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各党は中長期の成長戦略を議論せよ

衆院選では、消費税減税が経済政策を巡る各党間での議論の中心となっている。それ以外でも保険料の引き下げ、手取りの増加など、個人所得の拡大策に関する公約が目立っている。
 
しかし、これらは短期的側面が強く、中長期の視点を欠いている面があるのではないか。より抜本的な物価高対策、中低所得層支援策としては、消費税減税ではなく、給付付き税額控除のような税・社会保障の抜本的な制度改革が必要であり、その議論を深めるべきだ(コラム「【衆院選の焦点②】消費税減税よりも給付付き税額控除制度を議論すべき」、2026年1月28日)。
 
さらに、国民の生活を持続的に改善させるには、所得分配に関わる政策ではなく、成長率と生産性上昇率を高める政策、いわゆる成長戦略を進める必要がある。残念なことに、今回の衆院選では各党が成長戦略を競う構図にはなっていない。
 
ただし、高市政権は、「危機管理型投資」を中心とする成長戦略を以前より掲げている。各党にはその是非を論じて欲しい。

高市政権の「危機管理型投資」の問題点

高市政権は、自然災害、海外からの軍事的脅威、エネルギー・食料の安定調達を脅かすリスク、重要物資についての海外の輸出規制のリスクなどの課題に対応するために政府が投資を拡大させ、それが成長率を高め、税収が増加することで財政環境が改善するといった、「災い転じて福となる」的なバラ色のシナリオである。
 
しかし実際には、政府の投資は非効率で無駄が多く、政府債務の増加につながりやすい。また、政府が投資や補助金などで産業の成長を促そうとすると、企業は政府に依存するようになり、むしろイノベーションが阻害されてしまうのではないか。
 
また、「危機管理型投資」は、経済安全保障の観点から、重点産業の国内回帰を促す狙いがある。しかし、そうした取り組みは、輸入品を国産品に代替する動きであり、日本の国是である自由貿易を真っ向から否定するものでもある。
 
さらに、海外からの安価で質の高い製品を国産品に置き換えると、より生産コストが高まり物価高をもたらす。より高い価格で製品を買わなければならなくなるのは日本国民だ。
 
経済の主役はあくまでも民間であり企業であるべきだ。政府は、企業の活動を側面から支援する役割を果たすべきだ。安倍政権以降、歴代政権が掲げてきた成長戦略は、規制緩和などを通じて政府が企業の設備投資を引き出し、それを成長力や生産性上昇率の向上につなげるものだった。高市政権が言う成長戦略は、政府の投資拡大が中核であり、今までの成長戦略とは異質だ。

サプライサイドの経済政策が重要

高市政権は、大きな弊害を生んでいるアベノミクスの第1の矢である積極金融緩和、第2の矢である積極財政を継承する一方、重要な成長戦略である第3の矢である構造改革を継承しなかった。
 
日本経済の再生を目指す経済政策は、常に安易な方向に流れやすい。近年では、日本銀行の異例の金融緩和、積極財政政策、消費税減税などがその代表だろう。このような短期的な需要に働きかける政策では、日本経済が成長軌道に復し、国民生活が持続的に改善して、国民が将来に明るい展望を持てるようにはならない。
 
実質賃金の持続的な上昇には労働生産性向上が必要であり、それは金融緩和、財政出動、減税といった一時的に需要を押し上げるような政策では実現できない。
 
労働生産性向上には、企業の設備投資の拡大が必要であり、またそのためには、将来に向けた成長期待の上昇が欠かせない。それに寄与するのが、少子化対策、外国人材活用、東京一極集中是正、インバウンド戦略などの政府の成長戦略だ。さらに、労働市場改革を通じて成長産業に労働力を移動させることも、生産性及び成長率を向上させる。


これらの施策が本格的に効果を発揮するまでには時間を要するが、政府が信頼される有効な成長戦略を打ち出すことができれば、企業の先行きの成長期待は高まり、設備投資を積極化させるだろう。その結果、生産性、成長率向上の効果が前倒しで得られることも期待される。

アベノミクスで謳われた金融緩和、積極財政は比較的容易に実施できるが、持続的に日本経済の供給力を高めることにはならない。需要側の経済政策に偏る傾向がある高市政権には、供給側(サプライサイド)の経済政策にもっと目を向けてほしい。
 
以上が高市政権の成長戦略についての筆者の見解であるが、各党の意見は様々だろう。選挙戦では、各党が高市政権の成長戦略の是非を論じ、日本経済の将来につながる成長戦略を真正面から提示して欲しい。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。