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減産の動きはなお続く

様々な製品の製造に利用されるエチレン、プロピレンなどの原料の基となるナフサの調達は、4割が国内、4割がホルムズ海峡経由での輸入、2割が他のルートでの輸入だった。そのため、ホルムズ海峡の事実上の封鎖によって、日本は深刻なナフサ不足に直面している。これを受けて化学企業の多くは、ナフサから作られるエチレンなどの減産を決めた。
 
その後、政府は石油備蓄の放出を決め、またホルムズ海峡以外のルートからナフサの調達を進めた。高市首相は4月5日に、ナフサについて少なくとも国内需要の4か月分を確保している、と説明した。それでも、企業の減産の姿勢には大きな変化がみられていない。
 
各種報道を見る限り、減産を撤回した企業は確認されていない一方、新たな減産の可能性への言及は続いている。化学工業日報などの業界紙は、「4~5月も低稼働ながら操業は維持できる見通し」と報じており、生産は停止しないものの、減産を解除する動きはみられていない。
 
これは、ナフサの調達についての不安がなお残ることに加え、ナフサの価格が高騰したことも影響している。現在の高値でナフサを調達してエチレンなどを作っても、エチレンの価格に十分転嫁できずに赤字となる可能性がある。また、エチレンを値上げしても、高値ゆえに売れない可能性もある。
 
このように、エチレン、プロピレンなどの減産が続く中、それから作られるレジ袋、ゴミ袋、食品包装フィルム、洗剤、ペットボトル、ポリ容器、パイプ、食品容器、自動車部品(バンパー、内装)、家電部品、文房具、収納ケースといった多様な製品に供給不足が生じ、原材料価格の上昇と相まって大幅な値上げの動きが見られている。

4月に入ってからの新たな値上げの発表

4月に入ってから大手化学企業が発表した値上げの動きは以下の通りである。三菱ケミカルグループは、4月21日納入分よりフィルム製品を+1,200~2,000円/連(500㎡)値上げする。旭化成は、4月初旬からポリエチレン・エラストマー・ラテックスを値上げする。住友化学はポリエチレン(PE)・ポリプロピレン(PP)の価格を、4月中旬以降の納入分から引き上げる。
 
それ以外にも、ユニチカは6日に、半導体の製造過程で使用するポリエステルフィルムを4月21日から値上げすると発表した。値上げ幅は1キログラム当たり100円以上となる。クラレも6日に、農業や工業用の洗浄剤、香料に使われるイソプレノールやシトラールなどの値上げを発表した。カネカは、4月1日にポリエスチレンを原料にする断熱材の4割値上げを決めた。
 
このように、4月に入ってから相次ぐ企業のナフサ由来品の値上げ発表は、工業品が中心である。しかしそれは、我々が購入する日用品の価格にも転嫁されていくことになるだろう。
 
本稿では、3月末時点で企業が値上げを発表したナフサ由来の日用品について、価格上昇の見通しと家計負担の試算を示した(コラム「日用品の価格上昇はもう始まっている:家計負担の試算値は年間1.8万円~2.6万円程度」、2026年3月31日)。

ナフサ由来品値上げによる家計負担の新たな試算:2万2,500円~3万5,100円

4月に入ってからの企業によるナフサ由来工業品の値上げの影響をこの試算に加え、新たな試算を行った。日用品の原料となる工業品の値上げは、通常の原材料の価格転嫁率を参考に45%が製品に価格転嫁されると仮定し、それに関連する日用品の価格上乗せ分を計算した。そのうえで、新たに4人家族の家計への年間負担額を試算した(図表)。
 
従来の試算では、家計の年間負担額の試算値は1万8,000円~2万5,500円だったが、4月に入ってからの値上げ分を反映した新たな試算では、2万2,500円~3万5,100円まで増加した。増加幅は25%~38%となった。
 
ナフサ不足やナフサの価格の上昇が続けば、今後新たな値上げの動きが広がり、家計負担もさらに増えていくだろう。そして、ここで計算したナフサ由来品の値上げに加えて、ガソリンなどの燃料や電気代の上昇、それが多くの日用品価格に転嫁される影響分も、別途、家計負担となる点にも留意したい。
 
図表 ナフサ由来の日用品の価格上昇と家計負担の試算

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。