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原油価格111ドルまでの上昇で日本株は4,000円超の急落

3月9日の週明けの市場で、WTI原油先物価格は1バレル100ドルを超え、一時111ドルにまで上昇した。これを受けて9日の日経平均株価は一時4,200円の急落となった。下落幅は、過去最大となった2024年8月5日の-4,451円に近づいている。
 
原油価格上昇による日本経済や企業収益への悪影響への懸念に加え、2月米雇用統計の下振れを受けて米国経済悪化への懸念も株価の大幅下落をもたらしている(コラム「原油価格が100ドル超:日本は原油高、円安、景気減速の三重苦に」、2026年3月9日)。
 
WTI原油先物価格は、筆者が想定した1バレル77ドルの楽観シナリオから1バレル87ドルという最も実現可能性が高いと考えるベースシナリオ(メインシナリオ)に移行し、さらに1バレル140ドルの悲観シナリオに近づいてきた(図表)。
 
同表で示す経済、物価への影響試算は、原油価格についてそれぞれの想定水準が今後も続くことを前提に算出される。そのため、原油価格が一時111ドル台をつけたからといって、ベースシナリオ(メインシナリオ)と悲観シナリオの中間の経済・物価への影響が生じることが確定するという訳ではない。
 
ちなみに111ドルの原油価格が1年続く場合には、国内ガソリン価格1リットル261円(政府の対策がない場合)、実質GDPは1年間で0.39%下落し、物価は0.69%上昇する計算だ。
 
図表 イラン情勢の緊迫化と原油価格上昇の日本経済への影響のシナリオ別試算

イラン情勢を受けた株価下落で実質GDPは追加で0.13%程度下落する可能性

ただし留意したいのは、経済への影響は原油価格上昇の影響に基づいて計算しているという点だ。株価下落など金融市場の混乱がもたらす心理的な悪影響、企業の資金調達への悪影響を勘案すれば、経済活動への悪影響はこの試算値を上回るだろう。
 
「家計が保有する金融資産価値が100円変化すると、個人消費は約3.5円変化する」という、2009年の内閣府の試算に基づくと、現時点での株価10%の下落は実質GDPを0.1%程度押し下げる計算となる。
 
日経平均株価はイラン紛争直前から足元まで13%程度下落した。その影響によって、実質GDPは0.13%程度、追加で押し下げられることが見込まれる。

長期金利上昇で株価下落に歯止めがかからない構図に

9日の市場では、株価下落のみならず、円安、債券安も進んでいる。通常、株価が下落する際には、安全資産である国債に資金が逃げ、債券高(長期金利低下)になりやすい。その長期金利低下が株価の下落に歯止めをかける効果が期待される。
 
ところが現状では、株価が大幅下落する中で、長期金利は上昇しており、株価の下落に歯止めがかからない状況に陥っている。
 
円安、株安、債券安のいわゆるトリプル安は、日本から資金が流出する「日本売り」のサインでもある。イラン情勢の悪化を受けて、日本経済が抱える様々な構造問題が浮き彫りになった結果と言えるだろう。日本が原油、LNGを海外に依存していること、原油の94%(2025年)を中東に依存していること、主要国の中で政府債務残高のGDP比率が最も高い中、原油価格の高騰を受けて政府の経済対策が実施され、それが財政環境を一段と悪化させるとの懸念が生じていることなどが背景にあると考えられる。
 
自律的に金融市場の混乱が収まらない場合には、金融市場の混乱が経済を悪化させ、それが金融市場を混乱させるという悪循環が生じる可能性がある。それを食い止めるのは、政府の財政出動とともに中央銀行による緊急の金融緩和策だ。
 
日本銀行はさらなる利上げ(政策金利の引き上げ)を目指しており、それに難色を示す高市政権と水面下で対立しているとみられる。しかし金融市場の混乱が深まる場合には、日本銀行は金融緩和措置を検討するだろうが、現状は未だその段階にない。ただし、金融市場の安定回復を狙って、当面の利上げに慎重な姿勢を金融市場に示す可能性が考えられる。その場合には、日本銀行の利上げ時期は大きく後ずれするとの見通しが強まるだろう。
 
ただしそうした金融政策が、さらなる円安と物価高を許してしまうとの見方が広がる場合には、国内経済への悪化が懸念され、株価の安定化につながらない可能性もある。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。