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米国では雇用の減少基調が続く

米労働統計局が9日(金)に発表した2025年12月分雇用統計で、雇用者増加数は事前予想を下回り、雇用情勢の軟調さを示唆した。一方で失業率は低下し、賃金上昇率は予想を上回るなど、まちまちの内容となった。金融市場は米国経済安定への期待と米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げへの期待がともに高まり、同日の株価は上昇した。
 
12月の非農業部門の雇用者数は前月比5.0万人増となり、事前予想の7万人程度を下回った。また10月分の雇用者数は10.5万人減から17.3万人減へ、11月分は6.4万人増から5.6万人増へとそれぞれ下方修正された。10~12月の雇用者増加数の月間平均は-2.2万人である。通常、雇用者増加数が減少する局面は景気後退局面と重なることが少なくない。
 
ただし、この雇用の下振れは、政府閉鎖時の連邦政府職員の早期退職という一時的な要因によるところが大きく、民間部門でみると雇用の増加は続いている。
 
他方で、製造業の雇用者数は5月以降減少が続いている。トランプ関税の影響は、製造業の収益と雇用に悪影響を与えているとみられる。

雇用情勢は軟調でも賃金上昇率の高さが個人消費を支える構図

12月の失業率は4.4%と事前予想の4.5%程度を下回った。ただしこれは、職探しをする人が減ったことによるところ大きく、労働市場の改善を意味するものではない。12月の労働参加率は62.4%と11月から0.1ポイント低下した。
 
関税の影響などにより製造業の雇用情勢は低調であり、2026年前半の米国経済を下振れさせる可能性がある。
 
他方、12月の時間当たり賃金は前年同月比+3.8%と、事前予想の+3.6%程度を上回った。雇用情勢には弱さはあるものの、高めの賃金上昇率が個人消費を支えている。ミシガン大学が同日に発表した1月の米消費者態度指数(速報値)は、54.0と2025年9月以来の高水準となった。
 
2025年10-12月期の実質GDP成長率について、アトランタ連銀の最新見通し(GDPNow)は前期比年率+3.0%と高い水準が続いている。

米最高裁の相互関税等の合法性判断は先送り

ただし、雇用情勢の弱さと物価上昇率の上振れは、トランプ政権、与党共和党への国民の批判につながっている面がある。そこでトランプ政権は、今年11月の中間選挙までに雇用・景気情勢の改善と物価上昇率の引き下げを狙うだろう。その手段として、FRBへの政治介入を強め、利下げを強く促すことが予想される。
 
1月9日に予想されていた米最高裁の相互関税等の合法性判断は実際には示されず、14日以降に先送りされた(コラム「米最高裁が1月9日にも相互関税の合法性を判断:トランプ関税策は大きく後退する可能性」、2025年1月9日)。
 
仮に緊急国際経済権限法(IEEPA)に基づく相互関税などが大統領の権限を超えており違法、との判決が示されれば、相互関税は失効する。根拠法を通商法などに替えて相互関税を続けるとしても、関税適用品目の範囲はかなり縮小することは避けられないとみられる。その場合、関税の影響による物価上昇率押し上げ効果は低下するだろう。

政治圧力を受けFRBは想定以上の利下げも

雇用情勢に不安が残る中、物価上昇率が低下していけば、FRBはトランプ政権の政治的圧力もあり、11月の中間選挙までに想定以上に利下げを行う可能性が出てくる。金融市場は今年2回の利下げを予想しているが、それが3回となる可能性が見込まれる。初回の利下げは今年3月、その後、6月、9月と合計3回の利下げが行われ、政策金利は3%を割り込むことを予想したい。
 
市場の予想を上回る利下げは、ドル安傾向を引き起こすだろう。また、トランプ政権がFRBの利下げを通じ、関税に代わる貿易赤字削減手段としてドル安誘導の姿勢を明らかにする場合には、一時的にドル安が急速に進む局面が年央にみられるのではないか。
 
(参考資料)
「米12月雇用統計、トランプ氏がフライング投稿 公表の12時間前」、2026年1月10日、日本経済新聞電子版
「NYダウ続伸237ドル高、最高値更新 米雇用統計を好感」、2026年1月10日、日本経済新聞電子版

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。