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一般会計総額は122兆円台との報道:概算要求から減額されない異例の事態

政府は26日に2026年度予算案を閣議決定する予定だ。一般会計の総額は、今年度当初予算の115兆1,978億円を上回り、120兆円を超えて過去最大となる見通しだ。22日には各メディアは、一般会計総額は122兆円台、新規国債発行は2025年度当初予算の28.2兆円を超える見込み、と報じている。
 
2025年度の各省庁の概算要求総額は117兆6,059億円で、最終的な予算規模は折衝を経て約2.4兆円削減された。一方、今年8月に示された2026年度の概算要求総額は、約122兆4,454億円だった。報道によれば、最終的な予算規模はこれとほぼ同額になるが、そうなれば、概算要求総額から削減されない異例の規模となる可能性がある。そうした事態は、積極財政を掲げる高市政権の発足によって生じるものと言えるだろう。

自然体で増加する予算額は5.5兆円程度と推定

調整が難しく自然体では相応に増えてしまうのは、高齢化などを映した社会保障費、国債発行残高の増加による国債の利払いと元本の償還に充てる費用である国債費の増加、そして国の税収の一定割合が回る地方交付税等の3つである。
 
2026年度の社会保障費が、2025年度当初予算までの過去4年間の平均増加額だけ増えるとすると、0.9兆円の増加となる。国債費は2026年度に2.0兆円程度の増加が見込まれる。また、物価高による国の税収増加によって、2026年度の地方交付税等は、最大で2.1兆円程度増加することが見込まれる。これらを合計すると5.0兆円程度となる。
 
また、国債費、社会保障費、地方交付税等を除く歳出額は、2025年度当初予算で29.8兆円である。この部分について、物価上昇分は歳出が増えるのは自然と考えることができる。日本銀行の展望レポート(2025年10月)によると、2026年度の消費者物価(除く生鮮食品)は+1.8%であるが、これを用いると、物価上昇による歳出増加は0.5兆円となる。
 
以上の合計である5.5兆円程度は、財政拡張的な政策、財政抑制的な政策がともにない場合の、自然体での一般会計総額の前年度比増加分の試算値となる。

防衛費の増額に不確実性残る

今年度当初予算の115.2兆円にこの5.5兆円を足すと、120.7兆円となる。来年度予算案では、これを上回る部分が、高市政権の積極財政政策を映す部分、いわば高市カラーとみなすことができるだろう。一般会計総額が現時点で報道されている122兆円程度になるとすれば、120.7兆円との差である1.3兆円程度が高市カラーを反映する部分となる。
 
ところで、2026年度の診療報酬は、本体部分で3.09%の引き上げとなる予定だ。これは高市首相が主導した政策だ。薬価部分の引き下げを合わせても2024年度以来14年ぶりのプラスとなる見込みだ。合計の改定率を2%と仮定すると、来年度の一般歳出額はその分2,400億円増加する。
 
また、共同通信によると、経済産業省の2026年度当初予算案の総額が、2025年度当初予算比49.5%増の3兆693億円となる見通しだ。これは、高市政権の目玉政策である危機管理投資に対応するのではないか。この数字には特別会計も含まれるが、一般会計ベースでも相当規模になるだろう。1兆円程度の歳出増加になると予想する。
 
さらに大きな不確実性があるのは防衛費ではないか。2025年度補正予算で、防衛費(関連費を含む)は名目GDPの2%に達した。仮に米国政府が求めるGDP比3.5%の目標達成の5か年計画が作られる場合、防衛費は2026年度予算から毎年約1.8兆円ずつ積み増されることになる。

一般会計総額が122兆円からさらに積み増されると金融市場の混乱は深まる

以上の3項目を加えると、2026年度予算の一般会計総額は、自然体の120.7兆円程度から124兆円程度となる計算だ。

この点から、実際の一般会計総額が現時点で報道されている122兆円台となるのであれば、防衛費を大きく増額しない、他の歳出を抑制するなど、積極財政の基本姿勢の中でも、一定程度は予算規模の拡大を抑える取り組みを高市政権が行っていることを示唆するものと考えられる。

そして一般歳出の規模が122兆円台であれば、22日に2.1%台に乗せた債券市場が既に想定している範囲内にとどまるだろう。しかし、仮に一般会計総額の規模が122兆円台から125兆円前後あるいはそれ以上へとさらに積み増されていけば、長期金利は大幅に上昇し、既に危機モードにある債券市場の混乱は一層深まるだろう。

11月末の補正予算案の策定時には、1週間程度の間にその規模が急速に膨らんでいった。同様のことが生じることを、金融市場は強く警戒しているのではないか。予算規模のさらなる拡大で円安・債券安が一段と進めば、経済、国民生活への悪影響もかなり懸念される状況となる(コラム「10年国債金利が2.1%まで上昇:財政悪化懸念で債券市場は危機モード」、2025年12月22日)。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。