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刑事捜査に対しパウエル議長は毅然とした態度を示した

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は1月11日に、FRB本部の改修計画を巡る昨年6月の議会証言に関連して、刑事訴追の可能性を示唆する大陪審への召喚状を司法省から受け取った、と明らかにした(コラム「トランプ米政権がパウエルFRB議長に刑事訴追の警告:強まる政治介入で揺らぐFRBの信認:米国金融資産離れを加速させる可能性も」、2026年1月13日)。パウエル議長は、これはトランプ大統領の大幅な利下げ要求に応じなかったことへの報復であることを示唆する一方、議長任期が満了する今年5月まで独立した立場を堅持すると表明した。
 
パウエル議長への捜査は、FRBに対する政治介入であり、金融政策と通貨の信認を著しく損ねかねない憂慮すべき事態だ。FRB議長を務めたジャネット・イエレン、ベン・バーナンキ、アラン・グリーンスパンの3氏と、元財務長官のティモシー・ガイトナー、ジェイコブ・ルー、ヘンリー・ポールソン、ロバート・ルービンの4氏は、司法省によるパウエル議長捜査を非難する声明を発表し、中央銀行の独立性を損なうと強く警告した。
 
ただし、パウエル議長が政治介入に屈しない毅然とした態度を示したこと、パウエル議長の不正が明らかになる可能性は低いとの見方から、金融市場の悪い反応は今のところ限定的だ。

パウエル議長に議長とともに理事も辞することを促す狙いとの指摘も

FRB議長に大陪審への召喚状を送付した連邦地検のピロ連邦検事は、司法省の上司から事前の承認を得ていなかったとの報道もある。他方、昨年、クック理事の住宅ローン詐欺の疑惑を理由に司法省に捜査するよう要請したとされる連邦住宅金融局(FHFA)のパルト局長が、今回も主導的な役割を果たしているとの観測もあるが、実態は不明だ。
 
トランプ大統領は、今回の件について「何も知らない」と話している。仮にそうだとしても、利下げを巡ってパウエル議長と激しく対立してきたトランプ大統領への忖度が働いている可能性があるだろう。
 
パウエル議長は5月に議長としての任期を終えるが、理事としての任期は2028年まで残っている。パウエル議長は、歴代の議長がそうであったように、議長を辞する際に理事を同時に辞するとは限らない。理事のポストをトランプ大統領に近い積極利下げ派に譲らないために、理事は続けるとの観測がある。
 
今回のパウエル議長に対する刑事捜査は、パウエル議長に対して、議長とともに理事も辞することを促す狙いがあるとの指摘もある。

トランプ政権内や与党共和党議員からも批判

パウエル議長への刑事捜査については、トランプ政権内や与党・共和党議員からも批判が出ている。ベッセント財務長官は11日遅く、トランプ大統領に対し、この捜査は混乱を招き金融市場に悪影響を及ぼしかねないと忠告したと報じられた。
 
また、FRBを監督する上院銀行委員会の有力共和党メンバーであるティリス上院議員は、この問題が解決するまでトランプ大統領が指名するFRBの新議長の人事案に反対すると表明した。これを受けて、上院共和党のスーン院内総務は、FRBを巡る法的係争の可能性が、FRB人事の承認を困難にしかねないとの見方を示した。
 
トランプ政権は1月中にパウエル議長の後任を指名する予定だが、今回の件によってそれが上院で承認されない可能性が出てきた。こうした混乱を受けて、トランプ大統領は、パウエル議長への刑事捜査を止めさせ、幕引きに動く可能性もあるのではないか。
 
(参考資料)
「パウエルFRB議長に関する調査、ピロ検事正は続行の意向-前途は多難」、2026年1月13日、ブルームバーグ
「パウエル議長への召喚状、主導の1人は連邦住宅金融局のパルト局長か」、2026年1月13日、ブルームバーグ
「パウエル議長への捜査、米共和党議員が反発-FRB人事で抵抗の構え」、2026年1月13日、ブルームバーグ

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。