PB黒字化目標の修正は来年6月ごろの2026年骨太の方針まで先送り
高市首相は11月7日の衆院予算委員会で、「単年度ごとのプライマリーバランス(PB)黒字化目標の達成状況を見ていくのではなく、数年単位でバランスを確認する」と目標を柔軟化する方針を示した。PB黒字化目標の達成状況を毎年度の予算編成などで確認する従来の方法を「取り下げる」と表明した(コラム「プライマリーバランス単年度黒字化目標の取り下げは財政健全化方針の転換か」、2025年11月10日)。
高市首相は10日の衆院予算委員会で、「(従来のPB黒字化目標を)直ちに反故にするということではない」「すでに閣議決定したものを破棄することはない」とし、新たな目標は「今後の考え方、検討事項」と説明した。
さらに、新たな目標については、来年6月ごろに策定する2026年の骨太の方針に向けて「より明確化していきたい」と述べた。この発言は、PB黒字化目標の従来の方法を取り下げるとした、先週の発言をトーンダウンさせたと言えるのではないか。
高市首相は10日の衆院予算委員会で、「(従来のPB黒字化目標を)直ちに反故にするということではない」「すでに閣議決定したものを破棄することはない」とし、新たな目標は「今後の考え方、検討事項」と説明した。
さらに、新たな目標については、来年6月ごろに策定する2026年の骨太の方針に向けて「より明確化していきたい」と述べた。この発言は、PB黒字化目標の従来の方法を取り下げるとした、先週の発言をトーンダウンさせたと言えるのではないか。
経済対策は従来のPB黒字化目標の制約を受ける
現時点で単年度ごとのPB黒字化目標を維持するのであれば、今国会における経済対策の策定も、その目標を踏まえて行われることを意味し、規模の拡大が一定程度制約される。現在の方針は、2025年度~2026年度にPB黒字化を目指すというものだ。経済対策の実施によって、この目標達成が難しくなる場合には、高市政権には説明責任が発生する。
ただし、内閣府が中期のPBの予測値を示すのは来年1月であり、それまでは、経済対策実施後も2025年度~2026年度にPB黒字化は達成できる、と強弁を続けることは可能だ。しかし実際には、PB黒字化達成はさらに大きく遠のくだろう。IMFは2030年時点でも日本のPBのGDP比は3%程度の赤字を維持すると予想している。
ただし、内閣府が中期のPBの予測値を示すのは来年1月であり、それまでは、経済対策実施後も2025年度~2026年度にPB黒字化は達成できる、と強弁を続けることは可能だ。しかし実際には、PB黒字化達成はさらに大きく遠のくだろう。IMFは2030年時点でも日本のPBのGDP比は3%程度の赤字を維持すると予想している。
安易に目標を修正するのではなくPB黒字化をまずは達成する必要がある
自民党の中の保守派は、PBの黒字化目標が機動的な財政政策の障害になっているとして、目標をPBの黒字化から政府債務のGDP比率に変えることを主張してきた。高市首相も総裁選では、財政健全化の目標を、金融資産を除いた政府純債務のGDP比率にすることを主張していた。即座にPBの黒字化目標を放棄しないことは、目標変更に向けた高市首相の姿勢もややトーンダウンしてきているとみることができる。
保守派が、PB黒字化目標を政府債務残高のGDP比率目標に変えることを主張してきたのは、同比率が足元で頭打ちからやや低下を示していたからだ。しかしそれは、物価高騰によって分母の名目GDPが大幅に上昇する一方、分子の政府債務残高に影響を与える国債の金利水準が日本銀行の異例の金融緩和によって低位に抑えられていたため生じた一時的な現象だ。日本銀行の金融政策の正常化が進む中では、PB黒字化が達成できない限り、政府債務残高のGDP比率も上昇していく。
また、高市首相が掲げる政府純債務残高のGDP比率は、その水準が政府債務残高のGDP比率よりも低くなり、さらに他国と比べた場合の日本の高さの突出感がやや弱まる。しかし、他国と比べて非常に高い水準であることには変わりなく、PB黒字化が達成できない限り、同比率もやはり今後上昇していく。
安易に目標を修正するのではなく、財政健全化の一里塚であるPB黒字化をまずは達成する必要がある。
保守派が、PB黒字化目標を政府債務残高のGDP比率目標に変えることを主張してきたのは、同比率が足元で頭打ちからやや低下を示していたからだ。しかしそれは、物価高騰によって分母の名目GDPが大幅に上昇する一方、分子の政府債務残高に影響を与える国債の金利水準が日本銀行の異例の金融緩和によって低位に抑えられていたため生じた一時的な現象だ。日本銀行の金融政策の正常化が進む中では、PB黒字化が達成できない限り、政府債務残高のGDP比率も上昇していく。
また、高市首相が掲げる政府純債務残高のGDP比率は、その水準が政府債務残高のGDP比率よりも低くなり、さらに他国と比べた場合の日本の高さの突出感がやや弱まる。しかし、他国と比べて非常に高い水準であることには変わりなく、PB黒字化が達成できない限り、同比率もやはり今後上昇していく。
安易に目標を修正するのではなく、財政健全化の一里塚であるPB黒字化をまずは達成する必要がある。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。