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国際エネルギー機構(IEA)は3月11日に、加盟32か国の石油備蓄の放出を決定した。放出量は4億バレルと過去最大規模となる。しかしこの決定を受けても、原油価格は下落せず、WTI原油先物価格は12日の東京時間朝に1バレル94ドルまで上昇した。
 
世界全体での原油の消費量は一日当たり1億バレル強と推定されることから、石油備蓄の放出量は4日分弱の消費量に過ぎない。原油市場の需給に大きな影響を与え、原油価格を押し下げるのには力不足だ。
 
高市首相は11日夜の記者会見で、16日にも日本単独での石油備蓄放出を行う考えを打ち出した。それと同時に、ガソリン補助金の再導入でガソリン価格を1リットル当たり170円程度で安定させる措置を講じる考えを示した(コラム「石油備蓄放出とガソリン補助金復活の合わせ技」、2026年3月12日)。ガソリン不足への懸念から、国内ではガソリンの買い急ぎなど混乱がみられ始めていた。この点から、石油備蓄放出とガソリン補助金の再導入は必要な措置と考えられる。しかし、ガソリン補助金については出口が見えないまま、政策の再開を決めたことになる。
 
筆者のメインシナリオでは、WTI原油先物価格は87ドルで横這いで推移することを前提としている。その場合、1か月程度後の国内ガソリン価格が1リットル204円となる計算だ。政府は補助金を通じて、この1リットル204円のガソリン価格を1リットル170円に抑えることになる。それは34円分である。
 
他方、日本では1日に平均約1.2億リットルのガソリンが消費されていると推測される。以上から、政府はガソリン価格を1リットル170円に抑えるために、毎日40.8億円の財政資金を投入することになる。政府は、補助金基金の残り2,800億円をガソリン補助金の財源に充てると説明しているが、その予算は68.6日、つまり2か月強で使い果たしてしまう計算だ。原油価格が87ドル以上で推移すれば、予算を使い果たしてしまう時期はさらに早まる。
 
現在審議中の2026年度予算で予備費は1兆円計上されている。これをすべてガソリン補助金に充てることは難しいことから、いずれ2026年度補正予算の前倒し編成を余儀なくされる可能性もあるだろう。ガソリン価格の安定と引き換えに、政府は財政負担の増加リスクを受け入れることになる。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。