年収の壁を168万円まで引き上げ
政府の経済対策の裏付けとなる2025年度補正予算案は、11日に衆院本会議で可決された。与党が議席の過半数を持たない参院でも、国民民主党など野党の協力のもとで可決される見通しであり、17日までの会期内に補正予算が成立することがほぼ確実となった。
そうしたなか、経済政策の注目は2026年度税制改正へと移っている。年収の壁対策、所得税制度の見直しについては、160万円としている現行の課税最低限を168万円に引き上げる方針を政府・与党は固めたとされる。
直近2年間の消費者物価指数の上昇率を基に、最低限の生活費に課税しない「基礎控除」と、会社員らが対象の「給与所得控除」の最低保障額を、それぞれ引き上げる(コラム「補正予算は会期内成立へ:年収の壁対策で所得税基礎控除の物価連動化の議論が進む」、2025年12月11日)。引き上げ幅は年収によって異なり、年収200万円未満の人の場合は、現行の160万円より8万円増えて168万円となる。
課税最低限が一定額のもとでは、物価上昇時に実質増税となってしまう。課税最低限を物価連動とすることで、そうしたリスクを軽減することは重要なことだ。さらに、税率区分についても、物価連動を検討すべきだろう。
自公が決めた160万円への引き上げ時の影響では、減税額は1人あたり年間2万~3万円程度、対象者は約4,600万人とされた。そして税収減は年間1.2兆円であった。
ここから推定すると、168万円への引き上げでの税収減は、大まかに数千億円規模になると推測される。仮に国民民主党が求める所得制限なしでの178万円までの引き上げを行う場合には、6~7兆円程度の税収減になる可能性があり、それと比べると格段に税収減の規模を抑え、財政の悪化を抑えることができる点は評価したい。ただし、国民民主党がこの案を受け入れるかどうかは不確実だ。
そうしたなか、経済政策の注目は2026年度税制改正へと移っている。年収の壁対策、所得税制度の見直しについては、160万円としている現行の課税最低限を168万円に引き上げる方針を政府・与党は固めたとされる。
直近2年間の消費者物価指数の上昇率を基に、最低限の生活費に課税しない「基礎控除」と、会社員らが対象の「給与所得控除」の最低保障額を、それぞれ引き上げる(コラム「補正予算は会期内成立へ:年収の壁対策で所得税基礎控除の物価連動化の議論が進む」、2025年12月11日)。引き上げ幅は年収によって異なり、年収200万円未満の人の場合は、現行の160万円より8万円増えて168万円となる。
課税最低限が一定額のもとでは、物価上昇時に実質増税となってしまう。課税最低限を物価連動とすることで、そうしたリスクを軽減することは重要なことだ。さらに、税率区分についても、物価連動を検討すべきだろう。
自公が決めた160万円への引き上げ時の影響では、減税額は1人あたり年間2万~3万円程度、対象者は約4,600万人とされた。そして税収減は年間1.2兆円であった。
ここから推定すると、168万円への引き上げでの税収減は、大まかに数千億円規模になると推測される。仮に国民民主党が求める所得制限なしでの178万円までの引き上げを行う場合には、6~7兆円程度の税収減になる可能性があり、それと比べると格段に税収減の規模を抑え、財政の悪化を抑えることができる点は評価したい。ただし、国民民主党がこの案を受け入れるかどうかは不確実だ。
「1億円の壁」対策で超富裕者層への課税強化
給与所得については、所得税と住民税を合わせて最高税率が55%である一方、株式の売却益など金融所得は税率が一律20%となっている。このため、金融所得の割合が多い富裕層ほど税負担率が低くなっていた。
財務省によると、給与所得や金融所得などを合わせた年間所得が5,000万~1億円の人の所得税負担率は平均25.9%だが、10億~20億円の人は20.1%に下がる。年間所得1億円程度を境に税負担が低下することから、「1億円の壁」として問題視されてきた。
そこで、2026年度税制改正では、超富裕層に追加の税負担を課す年間所得の目安を、現行の約30億円から約6億円に引き下げることが検討されている。確保した税収は、与野党で合意したガソリンの旧暫定税率廃止の財源にあてられる。
財務省によると、給与所得や金融所得などを合わせた年間所得が5,000万~1億円の人の所得税負担率は平均25.9%だが、10億~20億円の人は20.1%に下がる。年間所得1億円程度を境に税負担が低下することから、「1億円の壁」として問題視されてきた。
そこで、2026年度税制改正では、超富裕層に追加の税負担を課す年間所得の目安を、現行の約30億円から約6億円に引き下げることが検討されている。確保した税収は、与野党で合意したガソリンの旧暫定税率廃止の財源にあてられる。
NISAつみたて枠を18歳未満に解禁
政府・与党は少額投資非課税制度(NISA)を拡充し、投資信託を定期的に積み立てる「つみたて投資枠」を18歳未満にも解禁する。年間60万円まで投資でき、総額は600万円までとする方向だ。親世代が勝手に使ってしまうことを防ぐために、積み立てた分は12歳以上にならないと引き出せない仕組みとする。
NISA口座数は2025年6月末時点で約2,700万口座であるが、2027年末までに3,400万口座という政府目標を達成するためには、口座開設率の低い若年層や高齢者層への普及が課題となっている。このことが今回の制度見直しの背景にある。
また同じく金融資産投資に関連して、政府・与党は暗号資産(仮想通貨)取引で得た所得について、金額に関係なく一律で20%の税を課すことを検討している。株式や投資信託など他の金融商品と同等の税制上の優遇措置となる。それを通じて、暗号資産の取引を活性化させる狙いがある。
NISA口座数は2025年6月末時点で約2,700万口座であるが、2027年末までに3,400万口座という政府目標を達成するためには、口座開設率の低い若年層や高齢者層への普及が課題となっている。このことが今回の制度見直しの背景にある。
また同じく金融資産投資に関連して、政府・与党は暗号資産(仮想通貨)取引で得た所得について、金額に関係なく一律で20%の税を課すことを検討している。株式や投資信託など他の金融商品と同等の税制上の優遇措置となる。それを通じて、暗号資産の取引を活性化させる狙いがある。
投資促進減税の創設へ
政府は、経済対策の中で投資促進減税を導入することを発表した。それは、与党の2026年度税制改正大綱に盛り込まれる見通しだ。企業の投資を促すため、投資の規模や収益性の条件を満たせば、投資額の7%を法人税額から差し引く税額控除を設ける。すべての業種を対象とする。
さらに政府・与党は、AIや量子といった先端分野の研究開発をする企業の減税を上乗せする新たな仕組みを設ける。現行税制よりもさらに大きな税優遇を想定する。研究段階では収益化が見通しにくい先端技術の育成を後押しする。
政府は日本版DOGEを通じて、無駄な租税優遇措置を削減することも検討している。従来の租税優遇措置は、大企業の節税に利用される一方、実際に企業の活動を活性化する効果は十分発揮されないものもあったと考えられる。
その代表例が賃上げ促進税制であり、賃上げを実施する余裕がある大企業がその制度を利用して節税する一方、多くの赤字企業は利用できず、中小零細企業の賃上げを促す効果は発揮できなかった。そこで、政府・与党が従業員の賃金を上げた企業の法人税負担を減らす賃上げ促進税制の対象から大企業について除外する案を検討していることがわかった。投資促進減税や新たな研究開発減税についても、大企業の節税対策に終わることがないように、要件などを厳しく定めておく必要があるだろう。
(参考資料)
「18歳未満のNISA、積み立て上限600万円」、2025年12月10日、日本経済新聞
「「超富裕層」への追加課税、対象の目安は「年間所得6億円」に引き下げで最終調整…27年からの適用目指す」、2025年12月11日、読売新聞速報ニュース
「住宅ローン減税やNISAどう変わる? 2026年度税制改正の最新情報」、2025年12月11日、日本経済新聞電子版
「「年収の壁」、政府・与党が168万円に引き上げ方針」、2025年12月11日、毎日新聞速報ニュース
さらに政府・与党は、AIや量子といった先端分野の研究開発をする企業の減税を上乗せする新たな仕組みを設ける。現行税制よりもさらに大きな税優遇を想定する。研究段階では収益化が見通しにくい先端技術の育成を後押しする。
政府は日本版DOGEを通じて、無駄な租税優遇措置を削減することも検討している。従来の租税優遇措置は、大企業の節税に利用される一方、実際に企業の活動を活性化する効果は十分発揮されないものもあったと考えられる。
その代表例が賃上げ促進税制であり、賃上げを実施する余裕がある大企業がその制度を利用して節税する一方、多くの赤字企業は利用できず、中小零細企業の賃上げを促す効果は発揮できなかった。そこで、政府・与党が従業員の賃金を上げた企業の法人税負担を減らす賃上げ促進税制の対象から大企業について除外する案を検討していることがわかった。投資促進減税や新たな研究開発減税についても、大企業の節税対策に終わることがないように、要件などを厳しく定めておく必要があるだろう。
(参考資料)
「18歳未満のNISA、積み立て上限600万円」、2025年12月10日、日本経済新聞
「「超富裕層」への追加課税、対象の目安は「年間所得6億円」に引き下げで最終調整…27年からの適用目指す」、2025年12月11日、読売新聞速報ニュース
「住宅ローン減税やNISAどう変わる? 2026年度税制改正の最新情報」、2025年12月11日、日本経済新聞電子版
「「年収の壁」、政府・与党が168万円に引き上げ方針」、2025年12月11日、毎日新聞速報ニュース
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。