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消費者は消費税減税の実施を望んでいるのか?

1月27日に衆院選が公示され、2月8日投開票までの短期戦が始まった。経済政策では、ほとんどの野党、そして与党も消費税減税を一斉に掲げる、異例の構図となっている。
 
国の将来と政権の枠組みを決める衆院選で、各党が議論すべきなのは、短期的な経済効果しか生まない消費税減税ではなく、物価上昇といった環境変化に柔軟に対応し、中低所得層の生活を支える「給付付き税額控除」などの税と社会保障制度の抜本的な改革なのではないか。あるいは、日本経済の潜在力を高める成長戦略なのではないか。
 
各党が消費税減税を掲げた結果、消費税減税は他党との差別化にはつながらないテーマとなってしまった。それでも各党がそれを前面に掲げ続けるのは、消費税減税の提案を取り下げれば、選挙に不利になると考えているからだろう。
 
しかし実際に、消費者が消費税減税の実施を強く望んでいるかは確かではない。昨年の参院選挙時と比べて、その支持は弱まってきているのではないか。1月26日付の日本経済新聞によると、食料品の消費税率ゼロが物価高対策として「効果があるとは思わない」との回答が56%と、「効果がある」との回答の38%を上回った。
 
さらに、消費税について「財源を確保するために税率を維持すべきだ」との回答が59%と、「赤字国債を発行してでも税率を下げるべきだ」との回答の31%を上回った。こうした調査結果は、有権者が消費税減税の実施に必ずしも前向きでないことを示唆しているのではないか。

消費税減税の効果は小さく、その大きな代償には見合わない

自民党の公約のように、食料品の消費税を2年間ゼロにする場合、実質GDPの押し上げ効果は1年間で+0.22%と試算され、決して大きくはない。しかも2年目以降は増加率でみた押し上げ効果はほぼ期待できず、1年程度しか景気浮揚効果は続かない(コラム「高市政権が食料品の消費税率ゼロを選挙公約に掲げる方針:実質GDP押上げ効果は+0.22%:形骸化が進む『責任ある積極財政』でさらなる円安・債券安のリスク」、2026年1月19日)。
 
食料品の消費税を恒久的にゼロにする場合でも、実質GDPの押し上げ効果は1年間で+0.43%と試算される。社会保障支出の基礎的財源が損なわれ、財政を一段と悪化させるなどといった大きなマイナスと比べればプラスの経済効果の恩恵は小さく、大きな代償に見合わない政策と言えるのではないか。
 
また短期的には財源確保が難しい中、消費税減税を実施し、財政環境が一段と悪化すれば、財政と通貨の信頼性が低下し、円安・債券安(長期金利上昇)がさらに進む可能性がある。それは、経済と国民生活の大きな逆風となるだろう(コラム「高市政権が食料品の消費税率ゼロを選挙公約に掲げる方針:実質GDP押上げ効果は+0.22%:形骸化が進む『責任ある積極財政』でさらなる円安・債券安のリスク」、2026年1月19日)。

税・社会保障制度の抜本的な改革こそが求められている

過去数年の歴史的な物価高は、低所得者を中心に家計に大きな打撃を与えたことは確かだ。日本の税制、社会保障制度、あるいは賃金決定制度などが、物価高に柔軟に対応できなかったことが問題の本質である。そのため、物価押し下げ、消費刺激共に短期的な経済効果しか生まない消費税減税は、適切な対応策ではない。制度を見直す抜本的な改革こそが求められているのである。
 
そうした抜本的な制度改革の一つが、多くの政党が支持している「給付付き税額控除」だろう。それは、将来の物価変動から中低所得者層の実質所得を守り、生活を支える柔軟な仕組みと言える。
 
衆院選では、各党間の消費税減税の違いを議論するのではなく、「給付付き税額控除」を含めた税制・社会保障制度の抜本的な改革について議論を深めるべきだ。国の将来を決める衆院選で、消費税減税の議論に多くの時間を割くのはもったいないことだ。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。