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先週末23日の東京市場では日本銀行によるレートチェック、そして同日の米国市場では米当局によるレートチェックが行われたとの見方が広がっている(コラム「米当局がレートチェックでドル高・円安をけん制したとの観測:日米協調での為替誘導の流れに向かう可能性も」、2026年1月26日)。
 
ドル円レートは23日の東京市場では一時1ドル159円台まで円安が進んだが、週明け26日には一時1ドル153円台まで円高に振れた。ドル高・円安阻止に向けた日米の協調策は、為替市場に持続的な影響をもたらしている。
 
米当局がレートチェックを通じてドル高円安をけん制したことを、円安、物価高のリスクに苦しむ日本に協力してくれた、と捉えるのは誤りではないか。あくまでも米国は米国の利害のために行動したのである。
 
高市政権発足以降、さらに高市首相が消費税減税を衆院選挙公約に掲げて以降、財政悪化の懸念から、金融市場では円安・債券安(長期金利上昇)が急速に進んだ。円安が物価高懸念を高め、債券安(長期金利上昇)を一層促すという側面もある。
 
それは日本の問題にとどまらず、日本は世界の金融市場を不安定化させる震源地の一つになった。米国にとっては、円安進行はドル高の進行であり、米企業の国際競争力を損ね、貿易赤字を拡大させるという問題がある。  
 
また日本での長期金利上昇は米国の債券市場にも波及し、ベッセント財務長官は米国での長期金利上昇は、日本の長期金利の上昇の影響を受けている、と指摘した。米政府は、長期金利の上昇は住宅ローンの金利上昇や株安を通じて、国民の不満を高めることから警戒している。
 
米当局は、こうした円安・ドル高、(日本発の)長期金利の上昇を回避するという、自国の利害のために、為替市場に口先介入を行ったと考えられる。さらにそこには、高市政権の積極財政姿勢が円安ドル高、長期金利の上昇を招いていることによるけん制、批判の意味もあるのではないか。そうであれば、高市政権の積極財政姿勢は、トランプ政権によって制約を受けるものと考えられる。そして、選挙後には高市政権は積極財政姿勢を修正し、消費税減税を実施しない方向に動くことも考えられるだろう。
 
日本政府は、物価高リスクを高める円安を警戒しており、1ドル160円を防衛ラインと考えている。それを守るためには為替介入を辞さない考えである。こうした為替政策と、円安リスクを高めている高市政権の積極財政策とは矛盾しており、両立できるものではない。
 
日米当局による為替市場への介入によって、これ以上の円安が食い止められるのであれば、円安に後押しされてきた日本株の上昇余地も限られるだろう。円安、株高、債券安の高市トレードは終焉を迎えつつある。債券安が進む一方で株高が生じなければ、高市政権の積極財政に対する国民の評価は低下していくだろう。
 
高市政権もそうした国内世論の変化とトランプ政権の意向に配慮せざるを得なくなるだろう。衆院選挙後には、消費税減税に向けた議論が失速し、高市政権の積極財政政策姿勢も修正されていく可能性がある。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。