2025年6月の前回を上回る大規模攻撃
米国とイスラエルは2月28日に、イランの直接攻撃を実施した。イスラエルは数十の軍事目標を狙った攻撃を行ったとした。中東メディアはイラン南部の小学校でも空爆があり、85人が死亡したと報じている。
トランプ大統領は、イランの核開発阻止を狙った攻撃であるとしたが、両国は核開発を巡る交渉を続けている最中であり、イラン側には譲歩の姿勢があるとされる中での攻撃には唐突感もある。
2025年6月にも米軍は核開発を巡るイランとの協議を続ける中で、イラン攻撃を実施した。その際は3つの核施設に絞った1回限りの攻撃であったが、今回はより広範囲な攻撃であり、米国はさらに攻撃を続けるとしている。イランもイスラエルに加えてアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、カタールの米軍基地を攻撃した。2025年6月の攻撃よりも長期間、広範囲な軍事衝突に発展するリスクが高いだろう。
トランプ大統領は、イラン国民に対して「政府を掌握せよ」と呼び掛けており、今回の攻撃が反米国家の体制転換を狙ったものであることを示唆した。この点から、国際法違反との批判を受けた年初のベネズエラ攻撃の延長線上にある。
米国とイスラエルによるイランへの大規模攻撃で、イランの最高指導者ハメネイ師が死亡した。これにイラン政府がどのように対応し、イラン国民がこれをどのように受け止めるかが、今後の情勢を左右するだろう。
ハメネイ師の殺害が、トランプ大統領が望むイランの体制転換につながるかどうかは不確実だ。イラン国民の間での反米感情を一段と強め、軍事衝突をより激化させる可能性もあるだろう。
トランプ大統領は、イランの核開発阻止を狙った攻撃であるとしたが、両国は核開発を巡る交渉を続けている最中であり、イラン側には譲歩の姿勢があるとされる中での攻撃には唐突感もある。
2025年6月にも米軍は核開発を巡るイランとの協議を続ける中で、イラン攻撃を実施した。その際は3つの核施設に絞った1回限りの攻撃であったが、今回はより広範囲な攻撃であり、米国はさらに攻撃を続けるとしている。イランもイスラエルに加えてアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、カタールの米軍基地を攻撃した。2025年6月の攻撃よりも長期間、広範囲な軍事衝突に発展するリスクが高いだろう。
トランプ大統領は、イラン国民に対して「政府を掌握せよ」と呼び掛けており、今回の攻撃が反米国家の体制転換を狙ったものであることを示唆した。この点から、国際法違反との批判を受けた年初のベネズエラ攻撃の延長線上にある。
米国とイスラエルによるイランへの大規模攻撃で、イランの最高指導者ハメネイ師が死亡した。これにイラン政府がどのように対応し、イラン国民がこれをどのように受け止めるかが、今後の情勢を左右するだろう。
ハメネイ師の殺害が、トランプ大統領が望むイランの体制転換につながるかどうかは不確実だ。イラン国民の間での反米感情を一段と強め、軍事衝突をより激化させる可能性もあるだろう。
懸念される日本への影響
トランプ大統領がイラン攻撃を示唆する中、2月28日(金)の米国市場ではWTI原油価格は1バレル67ドル台まで上昇していた。年初よりも10ドル程度高い水準だ。今回のイラン大規模攻撃を受けて原油価格はさらに上昇し、世界経済の下方リスクを高める可能性が高まっている。
原油価格に大きく影響するのは、イラン沖のホルムズ海峡での原油タンカーの運行への影響だ。2024年にはサウジアラビア、イラク、クウェート、UAE、イランから、日量約1,650万バレルの原油とコンデンセートがタンカーでこのホルムズ海峡を通過した。それは、世界の原油供給の約2割にあたるとされ、その多くはアジア向けだ。
日本は原油輸入の94.0%を中東地域に依存しており(2025年貿易統計)、それに用いられるタンカーの8割がホルムズ海峡を通るとされる。ホルムズ海峡が封鎖されれば、日本経済に深刻な打撃となることは避けられない。
イランの革命防衛隊(IRGC)がホルムズ海峡付近の船舶に対して通過禁止を通告したことで、ホルムズ海峡は少なくとも一時的には事実上封鎖状態になった可能性がある。
原油価格に大きく影響するのは、イラン沖のホルムズ海峡での原油タンカーの運行への影響だ。2024年にはサウジアラビア、イラク、クウェート、UAE、イランから、日量約1,650万バレルの原油とコンデンセートがタンカーでこのホルムズ海峡を通過した。それは、世界の原油供給の約2割にあたるとされ、その多くはアジア向けだ。
日本は原油輸入の94.0%を中東地域に依存しており(2025年貿易統計)、それに用いられるタンカーの8割がホルムズ海峡を通るとされる。ホルムズ海峡が封鎖されれば、日本経済に深刻な打撃となることは避けられない。
イランの革命防衛隊(IRGC)がホルムズ海峡付近の船舶に対して通過禁止を通告したことで、ホルムズ海峡は少なくとも一時的には事実上封鎖状態になった可能性がある。
イラン自身にも大きな打撃となるホルムズ海峡の封鎖
ホルムズ海峡はペルシャ湾とインド洋を結んでおり、北岸にイラン、南岸にUAE、オマーンが位置している。全長約100マイル(161キロメートル)で、最も狭い部分の幅は21マイルである。また水深が浅いことから、機雷の攻撃を受けやすい。イランの沿岸からの地対艦ミサイル攻撃や、巡視船、ヘリコプターによる妨害を受けるリスクが高くなっている。イランは、小型の高速巡視艇でホルムズ海峡を航行する船舶を妨害したり、沿岸や内陸の拠点からドローン(無人機)を飛ばし船舶に向けてミサイルを発射したりする可能性もある。
サウジはホルムズ海峡経由で最も多くの石油を輸出している国(OPECの原油生産量の約35%)だ。しかし、パイプラインを利用して紅海沿岸のターミナルに輸送することで、ホルムズ海峡と紅海南部を回避した輸出も可能だ。UAEは、ホルムズ海峡の南にあるオマーン湾のフジャイラ港まで、自国の油田からパイプラインで日量150万バレルの原油を輸送している(UAEはOPECの原油生産量の約12%)。
他方、イラクの石油輸出は地中海への石油パイプラインが閉鎖されているため、すべてバスラ港からホルムズ海峡を通過して海上輸送されている。また、クウェート、カタール、バーレーンは、ホルムズ海峡を経由する以外、原油を輸出する手段を持たない。
イラン自身も、石油輸出をホルムズ海峡の通過に大きく依存している。イランは海峡の東端にあるジャースク港に輸出ターミナルを2021年7月に正式に開設した。この施設は、同国が海路を使用せずに少量の石油を世界に出荷することを可能にしているが、その量は限られる。ホルムズ海峡を長期間封鎖すれば、イラン自身を経済的に苦境に陥れることになってしまう。
この点を考えると、イランがホルムズ海峡の長期間の完全封鎖に踏み切る可能性が高いとはまだ言えない。イランは今までホルムズ海峡を封鎖したことはない。前例がないために、それが実施された場合の原油市場の反応、世界経済・金融市場への影響については予想が難しいという面がある。それが大きな脅威でもある。
他方で、地域の軍事的なリスクの高まりを受けて、ホルムズ海峡での原油輸送に一定期間支障が生じることは間違いなく、世界の原油需給と原油価格への影響は避けられない。
サウジはホルムズ海峡経由で最も多くの石油を輸出している国(OPECの原油生産量の約35%)だ。しかし、パイプラインを利用して紅海沿岸のターミナルに輸送することで、ホルムズ海峡と紅海南部を回避した輸出も可能だ。UAEは、ホルムズ海峡の南にあるオマーン湾のフジャイラ港まで、自国の油田からパイプラインで日量150万バレルの原油を輸送している(UAEはOPECの原油生産量の約12%)。
他方、イラクの石油輸出は地中海への石油パイプラインが閉鎖されているため、すべてバスラ港からホルムズ海峡を通過して海上輸送されている。また、クウェート、カタール、バーレーンは、ホルムズ海峡を経由する以外、原油を輸出する手段を持たない。
イラン自身も、石油輸出をホルムズ海峡の通過に大きく依存している。イランは海峡の東端にあるジャースク港に輸出ターミナルを2021年7月に正式に開設した。この施設は、同国が海路を使用せずに少量の石油を世界に出荷することを可能にしているが、その量は限られる。ホルムズ海峡を長期間封鎖すれば、イラン自身を経済的に苦境に陥れることになってしまう。
この点を考えると、イランがホルムズ海峡の長期間の完全封鎖に踏み切る可能性が高いとはまだ言えない。イランは今までホルムズ海峡を封鎖したことはない。前例がないために、それが実施された場合の原油市場の反応、世界経済・金融市場への影響については予想が難しいという面がある。それが大きな脅威でもある。
他方で、地域の軍事的なリスクの高まりを受けて、ホルムズ海峡での原油輸送に一定期間支障が生じることは間違いなく、世界の原油需給と原油価格への影響は避けられない。
先行きの原油価格の3つのシナリオと日本経済への影響
イラン情勢を受けた今後の原油価格について3つのシナリオを設定し、それによる日本経済・物価への影響を試算した(図表)。
シナリオは3つである。第1は、イランと米国・イスラエルの軍事衝突が2025年6月の前回並みにとどまり、当時と同様に、原油価格の上昇幅が1バレル10ドル程度に収まるケースだ。
第2は、イランと米国・イスラエルの軍事衝突が長期化し、さらに中東地域全体が軍事的リスクに直面する場合だ。既にホルムズ海峡は事実上封鎖状態にあると報じられている。しかしイラン政府が正式にホルムズ海峡の封鎖を宣言した事実はなく、船舶の運航に大きな支障が生じる状態がどの程度続くかはまだ分からない。
このシナリオでは、イランはホルムズ海峡を完全封鎖はしないものの、同地域での軍事活動によって原油輸送に一定程度支障が生じ、それが長期化することを想定した。そして、2024年にイランとイスラエルの間に直接的な攻撃の応酬が生じた際の原油価格のピークであった1バレル87ドルまで原油価格が上昇することを想定した。
第3は、イラン国内での反米機運が一段と高まり、自国への経済的な打撃を甘受しつつ、初めてイランが正式にホルムズ海峡の完全封鎖に踏み切り、しかもそれが1年など長期間続く見通しとなる場合だ。この際に、原油価格がリーマンショック前の2008年の最高値である1バレル140ドルまで上昇することを想定した。
第1が楽観シナリオ、第3が悲観シナリオ、第2がベースシナリオ(メインシナリオ)である。第2のベースシナリオのもとでは、日本の実質GDPは1年間で0.18%押し下げられる。また、物価は1年間で0.31%押し上げられると試算される。日本経済には相応の打撃となる一方、コメを含む食料品価格上昇率の低下によってようやく沈静化を見せつつある物価高騰を再燃させてしまう可能性もある(コラム「2月東京都コアCPIが2%割れ:食料品価格の上昇率低下で歴史的な物価高は沈静化へ:金融政策、消費税率引き下げ議論にも影響」、2026年2月27日)。
このケースでは、国内のガソリン価格は約3割上昇して、全国レギュラー平均で1リットル200円を超える。ガソリン暫定税率廃止によるガソリン価格押し下げ効果は消失することになる。電気代、ガス代も半年から1年程度の間に1割を超える上昇となり、国民生活に逆風となるだろう。
ガソリン価格や電気・ガス代の上昇は輸送コスト、製造コストを上昇させ、幅広い品目で価格上昇が生じよう。コスト上昇の価格転嫁が難しい中小・零細企業の収益には大きな打撃となり、そこで働く従業員の賃上げを阻害するだろう。
第3のシナリオでは、日本の実質GDPは1年間で0.65%押し下げられる。また、物価は1年間で1.14%押し上げられると試算される。その場合、日本は景気悪化と物価高騰が共存するスタグフレーションの様相を強め、景気後退に陥る可能性が生じるだろう。
シナリオは3つである。第1は、イランと米国・イスラエルの軍事衝突が2025年6月の前回並みにとどまり、当時と同様に、原油価格の上昇幅が1バレル10ドル程度に収まるケースだ。
第2は、イランと米国・イスラエルの軍事衝突が長期化し、さらに中東地域全体が軍事的リスクに直面する場合だ。既にホルムズ海峡は事実上封鎖状態にあると報じられている。しかしイラン政府が正式にホルムズ海峡の封鎖を宣言した事実はなく、船舶の運航に大きな支障が生じる状態がどの程度続くかはまだ分からない。
このシナリオでは、イランはホルムズ海峡を完全封鎖はしないものの、同地域での軍事活動によって原油輸送に一定程度支障が生じ、それが長期化することを想定した。そして、2024年にイランとイスラエルの間に直接的な攻撃の応酬が生じた際の原油価格のピークであった1バレル87ドルまで原油価格が上昇することを想定した。
第3は、イラン国内での反米機運が一段と高まり、自国への経済的な打撃を甘受しつつ、初めてイランが正式にホルムズ海峡の完全封鎖に踏み切り、しかもそれが1年など長期間続く見通しとなる場合だ。この際に、原油価格がリーマンショック前の2008年の最高値である1バレル140ドルまで上昇することを想定した。
第1が楽観シナリオ、第3が悲観シナリオ、第2がベースシナリオ(メインシナリオ)である。第2のベースシナリオのもとでは、日本の実質GDPは1年間で0.18%押し下げられる。また、物価は1年間で0.31%押し上げられると試算される。日本経済には相応の打撃となる一方、コメを含む食料品価格上昇率の低下によってようやく沈静化を見せつつある物価高騰を再燃させてしまう可能性もある(コラム「2月東京都コアCPIが2%割れ:食料品価格の上昇率低下で歴史的な物価高は沈静化へ:金融政策、消費税率引き下げ議論にも影響」、2026年2月27日)。
このケースでは、国内のガソリン価格は約3割上昇して、全国レギュラー平均で1リットル200円を超える。ガソリン暫定税率廃止によるガソリン価格押し下げ効果は消失することになる。電気代、ガス代も半年から1年程度の間に1割を超える上昇となり、国民生活に逆風となるだろう。
ガソリン価格や電気・ガス代の上昇は輸送コスト、製造コストを上昇させ、幅広い品目で価格上昇が生じよう。コスト上昇の価格転嫁が難しい中小・零細企業の収益には大きな打撃となり、そこで働く従業員の賃上げを阻害するだろう。
第3のシナリオでは、日本の実質GDPは1年間で0.65%押し下げられる。また、物価は1年間で1.14%押し上げられると試算される。その場合、日本は景気悪化と物価高騰が共存するスタグフレーションの様相を強め、景気後退に陥る可能性が生じるだろう。
図表 イラン情勢の緊迫化と原油価格上昇の日本経済への影響のシナリオ別試算


消費税率引き下げ議論に与える影響は?
原油価格上昇による景気の下振れと物価上昇率の上振れは、物価高対策の必要性を再び高め、政府による飲食料品の消費税率を2年間ゼロにすることを目指す議論を後押しする可能性が考えられる。
他方で、物価上昇に対して迅速に対応できないという消費税率引き下げの弱点も浮き彫りになることから、当面の対策では給付金が実施され、より抜本的な物価高対策として、消費税率の引き下げではなく給付付き税額控除の導入を急ぐべき、の議論が進む可能性もあるのではないか。
一方、日本銀行は、景気の下振れリスクの高まりを受けて、追加利上げにより慎重にならざるを得ないだろう。
他方で、物価上昇に対して迅速に対応できないという消費税率引き下げの弱点も浮き彫りになることから、当面の対策では給付金が実施され、より抜本的な物価高対策として、消費税率の引き下げではなく給付付き税額控除の導入を急ぐべき、の議論が進む可能性もあるのではないか。
一方、日本銀行は、景気の下振れリスクの高まりを受けて、追加利上げにより慎重にならざるを得ないだろう。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。