自民党勝利で円安が大きく進むとは限らない
衆院選で自民党が大きく議席を伸ばせば、それは日本銀行の早期利上げを後押しする、との見方をする向きが金融市場では少なくない。
高市政権が国民からの支持を背景に、積極財政政策を維持あるいは加速させ、それが円安進行を助ける。円安は物価上昇圧力を高めるため、日本銀行は追加利上げを急ぐことになる、といった考えだ。
しかし、衆院選後に一段と円安が進むかどうかは分からない。円は日本政府が防衛ラインとしていると見られる1ドル160円に接近している。政府はドル買い円売りの為替介入も辞さない構えであり、防衛ラインを何とか守ろうとするだろう。その結果、一気に160円を超えて円安が加速する事態は回避されるのではないか。
さらに、国民生活に逆風となる不人気な円安、債券安を引き起こすことを避けるため、あるいはそれを嫌うトランプ米政権に配慮して、選挙結果に関わらず、高市政権が選挙後に積極財政姿勢を修正する可能性もあるのではないか。その場合には、為替市場は円高に振れやすい(コラム「【衆院選の焦点⑩】衆院選後の金融市場:高市トレードは変容を迫られる」、2026年2月6日)。
高市政権が国民からの支持を背景に、積極財政政策を維持あるいは加速させ、それが円安進行を助ける。円安は物価上昇圧力を高めるため、日本銀行は追加利上げを急ぐことになる、といった考えだ。
しかし、衆院選後に一段と円安が進むかどうかは分からない。円は日本政府が防衛ラインとしていると見られる1ドル160円に接近している。政府はドル買い円売りの為替介入も辞さない構えであり、防衛ラインを何とか守ろうとするだろう。その結果、一気に160円を超えて円安が加速する事態は回避されるのではないか。
さらに、国民生活に逆風となる不人気な円安、債券安を引き起こすことを避けるため、あるいはそれを嫌うトランプ米政権に配慮して、選挙結果に関わらず、高市政権が選挙後に積極財政姿勢を修正する可能性もあるのではないか。その場合には、為替市場は円高に振れやすい(コラム「【衆院選の焦点⑩】衆院選後の金融市場:高市トレードは変容を迫られる」、2026年2月6日)。
高市首相は引き続き日本銀行の利上げをけん制か
高市政権は、昨年12月の日本銀行の利上げを容認した。日本銀行は政府から独立した組織であり、仮に政府が反対しても、適切と判断すれば利上げを実施する。しかし一方で、政府との対立はできることなら避けたい、との考えも日本銀行は持っており、政府の意向に配慮して利上げのタイミングを多少ずらすことは十分に考えられる。
高市首相は、政権発足時に見せていた日本銀行の利上げを強くけん制する姿勢を後退させた。それが国民生活に逆風となる円安、債券安を引き起こすことや、トランプ政権が円安を嫌うことに配慮したためと考えられる。同じような理由から、選挙後に高市政権が積極財政姿勢を修正する可能性も考えられる。
しかし、一時期よりは日本銀行の利上げをけん制する姿勢を後退させたとはいえ、高市首相は引き続き日本銀行の利上げを問題視しているのではないか。経済や物価が下振れる局面、為替市場が円高に振れる局面では、高市首相は再び日本銀行の利上げをけん制する可能性があり、日本銀行もそれを無視はできないだろう。
高市首相は、政権発足時に見せていた日本銀行の利上げを強くけん制する姿勢を後退させた。それが国民生活に逆風となる円安、債券安を引き起こすことや、トランプ政権が円安を嫌うことに配慮したためと考えられる。同じような理由から、選挙後に高市政権が積極財政姿勢を修正する可能性も考えられる。
しかし、一時期よりは日本銀行の利上げをけん制する姿勢を後退させたとはいえ、高市首相は引き続き日本銀行の利上げを問題視しているのではないか。経済や物価が下振れる局面、為替市場が円高に振れる局面では、高市首相は再び日本銀行の利上げをけん制する可能性があり、日本銀行もそれを無視はできないだろう。
物価上昇率の下振れと円高が日本銀行の早期利上げの妨げに
注目したいのは、消費者物価上昇率が先行き顕著に低下することだ。前年同月比3%程度で推移してきた消費者物価(除く生鮮食品)は、今年2月分には一気に1%台まで低下し、その後も2%程度あるいは1%台が続くことが予想される。これには、コメの価格高騰が一巡したこと、食料品の値上げの動きが弱まっていることに加えて、政府の物価高対策であるガソリン暫定税率廃止、3か月間の電気・ガス補助金の影響によるものだ。
目先の急激な物価上昇率の低下は、基調的な物価の変化とは異なるものであり、日本銀行は基調的な物価上昇率を踏まえて金融政策を決めるため、物価上昇率の下振れは追加利上げの妨げにはならない、との主旨の説明を植田総裁は1月の記者会見で行った。
しかし、高市首相はそうは考えないのではないか。物価上昇率が大きく下振れる中では、日本銀行は利上げを急ぐ必要はないとして、日本銀行は利上げを再びけん制する可能性があるだろう。また、円安と物価高が相互に関係しあう中、物価上昇率の下振れは、物価の裏返しである通貨価値の上昇期待を高め、円高をもたらす可能性がある。そうなれば、さらに利上げは遠のくだろう。
また、米国では5月のパウエル議長退任、ウォーシュ新議長就任を受けて、政治的圧力による米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測が強まり、それがドル安円高をもたらす可能性がある。
目先の急激な物価上昇率の低下は、基調的な物価の変化とは異なるものであり、日本銀行は基調的な物価上昇率を踏まえて金融政策を決めるため、物価上昇率の下振れは追加利上げの妨げにはならない、との主旨の説明を植田総裁は1月の記者会見で行った。
しかし、高市首相はそうは考えないのではないか。物価上昇率が大きく下振れる中では、日本銀行は利上げを急ぐ必要はないとして、日本銀行は利上げを再びけん制する可能性があるだろう。また、円安と物価高が相互に関係しあう中、物価上昇率の下振れは、物価の裏返しである通貨価値の上昇期待を高め、円高をもたらす可能性がある。そうなれば、さらに利上げは遠のくだろう。
また、米国では5月のパウエル議長退任、ウォーシュ新議長就任を受けて、政治的圧力による米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測が強まり、それがドル安円高をもたらす可能性がある。
追加利上げは年後半か
さらに留意したいのは、2024年3月に日本銀行がマイナス金利政策を解除して利上げに踏み切って以来、利上げの間隔は平均で7か月だ。日本銀行が利上げを進めて、政策金利の水準が切り上がり、中立水準に近づいてくれば、日本銀行は行き過ぎた利上げが経済に悪影響を与えることをいっそう警戒し、慎重な姿勢を強める。そのため、利上げのインターバルは次第に拡大していくと考えるのが普通だろう。
このような点を考慮すると、衆院選が終わり次第、日本銀行は次の利上げを探り始めると考えるのは行き過ぎではないか。金融市場では4月の利上げ観測が強まっているが、筆者は年前半には利上げは実施されないと予想している。現時点での筆者の利上げの時期の予想は、少数派ではあるが今年9月である。
このような点を考慮すると、衆院選が終わり次第、日本銀行は次の利上げを探り始めると考えるのは行き過ぎではないか。金融市場では4月の利上げ観測が強まっているが、筆者は年前半には利上げは実施されないと予想している。現時点での筆者の利上げの時期の予想は、少数派ではあるが今年9月である。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。