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全国コアCPIは2022年3月以来4年ぶりの1%台へ

総務省が2月27日に発表した2月東京都区部消費者物価統計で、コアCPI(除く生鮮食品)は前年同月比+1.8%と2024年10月以来の2%割れとなった。3月末に公表される全国消費者物価統計でも、コアCPIは東京都区部とほぼ同水準になると予想される。その場合には、実に2022年3月以来の2%割れとなる。これは、過去4年程度に及ぶ歴史的な物価高の転機を示すものだろう。
 
年明け後の消費者物価上昇率の低下は、政府によるガソリン暫定税率廃止や電気・ガス補助金などの物価高対策による一時的なもの、との見方が多くなされている。確かにそれらの要因は物価上昇率を押し下げている。ガソリン暫定税率廃止は全国消費者物価の前年比上昇率を0.2%~0.3%ポイント押し下げ、電気・ガス補助金は消費者物価の前年比上昇率を0.24%ポイント程度押し下げていると考えられる。
 
しかし、昨年5月に前年同月比+3.7%だった全国コアCPIは、今年2月には+1.8%程度まで2%ポイントもの大幅低下が見込まれる。上記の一時的な政策変更の影響はその4分の1程度を説明できるに過ぎない。

コメ、その他食料品価格の上昇率は低下トレンドへ

物価高騰が沈静化している背景には、一時的な政策効果ではなく、コメの価格と円安の影響を受けやすいその他食料品価格の上昇率が、持続的に低下してきていることがある。
 
全国のコメの価格は昨年5月には前年比で2倍を上回り、CPIを+0.6%押し上げていた。それが今年2月には+0.1%まで低下したとみられる。コメの価格は足もとで下落しており、今後はCPIの前年比を押し下げる可能性が考えられる(図表1)。
 
またコメと生鮮食品を除く食料品は、昨年9月に全国CPIの前年比を+1.3%押し上げていたが、今年2月には+1.1%まで低下したとみられる。今後はさらにCPIの前年比の押し上げ寄与度を低下させていくことが予想される。
 
このように、足もとの急速なCPIの上昇率低下は、コメの価格高騰の一巡と、円安による原材料価格の上昇を食料品価格に転嫁する動きが弱まってきていることを反映している面がある。それらは一時的なものでなく、持続的なものとなる可能性が考えられる。
 
図表1 ​食料品の全国消費者物価押し上げ寄与度

金融政策、消費税率引き下げ議論にも影響か

一方、日本銀行が計算する基調的な3つの物価指標については、いずれも2%の物価目標を下回っている。過去2か月で、加重中央値と刈込平均値は急速に低下している(図表2)。
 
日本銀行は、消費者物価上昇率の下振れは変動の激しい項目による一時的なものであり、基調的な物価に基づいて進める金融政策には影響しないとしている。今後も追加利上げを進める考えであり、実際そうなるだろう。
 
しかし、日本銀行の追加利上げに難色を示していると見られる高市首相は、消費者物価上昇率の下振れを理由に、追加利上げをけん制する可能性がある(コラム「高市首相が日銀・植田総裁との会談で追加利上げに難色との報道:水面下での利上げけん制は続く」、2026年2月25日)。その結果、利上げ時期が後ずれする可能性が考えられる。年前半の利上げ実施は難しいのではないか。
 
他方、消費者物価上昇率の下振れとともに、2月には実質賃金上昇率がプラスに転じる可能性が考えられる。これらは、国民会議で議論が始まった消費税率の引き下げによる物価高対策の必要性を低下させ、議論の逆風となる可能性も考えられる。
 
債券市場では、消費者物価上昇率の下振れが、インフレ懸念を緩和させ、長期金利の低下を促す可能性があるだろう。日本銀行の利上げ観測の後退と消費税率の引き下げ観測の後退が加われば、長期金利の低下はより顕著になる可能性も考えられる。
 
他方、日本銀行の利上げ観測の後退と消費税率の引き下げ観測の後退は、それぞれ円安・円高要因となり、為替市場への影響は相殺される可能性も考えられる。
 
このように、2%割れとなったコアCPIは、一時的な現象ではなく、過去4年程度に及ぶ歴史的な物価高の転機を示すものと考えるべきだろう。さらにそれは、日本銀行の利上げ時期や消費税率引き下げの議論、つまり財政・金融政策にも大きな影響を与え、金融市場にも小さくない影響を与える重要なイベントとなる可能性がある。
 
図表2 日本銀行の基調的な物価指標

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。