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税収の上振れは減税の新たな財源にはならない

今回の衆院選では、ほぼすべての政党が消費税減税を公約に掲げている。一方、それを賄う財源の議論がかなり曖昧であるため、金融市場は財政悪化懸念を強めているのが現状だ。
 
消費税減税に限らず、過去の経済対策の財源議論にも曖昧さは多く見られた。例えば、過去数年には、税収の上振れ分が経済対策に充てられてきた。この税収の上振れについては、世間で誤解されている面が多い。税収が上振れていることが、財政に余裕がある中で国民から税金を取り過ぎている状況、と考えるのは全くの誤りだ。歳入が歳出を大きく下回る財政赤字の状況は一貫して続いており、足りない部分は将来の税収を事実上担保にした国債発行で賄われ、将来にかけて国民の負担増となっている。
 
税収の上振れとは、税収が余っている状況を意味するのではなく、当初予算編成の時点で見積った額と比べて、補正予算編成の段階での税収見積もりや決算の段階での税収実績が上振れている、という見積もりと実績のずれを表現したものに過ぎない。
 
税収の上振れ分は決算剰余金となるが、財政法第6条では、「決算剰余金の2分の1以上を、翌々年度までに国債または借入金の償還財源に充てなければならない」と定められている。決算剰余金の一部である税収の上振れ分を消費税減税に使ってしまうと、その分、国債償還の財源が減少し、歳入不足が生じてしまう。
 
この点から、税収の上振れ分とは新たな財源とはみなすことはできないのである。さらに現在は、決算剰余金の半分は防衛力強化にも充てられていることから、利用は限られる。

外為特会の剰余金を減税の財源に充てるとその分歳入が減少してしまう

国民民主党は、外為特会の剰余金などを、積極財政の財源に活用すべきだとこれまで主張してきた。また、高市首相は選挙応援演説で「外為特会(外国為替資金特別会計)の運用、いま“ほくほく状態”」と述べたが、これも外為特会を減税の財源に充てることを念頭に置いた発言であったのかもしれない(コラム「高市首相の円安容認発言に注目が集まる」、2026年2月2日)。
 
しかし、外為特会の剰余金は一般会計(国の歳入)へ繰り入れることが原則であり、最大7割を一般会計に繰り入れることができる仕組みになっている。さらに外為特会の剰余金も防衛力強化に充てられている。
 
外為特会の剰余金を減税や歳出増加などの経済対策に充てれば、その分歳入が減少してしまう。この点から、外為特会の剰余金を消費税減税の財源に充てることは、新たに財源を確保することにはならない。

外貨準備の為替差益の活用は難しい

また、円安が進めば外為特会が保有する外貨準備の円換算額が膨らむ。この為替差益を減税の財源に充てることも従来主張されてきた。しかし、それを実現させることは簡単ではない。
 
外貨準備の為替差益を使うためには、外貨を売却しなければならないが、それは政府の為替介入に他ならず、他国との調整も必要になる。また、外貨準備の一部を取り崩せば、円買いドル売り介入の原資が減少する。それによって、為替介入の限界が意識され、効果が減じられる恐れがある。
 
外貨準備の外貨を売却せずに、為替差益を担保にした債券を発行して減税の財源に充てるとの主張もされてきたが、実際に外貨を売却して為替差益を確保できないのであれば、それは単なる通常の国債発行による財源確保と変わらなくなるだろう。さらに、為替の変動によって将来の為替差益は大きく変動してしまうことも問題だ。

政府ファンドの設立で消費税減税の財源を賄うことは難しい

中道改革連合は、政府が保有する金融資産の運用益を消費税減税の財源に充てる考えを示している。しかし、政府が保有する金融資産の運用益は、既に政府の歳入に充てられている。そのもとで、運用効率を高めることを通じて運用益を増やし、食料品の消費税率ゼロ化に必要な年間5兆円をねん出するのはかなり難しい。
 
政府が保有する金融資産の運用は、それぞれの目的に沿って決められたものであり、現在の運用方法を大きく見直すことはできない。政府が保有する金融資産のうち最大なのは年金準備金、その次が外貨準備である。年金準備金は年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)によって運用されているが、それは既に高度な運用手法に基づいて実施されている。より運用益を得ようとリスクの高いポートフォリオに変更すれば、将来国民に支払う年金給付額の減少につながる恐れもあるだろう。
 
また、外貨準備は米国の短期国債や銀行預金など信用力と流動性の高い資産で保有されている。信用力と流動性が高い分、運用利回りは低めであるが、外貨準備は為替介入に用いられることを目的としており、迅速に利用するためには流動性の高い資産で保有することが求められるのである。
 
このように、政府が保有する金融資産の運用益は既に歳入に繰り入れられていることや、それぞれが目的に沿って運用されていることから、政府ファンドを設立することで運用益を増加させ、それを5兆円の消費税減税の安定的な恒久財源に充てることはかなり難しい。

補助金と租税優遇措置の削減による消費税減税の財源確保も難しい

自民党は食料品の消費税率を2年間ゼロにすることを公約に掲げている。その財源として高市首相は、補助金と租税優遇措置の削減、税外収入を挙げている。
 
日銀の国庫納付金や国の資産売却などからなる税外収入は、既に歳入の一部であり、それを新たな財源として計上することはできない。
 
また、補助金関連予算は約20兆円とされる。財務省によると租税特別措置による減税額は2023年度で2.9兆円だった。ここから、年間5兆円の財源を確保するのは簡単ではないだろう。
 
産業政策の一環で実施している補助金と租税優遇措置を2年に限って停止することは現実的ではなく、財源確保にはそれぞれ恒久的な制度の廃止が必要になるだろう。政府は補助金と租税優遇措置のうち無駄な部分の削減に取り組む方針であり、それは適切なことだ。しかし短期間で補助金と租税優遇措置の削減を通じて年間5兆円規模の消費税減税の財源を確保するのはやはり難しく、現実的ではないのではないか。

本当に消費税減税を実現する意思があるのか

このように、ほぼすべての政党が消費税減税を公約に掲げる一方、その財源確保については信頼性の高い手段を提示できていない。このことは、選挙戦略として消費税減税を掲げはするものの、選挙が終わればその実現に向けた動きを加速させる強い考えがないことの表れであるかもしれない。
 
実際、昨年の参院選でも、ほぼすべての野党が消費税減税を掲げたが、野党勝利で選挙が終わった後には、消費税減税の議論は急速に後退していった。今回についても、与党を含めた消費税減税の議論は、選挙戦略として掲げるだけで終わってしまう可能性も相応にあるのではないか。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。