G7による石油備蓄の共同放出の効果は一時的で限定的
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は11日に、国際エネルギー機関(IEA)が過去最大規模の1億8,200万バレル超の石油備蓄の放出をG7各国に提案したと報じた。仮に同規模の石油備蓄が放出されるとしても、世界の原油需給に与える影響は大きくなく、原油価格の押し下げ効果は一時的で限定的だろう。
G7の石油備蓄量は、約35億バレル~約39.2億バレルと考えられる(コラム「原油価格が一時120ドルに接近:G7が石油備蓄の共同放出を検討」、2026年3月9日)。石油備蓄の目的は、原油価格の上昇を抑えるためではなく、原油の調達が困難になるような緊急事態の際に企業に原油を供給し、経済活動を維持することにある。
石油備蓄量を大きく減らすことはできないため、G7が石油備蓄の共同放出を行うとしても、わずかな量にとどめる可能性が高い。一方、IEAのOil Market Reportによると、世界の原油消費量は日量102~103百万バレルである。IEAが共同放出を提案する1.8億バレルは、世界の原油消費量の2日分にも満たない。
G7の石油備蓄量は、約35億バレル~約39.2億バレルと考えられる(コラム「原油価格が一時120ドルに接近:G7が石油備蓄の共同放出を検討」、2026年3月9日)。石油備蓄の目的は、原油価格の上昇を抑えるためではなく、原油の調達が困難になるような緊急事態の際に企業に原油を供給し、経済活動を維持することにある。
石油備蓄量を大きく減らすことはできないため、G7が石油備蓄の共同放出を行うとしても、わずかな量にとどめる可能性が高い。一方、IEAのOil Market Reportによると、世界の原油消費量は日量102~103百万バレルである。IEAが共同放出を提案する1.8億バレルは、世界の原油消費量の2日分にも満たない。
混乱するトランプ政権内での情報発信
10日の米国市場では、原油価格の乱高下が続いており、市場は引き続き不安定な状況だ。WTI原油先物価格は一時1バレル80ドルを割り込む局面もあった。これは、トランプ大統領の顧問が、米国がイランとの戦争から撤退するようにトランプ大統領に促したと報じられ、戦争の早期終結への期待が浮上したためだ。
他方、CNNは、イランがここ数日、ホルムズ海峡に数十個の機雷を設置したと報道した。ホルムズ海峡での機雷設置は、ホルムズ海峡の事実上の封鎖を長期化させるものであり、原油市場が懸念してきたイベントである。これを受けて原油価格は再び上昇し、一時1バレル90ドルに接近する局面も見られた。
原油市場、金融市場のボラティリティの高さは、情報の混乱によっても増幅されている。ライト米エネルギー相は、米海軍がホルムズ海峡を通過する石油タンカーを護衛したと投稿したが、これは誤った情報であり、ホワイトハウスはそうした措置は実施されていないとすぐに否定した。
また9日にトランプ大統領は、戦闘は短期間で終結と発言したが、10日にヘグセス米国防長官は、イランに対する最も激しい攻撃を行っていると発表し、イランが敗北するまで攻撃をやめないという方針を強調した。これはトランプ大統領と相反するものだ。
他方、CNNは、イランがここ数日、ホルムズ海峡に数十個の機雷を設置したと報道した。ホルムズ海峡での機雷設置は、ホルムズ海峡の事実上の封鎖を長期化させるものであり、原油市場が懸念してきたイベントである。これを受けて原油価格は再び上昇し、一時1バレル90ドルに接近する局面も見られた。
原油市場、金融市場のボラティリティの高さは、情報の混乱によっても増幅されている。ライト米エネルギー相は、米海軍がホルムズ海峡を通過する石油タンカーを護衛したと投稿したが、これは誤った情報であり、ホワイトハウスはそうした措置は実施されていないとすぐに否定した。
また9日にトランプ大統領は、戦闘は短期間で終結と発言したが、10日にヘグセス米国防長官は、イランに対する最も激しい攻撃を行っていると発表し、イランが敗北するまで攻撃をやめないという方針を強調した。これはトランプ大統領と相反するものだ。
米国民はガソリン価格が低下しない戦争終結は受け入れない
トランプ大統領は、原油価格の上昇が米国内でのガソリン価格を押し上げ、国民の間でトランプ政権に対する批判が高まることへの警戒を徐々に強めている。トランプ政権がイスラエル政府に対し、イランのエネルギー・石油施設への攻撃停止を求めたと報じられているが、イランの原油供給に打撃を与え、原油価格の上昇を招くことを避ける狙いがあるだろう。
トランプ大統領としては、イラン攻撃は大成功だったと宣言した上で戦争を終結させ、それを原油価格や米国内でのガソリン価格の下落につなげていくことを、今後は目指していくだろう。それが、11月の中間選挙に向けてトランプ政権にとってはベストなシナリオだ。しかしその実現は容易でない。
トランプ政権が一方的に戦争の終結を宣言しても、イランの報復攻撃は収まらない。米国が中東での軍事行動を控えれば、イランによる周辺国の石油設備への攻撃やより実効性の高いホルムズ海峡の封鎖を許してしまうだろう。それは原油価格のさらなる上昇を招く。
米国民にとって、真の戦争の終結は、トランプ大統領がそれを宣言することではなく、原油、ガソリン価格が落ち着きを取り戻すことだ。
トランプ大統領としては、イラン攻撃は大成功だったと宣言した上で戦争を終結させ、それを原油価格や米国内でのガソリン価格の下落につなげていくことを、今後は目指していくだろう。それが、11月の中間選挙に向けてトランプ政権にとってはベストなシナリオだ。しかしその実現は容易でない。
トランプ政権が一方的に戦争の終結を宣言しても、イランの報復攻撃は収まらない。米国が中東での軍事行動を控えれば、イランによる周辺国の石油設備への攻撃やより実効性の高いホルムズ海峡の封鎖を許してしまうだろう。それは原油価格のさらなる上昇を招く。
米国民にとって、真の戦争の終結は、トランプ大統領がそれを宣言することではなく、原油、ガソリン価格が落ち着きを取り戻すことだ。
原油市場、金融市場のボラティリティの高さはなお続く
既に、ホルムズ海峡を通じた原油、LNGの輸出が滞り、貯蔵が難しくなっていることを受けて、湾岸諸国では原油、LNGの生産を止める動きが広がっている。それが長期化すれば、仮に戦争状態が終息しても、湾岸諸国の原油、LNGの供給が正常化するまでには時間がかかるようになる。それは原油価格の高止まりを長期化させるだろう。
イランと米国、イスラエルが正式に戦争終結で合意できれば、原油価格も落ち着きを取り戻すだろう。殺害された最高指導者アリ・ハメネイ師の後継は次男のモジタバ・ハメネイ師となったが、彼は革命防衛隊(IRGC)と極めて近いとされ、反米姿勢が強い。トランプ大統領はモジタバ・ハメネイ師と対話する可能性を示唆したが、早期にそれが実現される可能性は低い。
国内世論に配慮して、トランプ大統領が戦争終結に向けた動きを強めることが、最終的には事態の終息につながると見ておきたいが、その時期はまだ不明だ。トランプ大統領のスタンスが一貫せず、トランプ政権内での情報発信が混乱する中、原油市場、金融市場のボラティリティの高さはなお続くだろう。
イランと米国、イスラエルが正式に戦争終結で合意できれば、原油価格も落ち着きを取り戻すだろう。殺害された最高指導者アリ・ハメネイ師の後継は次男のモジタバ・ハメネイ師となったが、彼は革命防衛隊(IRGC)と極めて近いとされ、反米姿勢が強い。トランプ大統領はモジタバ・ハメネイ師と対話する可能性を示唆したが、早期にそれが実現される可能性は低い。
国内世論に配慮して、トランプ大統領が戦争終結に向けた動きを強めることが、最終的には事態の終息につながると見ておきたいが、その時期はまだ不明だ。トランプ大統領のスタンスが一貫せず、トランプ政権内での情報発信が混乱する中、原油市場、金融市場のボラティリティの高さはなお続くだろう。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。