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米連邦最高裁は2月20日に、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく相互関税、中国・カナダ・メキシコに対する一律関税(フェンタニル関税)を違憲と判断し、すべて無効とした。一方、この最高裁判決は還付方法などには触れず、下級審の貿易裁に具体策の検討を委ねていた。
 
米政府側は4日の協議で、「政府側はまだ還付金についての立場を明確にしていない」と説明したが、貿易裁のイートン判事はこれを一蹴し、米税関・国境取締局(CBP)に事実上の還付命令を出した。
 
CBPによると、3月4日時点で約33万の輸入事業者がIEEPAに基づく関税を支払っている。輸入申告件数ベースでは5,300万件を超え、金額では1,660億ドル(約26兆円)だった。このうち約2,010万件がまだ「仮払い」の状態だったという。
 
貿易裁は4日に、違法とされた関税を課すことなく関税額を確定するようCBPに指示した。これに対し、CBPは提出した文書で、対象となる関税の分類に膨大な作業を迫られるなどとし、猶予を求めた。これは一種の引き延ばし戦略の一環とみられる。
 
貿易裁のイートン判事は、最高裁での訴訟の原告でなくとも、違憲の関税を払った輸入事業者すべてが還付を受ける資格があるとの考え方を示している。最高裁でのトランプ政権の敗色が濃厚となった2025年11月以降、還付請求権を保全するために2,000件以上の訴訟が起きた。月初旬時点で日本企業も川崎重工業、豊田通商、横浜ゴムなど少なくとも10社が訴訟を起こしている(コラム「相互関税が失効しても支払った関税が企業に返還されるかどうかは不確実」、2026年2月24日)。
 
イートン判事は、トランプ関税を払った事業者ならすべて還付請求権を持っており、訴訟なしで還付を請求できる方法を「模索したい」と明言した。今後の貿易裁とCBPとの協議では、訴訟なしで還付を受けられる仕組みも議題になる見込みだ。
 
税還付についてトランプ大統領は、「今後5年は法廷で争うことになるだろう」と述べ、返還を強く拒否する構えを見せていた。しかし実際には、比較的早期に、すべての輸入業者に対して税還付を行う方向に事態は向かっている。
 
(参考資料)
「トランプ関税26兆円徴収、還付に膨大な手作業 システム改修1カ月半」、2026年3月7日、日本経済新聞電子版
「米裁判所がトランプ関税還付を命令 「訴訟なしで還付」の方法検討へ」、2026年3月5日、日本経済新聞電子版
「トランプ関税の還付、米政権の「90日間先延ばし」認めず 米裁判所」、2026年3月3日、日本経済新聞電子版

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。