リーマンショック後に急成長を遂げたプライベート・クレジット・ファンド
イラン情勢を受けた原油の供給減少と原油価格の高騰が、世界経済の下振れリスクを高めている。さらにそれが、長年蓄積されてきた金融不均衡の本格的な調整を引き起こすきっかけとなる可能性もある。そうしたリスクの一つが、米国のプライベート・クレジット・ファンドであるかもしれない(コラム「次の注目はプライベート・クレジット・ファンド」、2023年5月11日、「米国プライベート・クレジット・ファンドの潜在力と今後の注目点」、2024年5月29日)。
プライベート・クレジット・ファンドとは、非上場企業に対して行う直接融資を行う、銀行ではなくノンバンクのファンドを指す。多くのプライベート・クレジット・ファンドは証券取引委員会(SEC)、米連邦準備制度理事会(FRB)や他の銀行規制当局の監督、規制が十分になされてない。そのため、実態が必ずしも明らかではなく、リスクが蓄積されやすいと指摘されてきた。
プライベート・クレジット・ファンドは、2008年のリーマンショック以降に急成長を遂げた。リーマンショック後の銀行規制の強化により、大手の銀行が企業向け貸出の抑制を強いられる中、それを補う形で非上場企業に資金を供給する役割を果たした。
また、低金利下で運用難に直面する投資家に対しては、比較的高い運用利回りを提供した。そうしてプライベート・クレジット・ファンドは急成長を遂げ、FRBによると、米国のプライベート・クレジット・ファンドは「ドライパウダー(投資待機資金)」を含め、2023年6月に1兆7,000億ドルと、米国で非上場企業、低格付け企業向けに資金を提供する他のチャネルであるレバレッジド・ローン(約1兆5,000億ドル)やハイイールド債(約1兆8,000億ドル)に匹敵する規模にまで成長したのである。
プライベート・クレジット・ファンドとは、非上場企業に対して行う直接融資を行う、銀行ではなくノンバンクのファンドを指す。多くのプライベート・クレジット・ファンドは証券取引委員会(SEC)、米連邦準備制度理事会(FRB)や他の銀行規制当局の監督、規制が十分になされてない。そのため、実態が必ずしも明らかではなく、リスクが蓄積されやすいと指摘されてきた。
プライベート・クレジット・ファンドは、2008年のリーマンショック以降に急成長を遂げた。リーマンショック後の銀行規制の強化により、大手の銀行が企業向け貸出の抑制を強いられる中、それを補う形で非上場企業に資金を供給する役割を果たした。
また、低金利下で運用難に直面する投資家に対しては、比較的高い運用利回りを提供した。そうしてプライベート・クレジット・ファンドは急成長を遂げ、FRBによると、米国のプライベート・クレジット・ファンドは「ドライパウダー(投資待機資金)」を含め、2023年6月に1兆7,000億ドルと、米国で非上場企業、低格付け企業向けに資金を提供する他のチャネルであるレバレッジド・ローン(約1兆5,000億ドル)やハイイールド債(約1兆8,000億ドル)に匹敵する規模にまで成長したのである。
一部のプライベート・クレジット・ファンドが解約を制限
しかしそうした急成長の陰で、与信管理が十分ではないプライベート・クレジット・ファンドが一部にあることも指摘されてきた。最近では、金融会社で起きた不正絡みのデフォルト(債務不履行)が、プライベート・クレジット・ファンドが抱える潜在的なリスクへの注目を高めることになった。
プライベート・クレジット・ファンドの融資はほぼ取引されないため、融資の真の価値は不明確だ。それに対する信頼が低下すれば、投資家の解約が加速し、ファンドは貸出債権を売却せざるを得なくなる。
プライベート・クレジット・ファンドは、「取り付け」が起こりにくいとされてきた。オープン型ファンドとは異なり、プライベート・クレジット・ファンドは投資家がいつでも自由に解約できるわけではないからだ。
ただし、個人投資家向けの一部のファンドは、一定の上限まで定期的な償還を認めている。最近、幾つかのファンドで償還がこの上限に達したという。また最近、一部のプライベート・クレジット・ファンドが解約を制限する動きを見せた。これは、契約上認められた流動性管理措置であるものの、投資家を警戒させている。投資家の解約意向が一斉に強まる局面では、この制限措置が市場心理を冷やし、新規資金流入の鈍化や、他商品の償還要求の連鎖を通じてストレスを増幅させる可能性があるだろう。
プライベート・クレジット・ファンドの融資はほぼ取引されないため、融資の真の価値は不明確だ。それに対する信頼が低下すれば、投資家の解約が加速し、ファンドは貸出債権を売却せざるを得なくなる。
プライベート・クレジット・ファンドは、「取り付け」が起こりにくいとされてきた。オープン型ファンドとは異なり、プライベート・クレジット・ファンドは投資家がいつでも自由に解約できるわけではないからだ。
ただし、個人投資家向けの一部のファンドは、一定の上限まで定期的な償還を認めている。最近、幾つかのファンドで償還がこの上限に達したという。また最近、一部のプライベート・クレジット・ファンドが解約を制限する動きを見せた。これは、契約上認められた流動性管理措置であるものの、投資家を警戒させている。投資家の解約意向が一斉に強まる局面では、この制限措置が市場心理を冷やし、新規資金流入の鈍化や、他商品の償還要求の連鎖を通じてストレスを増幅させる可能性があるだろう。
見えづらい銀行システムのリスク
また、プライベート・クレジット・ファンドは銀行からの借り入れの割合が小さく、銀行システムの不安をもたらしにくいことも、プラスの面として指摘されてきた。
実際、銀行の直接的なエクスポージャーはプライベート・クレジット・ファンドの総資産に対して小さい。多くの銀行は、「合成リスク移転(SRT)」を通じて、融資がデフォルトとなった場合の損失をヘッジファンドなどに移転しているという。
国際通貨基金(IMF)のワーキングペーパーは、2016年以降に1兆ドル超の資産が合成的に証券化されてきたとし、SRT市場の拡大と構造の複雑化が、金融システム内のレバレッジやロールオーバー・リスクを高め得る点を指摘し、監督・開示の重要性を訴えている。
また国際決済銀行(BIS)も、SRTが銀行とノンバンクの連関を深め、情報が断片的であるがゆえにリスクが見えにくい点を踏まえ、監視の強化が必要になり得ると論じている。
しかしこうした仕組みの下でヘッジファンドは、他の銀行からの借り入れによって、他の銀行のプライベート・クレジット・ファンド向け融資のリスクを引き受けているとみられる。間接的な面も含めると、銀行がプライベート・クレジット・ファンドの融資に対して一定程度のエクスポージャーを抱えている可能性が考えられる。
そのもとでは、プライベート・クレジット・ファンドの融資のデフォルトや融資価値の毀損が、一定程度、銀行システムの不安定化につながるリスクがあるだろう。IMFは、こうした結びつきが、「潜在的な伝染リスク」を高めていると述べている。
米国の生命保険会社は、プライベート・クレジット・ファンドへの大口投資家だ。IMFは生命保険会社のプライベート・クレジット・ファンド保有に対する信用格付けが過大評価されている可能性を指摘し、これが景気後退時に予測をはるかに上回るデフォルトをもたらすリスクがあるとも警告している。
実際、銀行の直接的なエクスポージャーはプライベート・クレジット・ファンドの総資産に対して小さい。多くの銀行は、「合成リスク移転(SRT)」を通じて、融資がデフォルトとなった場合の損失をヘッジファンドなどに移転しているという。
国際通貨基金(IMF)のワーキングペーパーは、2016年以降に1兆ドル超の資産が合成的に証券化されてきたとし、SRT市場の拡大と構造の複雑化が、金融システム内のレバレッジやロールオーバー・リスクを高め得る点を指摘し、監督・開示の重要性を訴えている。
また国際決済銀行(BIS)も、SRTが銀行とノンバンクの連関を深め、情報が断片的であるがゆえにリスクが見えにくい点を踏まえ、監視の強化が必要になり得ると論じている。
しかしこうした仕組みの下でヘッジファンドは、他の銀行からの借り入れによって、他の銀行のプライベート・クレジット・ファンド向け融資のリスクを引き受けているとみられる。間接的な面も含めると、銀行がプライベート・クレジット・ファンドの融資に対して一定程度のエクスポージャーを抱えている可能性が考えられる。
そのもとでは、プライベート・クレジット・ファンドの融資のデフォルトや融資価値の毀損が、一定程度、銀行システムの不安定化につながるリスクがあるだろう。IMFは、こうした結びつきが、「潜在的な伝染リスク」を高めていると述べている。
米国の生命保険会社は、プライベート・クレジット・ファンドへの大口投資家だ。IMFは生命保険会社のプライベート・クレジット・ファンド保有に対する信用格付けが過大評価されている可能性を指摘し、これが景気後退時に予測をはるかに上回るデフォルトをもたらすリスクがあるとも警告している。
世界経済の下方リスクと金融市場の不安定化リスクにも
このように、米国のプライベート・クレジット・ファンドを巡る金融面のリスクには、今後も十分に注意を払う必要があるだろう。そして、イラン情勢、原油価格の高騰を受けた米国での低格付け企業の経営不振が、プライベート・クレジット・ファンドのデフォルト率の上昇につながれば、そうしたリスクは増幅されやすい。
フィッチ・レーティングスによると、米国のPrivately Monitored Ratings(PMR)ポートフォリオにおけるデフォルト率は2024年の8.1%から、2025年9.2%まで上昇した。
プライベート・クレジット・ファンドに関する問題が、深刻な金融危機を招くリスクはなお低いとしても、急速な融資の引き上げが生じれば、それがイラン情勢を受けた原油価格の高騰や長期金利の上昇による米国経済の悪化を増幅させ、世界経済の下振れリスクと金融市場の不安定化リスクを高める可能性があるのではないか。
(参考資料)
“Is Another Financial Crisis Lurking in Private Credit? (プライベート・クレジット危機、迫っているのか)”, Wall Street Journal, March 31, 2026
“US Private Credit Defaults Hit New Highs but Losses Remain Contained”, Fitch Ratings, March 06, 2026
フィッチ・レーティングスによると、米国のPrivately Monitored Ratings(PMR)ポートフォリオにおけるデフォルト率は2024年の8.1%から、2025年9.2%まで上昇した。
プライベート・クレジット・ファンドに関する問題が、深刻な金融危機を招くリスクはなお低いとしても、急速な融資の引き上げが生じれば、それがイラン情勢を受けた原油価格の高騰や長期金利の上昇による米国経済の悪化を増幅させ、世界経済の下振れリスクと金融市場の不安定化リスクを高める可能性があるのではないか。
(参考資料)
“Is Another Financial Crisis Lurking in Private Credit? (プライベート・クレジット危機、迫っているのか)”, Wall Street Journal, March 31, 2026
“US Private Credit Defaults Hit New Highs but Losses Remain Contained”, Fitch Ratings, March 06, 2026
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。