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衆院選で自民党が歴史的な勝利を収めた後、金融市場では株価の上昇が見られた。他方、予想外に債券高、円高が進んでいる。これは政治の安定、政策推進に期待した「日本買い」の結果との解釈もできるが、選挙後は消費税減税を含めた高市政権の積極財政姿勢が修正されるとの市場の観測をより反映しているのではないか。
 
日本市場が休場となった11日にも、為替市場ではドル安円高の流れが続いた。一時、1ドル152円台まで円高が進んだ。これは、日本要因というよりも海外要因によるところが大きい。円高傾向が続けば、日本株の上昇にも歯止めがかかってくるだろう。
 
ドル安円高の流れを後押しした要因の一つは、2月9日に、中国当局が銀行に米国債保有の抑制を指導した、との報道がなされたことだ(コラム「中国当局が銀行に米国債保有の抑制を指導:米国市場のリスクへの警戒を強める」2026年2月10日)。
 
さらに10日の米国市場では、12月の小売売上高が前月比横ばいと、事前予想の+0.4%を大幅に下回ったことも、ドル安要因となった。11日に発表された1月分米雇用統計 が+13万人増と事前予想大きく上回ったことから、米国市場で一時ドル高円安に振れた局面もあったが、同日中に再び1ドル152円台まで円高が進んだ。
 
そうしたもとで、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測が再び強まっている。経済活動の下振ればかりでなく、トランプ大統領がウォーシュ次期議長のもとで、FRBに利下げ圧力を強めるとの観測も強まっている。
 
利下げとFRBの信頼性低下が重なることで、予想外にドル安が進む可能性がある。トランプ政権は、利下げとドル安を通じて11月の中間選挙に向けて景気の浮揚を図る戦略ではないか。
 
10日の上院の公聴会でドル安について問われたラトニック商務長官は、「他国がアメリカへの輸出を増やすためにドルを意図的に高く操作し、アメリカが世界に輸出しにくい状態が続いていた」と主張し、そのうえで「現在のドル相場はより自然な状態だ」と述べて、ドル安の進行を容認する姿勢を示した。
 
FRBの利下げとドル安政策が、選挙戦略に組み込まれているのであれば、今後はドル安・円高のリスクは高まるだろう。
 
衆院選後の日本の金融市場は、「円高・債券高・株高」傾向となっており、選挙前の高市トレード、つまり「円安・債券安・株高」から変化している。この先、トランプ政権の中間選挙戦略の影響を受けてドル安・円高が進む場合、それはいずれ日本株の下落につながり、日本の金融市場では「円高・債券高・株安」と、従来の高市トレードが逆回転を始める可能性があるだろう。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。