新関税への移行の経済効果は国によって異なる
2月20日に米最高裁が緊急経済権限法(IEEPA)に基づく相互関税は違法との判断を示したことを受け、相互関税は2月24日米国東部時間0時1分に失効する。税関(CBP)も 2月24日から関税の徴収を停止する(コラム「最高裁による違法判決でトランプ関税の不確実性が再び高まる。関税全体の合法性が問われ、関税の行き詰まり感が強まる方向」、2026年2月24日)。
一方トランプ政権は、24日に相互関税に代わる、通商法122条に基づく新たな関税を全ての国に対して10%の水準で導入する。さらに、時期を明示していないが、その関税率を15%まで引き上げる考えも示している。
日本の相互関税率は15%であることから、新しい関税率が10%となれば、関税率は引き下げられることになる。それは、実質GDPを1年間で+0.125%押し上げる計算となる。ただし、早期に関税率が相互関税率と同じ15%に引き上げられれば、プラスの経済効果はほぼ生じないことになる。
他方、相互関税に代わる新関税の導入が経済に与える影響は、国によって異なる。相互関税が10%よりも高い国には、新関税の移行は関税率を引き下げ、プラスの経済効果をもたらす。例えば、カナダ(相互関税率:35%)、メキシコ(同25%)、中国(同30%)、EU(同15%)、韓国(同15%)、台湾(同20%)、ベトナム(同20%)などである。
一方、英国は10%の相互関税率であり、その他多くの小国も相互関税の一律部分である10%が課されている。そうした国にとっては10%の新関税に移行しても関税率は変わらない一方、それが15%に引き上げられれば、マイナスの経済効果が生じることになる。
世界の実質GDPへの影響は、新関税10%で+0.31%、15%で+0.17%
そこで、経済協力開発機構(OECD)によるモデル計算結果を用いて、新関税への移行が主要国の実質GDPに与える影響(3年間の累積効果)を試算した(図表)。
世界の実質GDPへの影響は、新関税が10%の場合には+0.31%、15%に修正される場合には+0.17%となる。
経済効果が大きいのは、相対的に高い相互関税が課せられていたメキシコ、カナダなどである。また、トランプ関税の9割は米国企業、個人が負担していると試算されるなか、関税を課す側の米国も大きめのプラスの経済効果を享受する。米国の実質GDPへの影響は、新関税が10%の場合には+0.81%、15%に修正される場合には+0.45%となる。
最高裁による相互関税の違法判決は、トランプ政権にとっては打撃となったが、米国経済にとってはプラスであり、それは11月の中間選挙で与党・共和党にはプラスとなるだろう。
日本の実質GDPへの影響は既述の通りであるが、それは直接的な影響を試算したものだ。OECDのモデル計算に基づく試算では、関税率の変更が他国の経済に与える影響が、輸出の変化を通じて日本経済に与える効果についても反映されている。1年間ではなく3年間の効果である。日本の実質GDPへの影響は、新関税が10%の場合には+0.39%、15%に修正される場合には+0.22%となる。

最終的には日本及び世界の経済、企業にプラスとなる方向への変化
最高裁の判決とそれを受けたトランプ大統領の対応を受けて、関税を巡る不確実性は再び高まった。しかし上記の計算にも表れているように、新関税への移行は、世界経済にとってはプラスの効果をもたらす。
トランプ関税は既に行き詰まりを見せており、今回の最高裁の違法判決は、縮小方向への関税見直しを加速させるきっかけとなる可能性があるだろう。トランプ政権が新関税率を15%に引き上げるかどうかも不確実だ。さらに、通商法122条に基づく新関税が150日の期限を迎えた後に、恒久的な関税措置に移行できるかどうかも不確実だ。移行できるとしても、課税対象をかなり縮小したものとなる可能性もあるだろう。
関税を巡る今回の混乱は、短期的には不確実性を強めるものの、最終的には日本及び世界の経済、企業にプラスとなる方向への変化と考えておきたい。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。