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中間選挙を意識して新たな減税の考えを示す

日本時間2月25日に、トランプ大統領は一般教書演説を行った。昨年1月の第2次トランプ政権発足以降の経済的な成果をアピールするとともに、前民主党政権の政策運営や民主党議員らを強く批判した。演説中は民主党議員を挑発するような発言も目立った。これは、11月の中間選挙を強く意識した、選挙対策の印象が強い。
 
経済面では第2次トランプ政権発足後に、政策の効果でインフレ率が急速に低下したと自らの成果をアピールした。コアCPI(除く食料・エネルギー)は2025年1月の政権発足時の前年同月比+3.3%から最新の2026年1月の同+2.5%へと低下したが、低下傾向はバイデン前政権から始まっていた。しかも、物価上昇率は依然として高止まりしており、国民の間での不満が高まっている。
 
経済政策ではトランプ大統領は減税策についても自らの成果としてアピールした。それは、2025年末に恒久化を決めた大型法案(通称 One Big Beautiful Bill)である。そこでは、チップへの非課税、残業代への非課税、高齢者向けの特別控除等を新たに導入し、それらが可処分所得を押し上げたとした。
 
さらにトランプ大統領は、新たな個人所得税の減税を進める考えを明らかにした。また、法人税についても減税拡大を目指すと明言した。米国内への投資促進、製造業の国内回帰(リショアリング)、雇用創出の継続などが狙いと考えられる。具体的な減税規模などは示されなかった。
 
こうした減税策は11月の中間選挙を強く意識したものだ。他方で、追加の減税策は、財政赤字をさらに拡大させるとの懸念を金融市場で生じさせている。それはドル安、債券安要因となり得る。

強気発言も、トランプ関税は行き詰まりを見せる

一方で、最高裁判決で相互関税に違法判決が下されたにもかかわらず、トランプ大統領は、引き続き関税収入が財政を支えるとの説明をしている。関税策について、ノーベル経済学賞を受賞した経済学者らが、関税は米国経済を悪化させると主張した(コラム「ノーベル賞受賞の経済学者16人がトランプ再選に警鐘」、2024年7月3日)が、米国経済は悪化しなかったと主張した。実際には、高止まりする物価上昇率や雇用の悪化には、関税が影響しているだろう。
 
トランプ大統領は、相互関税に最高裁の違法判決が下されたが、他国は米国との関税合意を維持したいと言っていると説明している。実際は、相互関税率を引き下げる代わりに他国から引き出した合意は、相互関税の失効とともにその根拠を失っている。しかしトランプ大統領は、その合意を維持するため、合意の見直しを申し出る国に対しては、新たな関税においてより高い関税率をかけると不当な脅しをかけているのである。
 
最高裁の判決は、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく相互関税を違法とするものである。これは、大統領が議会の承認を経ずに関税を決めるのは、その権限を超えており違憲との考えに基づいている。この判決によって、大統領が決めた関税はすべて合法性が問われることとなった。
 
しかしトランプ大統領は演説で、新たな関税はより複雑だがより強いものになるとしたうえで、それは議会の承認は必要ない、と最高裁の判断に真っ向から対決する姿勢を見せている。さらに、時が経つにつれ政府の関税収入は所得税を上回るだろうとして、さらなる関税の拡大を示唆した。
 
しかしこうした主張は虚勢であり、最高裁の判決が下る前から、トランプ関税による物価高は国民の間で不評となっており、11月の中間選挙に向けて修正が求められる状況となっていた。最高裁の判決は、トランプ大統領の関税策が修正される大きなきっかけになったと考えられる(コラム「最高裁による違法判決でトランプ関税の不確実性が再び高まる。関税全体の合法性が問われ、関税の行き詰まり感が強まる方向」、2026年2月24日)。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。