目してきた米国経済については、関税の影響による下方リスクは低下しているとの認識を示す一方、関税の影響が日本の賃金に与える影響について、もう少しデータを見たいと説明した。
日本銀行は、今まで一貫して賃金の上昇が、物価と賃金の好循環を通じて2%の物価目標の持続的な達成を可能にするための鍵である、との見方を示してきた。春闘に注目するとしながらも、実際の利上げの時期は2023年には3月、2025年には1月とずれがある。春闘の動きを注目する場合、いつまでに入手されるデータを参考に金融政策を決めるのか、というのが記者会見での記者の大きな関心事と思われた。
植田総裁は、実際の春闘での賃金の妥結を見るまで金融政策を決められないのではなく、春闘の初動のモメンタムを知りたい、と説明している。この点から、日本銀行が3月に大企業の春闘での賃上げ妥結を確認してから利上げに動く可能性は低く、次回利上げの時期は今年の12月か来年1月に絞られてきたと考えられる。
日本銀行は、今まで一貫して賃金の上昇が、物価と賃金の好循環を通じて2%の物価目標の持続的な達成を可能にするための鍵である、との見方を示してきた。春闘に注目するとしながらも、実際の利上げの時期は2023年には3月、2025年には1月とずれがある。春闘の動きを注目する場合、いつまでに入手されるデータを参考に金融政策を決めるのか、というのが記者会見での記者の大きな関心事と思われた。
植田総裁は、実際の春闘での賃金の妥結を見るまで金融政策を決められないのではなく、春闘の初動のモメンタムを知りたい、と説明している。この点から、日本銀行が3月に大企業の春闘での賃上げ妥結を確認してから利上げに動く可能性は低く、次回利上げの時期は今年の12月か来年1月に絞られてきたと考えられる。
独立性を巡って高市首相と対峙する日本銀行
今回の会合で日本銀行が追加利上げを見送った真の理由は、日本銀行の利上げをけん制する高市政権との対立を避けることだった、と推察される。
高市政権の金融政策に関する姿勢について、植田総裁は直接的な言及は避けた。ただし、日本銀行法第3条第1項で「日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない」、第5条第2項で「日本銀行の業務運営における自主性は、十分配慮されなければならない」とされている点を踏まえ、日本銀行法で日本銀行の独立は担保されていることを改めて強調した。
高市首相は、日本銀行法第4条で、金融政策が「政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」とされている点を踏まえて、金融政策は日本銀行が単独で決めるのではなく、政府が金融政策決定にまで責任を持つべき、との考えを示している。
これに対して、植田総裁は記者会見で、様々な場で日本銀行は政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図っていると主張している。法律が求めるこの条件を満たしたうえで、最終的に時期や手段を含めた金融政策の決定を行うのは日本銀行であることを、高市首相に対して暗にアピールしたようにも聞こえた。
高市政権の金融政策に関する姿勢について、植田総裁は直接的な言及は避けた。ただし、日本銀行法第3条第1項で「日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない」、第5条第2項で「日本銀行の業務運営における自主性は、十分配慮されなければならない」とされている点を踏まえ、日本銀行法で日本銀行の独立は担保されていることを改めて強調した。
高市首相は、日本銀行法第4条で、金融政策が「政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」とされている点を踏まえて、金融政策は日本銀行が単独で決めるのではなく、政府が金融政策決定にまで責任を持つべき、との考えを示している。
これに対して、植田総裁は記者会見で、様々な場で日本銀行は政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図っていると主張している。法律が求めるこの条件を満たしたうえで、最終的に時期や手段を含めた金融政策の決定を行うのは日本銀行であることを、高市首相に対して暗にアピールしたようにも聞こえた。
利上げは12月か
日本銀行と高市首相との直接的な対話はまだ始まっていない可能性が考えられるが、独立性確保に向けた日本銀行の高市首相への働きかけはこれから本格化するだろう。
高市首相の政策姿勢に影響を与え得るトランプ米政権、日本維新の会、麻生派がいずれも日本銀行の独立性を尊重する基本姿勢である中、高市首相の日本銀行への介入姿勢は次第に後退していくことが予想される(コラム「高市政権と対峙する日本銀行:12月には利上げ再開の見通し」、2025年10月30日)。その結果、次回12月の決定会合では、日本銀行が利上げを再開する環境は整うことになるのではないか。
高市首相の政策姿勢に影響を与え得るトランプ米政権、日本維新の会、麻生派がいずれも日本銀行の独立性を尊重する基本姿勢である中、高市首相の日本銀行への介入姿勢は次第に後退していくことが予想される(コラム「高市政権と対峙する日本銀行:12月には利上げ再開の見通し」、2025年10月30日)。その結果、次回12月の決定会合では、日本銀行が利上げを再開する環境は整うことになるのではないか。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。