衆院選を受けた為替と債券市場の反応は小さめ
2月8日に投開票が行われた衆院選で自民党が歴史的圧勝となったことを受け、9日の東京市場では日経平均株価が初の5万7千円台に乗せるなどの反応がみられた(コラム「衆院選で自民党が歴史的圧勝:高市政権は金融市場の警鐘に耳を傾けるか」、2026年2月9日)。しかし、選挙結果の非常に大きなサプライズと比べて、金融市場、特に為替と債券市場の反応は小さめだと言える。
9日午前10時半時点で、日経平均株価は5万7000円程度と先週末比2700円程度の上昇だ。一方、債券市場では10年国債金利は2.27%と前週末比僅か0.04%程度の小幅上昇にとどまっている。
為替市場では156円台半ばと先週末の157円台から予想外に円高に振れている。自民党の圧勝を受けて、高市政権の積極財政政策がさらに加速するとの観測が強まるのであれば、「円安、債券安、株高」の「高市トレード」がさらに進むところであるが、実際はそうなっていない。その背景は3点あると考えられる。
第1は技術的な側面であるが、金融市場は既に自民党の大勝を織り込んできた一方、選挙が終わって材料が出尽くしたため、巻き戻しの取引も生じていることが考えられる。
9日午前10時半時点で、日経平均株価は5万7000円程度と先週末比2700円程度の上昇だ。一方、債券市場では10年国債金利は2.27%と前週末比僅か0.04%程度の小幅上昇にとどまっている。
為替市場では156円台半ばと先週末の157円台から予想外に円高に振れている。自民党の圧勝を受けて、高市政権の積極財政政策がさらに加速するとの観測が強まるのであれば、「円安、債券安、株高」の「高市トレード」がさらに進むところであるが、実際はそうなっていない。その背景は3点あると考えられる。
第1は技術的な側面であるが、金融市場は既に自民党の大勝を織り込んできた一方、選挙が終わって材料が出尽くしたため、巻き戻しの取引も生じていることが考えられる。
1ドル160円の政府の防衛ラインが近づき円安の余地が小さい
第2は、為替市場では1ドル160円の政府の防衛ラインが意識され、為替介入が警戒されている可能性がある。そのため円安は進まず、それが債券安を小幅にとどめ、また株高にも一定の歯止めをかける構図になっている可能性が考えられる。
過去数年間、日本政府は円安阻止に努めてきた。その政策は、円安を助長する高市政権の積極財政政策と矛盾する面がある。ただし、政府の円安阻止に向けた姿勢が後退するとの見方が市場に広がれば、円安が一気に進み、物価高を助長しかねない。そのため、高市政権は円安阻止の姿勢を堅持する可能性が高く、円安が進む余地は限られるだろう。その結果、円安に後押しされる株高の勢いも高まりにくい。
過去数年間、日本政府は円安阻止に努めてきた。その政策は、円安を助長する高市政権の積極財政政策と矛盾する面がある。ただし、政府の円安阻止に向けた姿勢が後退するとの見方が市場に広がれば、円安が一気に進み、物価高を助長しかねない。そのため、高市政権は円安阻止の姿勢を堅持する可能性が高く、円安が進む余地は限られるだろう。その結果、円安に後押しされる株高の勢いも高まりにくい。
高市政権は積極財政姿勢を修正する可能性も
第3は、選挙後に、高市政権は積極財政姿勢を修正する可能性が金融市場で意識されていることだ。その理由は3つある。第一は、積極財政政策によって円安、債券安が進みやすいが、それらは物価高、長期金利上昇を通じて国民生活に逆風となることだ。
第二は、日本の債券安は海外の金融市場からも悪い意味で注目を集めるようになっており、世界の金融市場の不安定要因と警戒されていることだ。
第三は、トランプ米政権は、日本の円安と債券安が米国市場に飛び火し、ドル高と長期金利の上昇を進めることで、米国経済の逆風となってしまうことを懸念している。これは、米連邦準備制度理事会(FRB)への政治介入を強め、利下げによって雇用の回復を図るというトランプ政権の11月の中間選挙に向けた戦略を大きく狂わせかねない。
トランプ政権が日本の円安と債券安を警戒する中、衆院選挙中に高市首相が「外為特会はホクホク」などと円安のメリットを強調する発言をし、円安容認発言として為替市場で円安を進めてしまった。これを受けて、トランプ政権は一段と高市政権の経済政策に懸念を強めた可能性がある。実際、円安や債券安など日本の金融市場の動揺を止めるよう、高市政権に圧力をかけている可能性が考えられる。
第二は、日本の債券安は海外の金融市場からも悪い意味で注目を集めるようになっており、世界の金融市場の不安定要因と警戒されていることだ。
第三は、トランプ米政権は、日本の円安と債券安が米国市場に飛び火し、ドル高と長期金利の上昇を進めることで、米国経済の逆風となってしまうことを懸念している。これは、米連邦準備制度理事会(FRB)への政治介入を強め、利下げによって雇用の回復を図るというトランプ政権の11月の中間選挙に向けた戦略を大きく狂わせかねない。
トランプ政権が日本の円安と債券安を警戒する中、衆院選挙中に高市首相が「外為特会はホクホク」などと円安のメリットを強調する発言をし、円安容認発言として為替市場で円安を進めてしまった。これを受けて、トランプ政権は一段と高市政権の経済政策に懸念を強めた可能性がある。実際、円安や債券安など日本の金融市場の動揺を止めるよう、高市政権に圧力をかけている可能性が考えられる。
「円安、債券安、株高」の「高市トレード」は変容を迫られる
高市政権は、以上の3点に配慮して、円安と債券安を促す積極財政姿勢を今後修正していくとの見方が金融市場にあり、実際、その可能性はあるだろう。
高市政権が積極財政姿勢を修正していくのかどうか、今後の動向を慎重に見守る必要がある。仮に修正する場合には、金融市場は「円高、債券高、株安」に振れるだろう。
他方、積極財政姿勢を維持、強化する場合には、金融市場の混乱は深まりかねない。さらなる債券安、つまり長期金利の上昇は、株から債券への資金移動を促し、株安を生じさせる可能性がある。その場合、「円安、債券安、株高」で特徴づけられる「高市トレード」は、「円安、債券安、株安」に転じることが考えられる。金融市場がそのようにトリプル安、日本売りの様相を強めていけば、状況は2022年9月に英国で発生した大規模な金融市場の混乱である「トラスショック」に近づいていく。それは、日本経済、国民生活にとっても大きな打撃となるだろう。
高市政権がいずれの道を選ぶとしても、「円安、債券安、株高」の「高市トレード」は変容を迫られることになる。
高市政権が積極財政姿勢を修正していくのかどうか、今後の動向を慎重に見守る必要がある。仮に修正する場合には、金融市場は「円高、債券高、株安」に振れるだろう。
他方、積極財政姿勢を維持、強化する場合には、金融市場の混乱は深まりかねない。さらなる債券安、つまり長期金利の上昇は、株から債券への資金移動を促し、株安を生じさせる可能性がある。その場合、「円安、債券安、株高」で特徴づけられる「高市トレード」は、「円安、債券安、株安」に転じることが考えられる。金融市場がそのようにトリプル安、日本売りの様相を強めていけば、状況は2022年9月に英国で発生した大規模な金融市場の混乱である「トラスショック」に近づいていく。それは、日本経済、国民生活にとっても大きな打撃となるだろう。
高市政権がいずれの道を選ぶとしても、「円安、債券安、株高」の「高市トレード」は変容を迫られることになる。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。