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中東情勢悪化のもとでも利上げ姿勢に変化がないことを示唆

日本銀行は3月19日に開かれた金融政策決定会合で、大方の事前予想通りに政策金利の据え置きを決めた。1人の政策委員が、前回の会合と同様に、1%程度までの利上げを主張し、政策金利の据え置きに反対した。
 
今回の会合では、2月末に始まった中東情勢の緊迫化について、どのような評価をするかが最大の注目点だった。
 
対外公表文の先行きの経済に関する記述では、中東情勢の緊迫化による金融市場の不安定な動きと原油価格の大幅な上昇の影響について、「今後の動向には注意が必要」とした。一方、物価については、「原油価格上昇が基調的な物価上昇率の見通しに及ぼす影響についても、留意が必要である」として、景気、物価双方への配慮が示された。
 
中東情勢の緊迫化が生じても、「展望レポートの見通し期間後半には物価安定の目標と概して整合的な水準で推移する」との記述や「経済・物価の見通しが実現していくとすれば、経済・物価の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えている」との記述から、利上げに向けた日本銀行の姿勢に変わりがないことがアピールされた。
 
パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が中東情勢の経済、物価への影響を評価するのは時期尚早、と発言したように、日本銀行も中東情勢の緊迫化の影響については現時点では計りかねているはずだ(コラム「原油価格高騰を受けて様子見姿勢を強めるFRB」、2026年3月19日)。
 
しかし、円安をけん制することと、日本銀行の利上げに難色を示しているとみられる高市政権をけん制する観点から、利上げ姿勢に変化がないことを意図的に強調しているように見える。

為替介入の可能性

植田総裁の記者会見でも、利上げに向けた日本銀行の姿勢に変わりがないことが強調されるとともに、円安をけん制する発言が出る可能性があるだろう。
 
ドル円レートは1ドル160円と、政府の防衛ラインと考えられる水準にほぼ達している。今年の1月23日には、日本銀行が金融政策決定会合で政策金利の据え置きを決め、記者会見で植田総裁が先行きの利上げを示唆する発言をしなかったことを受けて、ドル円レートは1ドル159円まで円安が進み、その後は日本銀行と米当局が銀行に為替の水準を問い合わせる「レートチェック」を実施し、円安ドル高の進行をけん制した。
 
19日の記者会見で植田総裁は、自身の発言が円安に拍車をかけないように、円安をけん制する発言を意図的にする可能性がある。
 
植田総裁の記者会見を受けて為替市場で円安が進めば、政府はドル売り円買いの為替介入に踏み切る可能性があるだろう。逆に、円高に振れた場合にも、政府は市場に大きな影響を与えやすい円の押し上げ介入を行う可能性がある。
 
さらに、日本が休日である20日にも、為替介入が実施される可能性があるため、注意しておきたい。日本が休日で取引が薄ければ、為替介入の効果は大きくなるためだ。

日本銀行は利上げを急がない

2024年3月のマイナス金利解除以降の日本銀行の利上げの間隔は、平均7か月程度だ(図表)。政策金利は極端に低い水準から、経済に対して中立的な水準近くに次第に接近してきた。中立水準は厳密には分からないが、日本銀行は、これまで以上に経済への影響を注視する必要がある。この点から、利上げの間隔は今までよりも開くと考えるのが自然だろう。
 
図表 日本銀行の政策金利引き上げ

サプライショックによる物価上振れ時には中央銀行は様子見姿勢

ただし、イラン攻撃を受けた原油価格の高騰は、当面の物価情勢を大きく変えてしまった。表面的な物価上昇率には、再び上振れリスクが出てきた。
 
原油供給に支障が生じ、原油価格が高騰するといったサプライショックの物価上昇時には、中央銀行の金融政策は様子見となるのが定石だ。そうしたサプライショックは、物価上昇率を高めると同時に、景気を悪化させるため、経済と物価の安定の双方に責任を持つ中央銀行は、どちらのリスクが高くなるかをしばらく見極める必要があるからだ。その結果、FRBの利下げは後ずれしやすい。
 
過去数年の日本での物価上昇率の上振れは、国内景気の強さではなく円安による輸入物価の上昇から生じたコストプッシュ型の「悪い物価上昇」だ。原油価格の高騰も同様に、コストプッシュ型の「悪い物価上昇」である。他国と比べても、個人消費を中心に足腰が弱い日本経済にとって、原油価格高騰は経済への悪影響は大きくなりやすい。
 
WTI原油先物価格が、向こう半年から1年の平均値で1バレル140ドルになる悲観ケースでは、日本は景気後退に陥る可能性があり、スタグフレーションの傾向が強まることが予想される。

経済の悪化リスクと高市政権による利上げけん制

さらに米国では、プライベートクレジットによる企業への融資に焦げ付きのリスクが生じ、投資家が資金を引き上げる動きがみられる。原油価格の上昇が企業の経営環境を悪化させ、事態がさらに悪化する可能性もある。最悪の場合には、経済、金融危機の様相に発展するリスクも一定程度考えておく必要があるかもしれない。
 
また、2月16日に高市首相が日本銀行の植田総裁と会談した際に、追加利上げに難色を示していた、と報じられた。円安リスクを高めることや、トランプ政権から批判されたことを受けて、高市首相は公開の場で日本銀行の利上げをけん制することは控えるようになったが、水面下では引き続き日本銀行の利上げを引き続きけん制しているとみられる。原油価格の上昇を受けて、より日本銀行の利上げには否定的になっている可能性が高い。
 
このような点を踏まえると、日本銀行は次回4月の決定会合でも利上げを見送り、さらに利上げ時期は年後半となる可能性が高まっていると考えたい。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。