「骨太の方針」に向けて財政健全化目標の見直しの議論が始まる
4月13日に開かれた経済財政諮問会議では、「骨太の方針」に盛り込まれる財政健全化目標見直しの議論が始まった。
民間議員からは、これまで目標としていた基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化にかえて、政府の債務残高を国内総生産(GDP)比で安定的に引き下げていくことを「中核目標」とする提案がなされた。さらに、プライマリーバランスの黒字化は「債務残高対GDP比の安定的な低下の中で、複数年で管理する」とした。
これは、歴代の政権が財政健全化目標に据えてきたプライマリーバランスの黒字化目標を後退させ、政府債務残高のGDP比率をより重視する政策転換を意味しよう。この提案は民間議員から示されたものではあるが、事実上は、高市政権の方針を示したものと考えられる。実際そうした考え方は、高市首相が従来主張してきたことと一致しているからだ。高市首相はこの会議で、今年の「骨太の方針」に向けて、「(提案された)基本原則を念頭に、予算編成の抜本見直しに向けた検討を加速する」と表明している。
高市政権が財政健全化目標の重点をプライマリーバランスの黒字化から、政府債務残高のGDP比率に移そうとしている背景には、プライマリーバランスの単年度黒字化目標に縛られて、機動的な財政運営が阻まれてしまうことを恐れ、また、高市政権の目玉政策である「危機管理投資」が制約を受けることを避けたい、との考えがあるのだろう。
さらに、政府債務残高のGDP比率が過去数年低下していることから、財政環境は言われているほどには悪くないと考えているのかもしれない。
民間議員からは、これまで目標としていた基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化にかえて、政府の債務残高を国内総生産(GDP)比で安定的に引き下げていくことを「中核目標」とする提案がなされた。さらに、プライマリーバランスの黒字化は「債務残高対GDP比の安定的な低下の中で、複数年で管理する」とした。
これは、歴代の政権が財政健全化目標に据えてきたプライマリーバランスの黒字化目標を後退させ、政府債務残高のGDP比率をより重視する政策転換を意味しよう。この提案は民間議員から示されたものではあるが、事実上は、高市政権の方針を示したものと考えられる。実際そうした考え方は、高市首相が従来主張してきたことと一致しているからだ。高市首相はこの会議で、今年の「骨太の方針」に向けて、「(提案された)基本原則を念頭に、予算編成の抜本見直しに向けた検討を加速する」と表明している。
高市政権が財政健全化目標の重点をプライマリーバランスの黒字化から、政府債務残高のGDP比率に移そうとしている背景には、プライマリーバランスの単年度黒字化目標に縛られて、機動的な財政運営が阻まれてしまうことを恐れ、また、高市政権の目玉政策である「危機管理投資」が制約を受けることを避けたい、との考えがあるのだろう。
さらに、政府債務残高のGDP比率が過去数年低下していることから、財政環境は言われているほどには悪くないと考えているのかもしれない。
政府債務残高のGDP比率に基づく財政政策運営には財政環境の悪化を許すリスク
しかし、現時点で、政府債務残高のGDP比率を財政健全化の目標として重視することは問題だ。プライマリーバランスの黒字化目標を財政健全化の「一里塚」としてその達成をまず目指し、その達成後の財政健全化の進捗を、政府債務残高のGDP比率で確認していくということが適切だ。
政府債務残高のGDP比率が過去数年低下傾向を示しているのは、物価上昇率が急速に高まったためだ。物価高騰が一時的であれば、同比率の分母の名目GDPの成長率は低下する。他方、物価高騰が持続的な現象であれば長期金利がより上昇し、利払い費が増えることで分子の政府債務が増加する。いずれの場合でも、政府債務残高のGDP比率はいずれ上昇に転じることになる(コラム「積極財政のもとで政府債務のGDP比率の持続的低下は可能か:ドーマーの条件を検証」、2026年3月6日)。
政府債務残高のGDP比率は短期的には振れが大きい指標であり、これに基づいて財政運営を行うと、財政環境の基調的な悪化を許してしまうことになりかねない。
分母の名目GDP成長率を積極財政によって高めれば、政府債務残高のGDP比率は低下し、むしろ財政環境は改善していくとの高市首相の政権発足以来の説明は、大きなリスクをはらんでいる。
金融市場がそれを信頼し、高市首相が掲げる「責任ある積極財政」のもとで財政環境は改善すると本当に考えたのであれば、政権発足以降の一貫した長期金利の上昇は起こらなかったはずだ。逆に長期金利は下がった可能性がある。高市政権の政策は、金融市場の財政の持続性に対する信認を低下させているのである。それは、長期金利の上昇や円安進行を通じて、経済や国民生活に悪影響を及ぼしているのではないか。
こうした点にも十分に配慮して、「骨太の方針」に向けた財政健全化目標の議論をより慎重に進めていって欲しい。
(参考資料)
「債務、GDP比低下を 民間議員が提案 経財諮問会議」、2026年4月14日、朝日新聞
「積極財政巡り検証機能を提言 諮問会議の民間議員、規律求める 首相「市場の信認確保」」、2026年4月14日、日本経済新聞
政府債務残高のGDP比率が過去数年低下傾向を示しているのは、物価上昇率が急速に高まったためだ。物価高騰が一時的であれば、同比率の分母の名目GDPの成長率は低下する。他方、物価高騰が持続的な現象であれば長期金利がより上昇し、利払い費が増えることで分子の政府債務が増加する。いずれの場合でも、政府債務残高のGDP比率はいずれ上昇に転じることになる(コラム「積極財政のもとで政府債務のGDP比率の持続的低下は可能か:ドーマーの条件を検証」、2026年3月6日)。
政府債務残高のGDP比率は短期的には振れが大きい指標であり、これに基づいて財政運営を行うと、財政環境の基調的な悪化を許してしまうことになりかねない。
分母の名目GDP成長率を積極財政によって高めれば、政府債務残高のGDP比率は低下し、むしろ財政環境は改善していくとの高市首相の政権発足以来の説明は、大きなリスクをはらんでいる。
金融市場がそれを信頼し、高市首相が掲げる「責任ある積極財政」のもとで財政環境は改善すると本当に考えたのであれば、政権発足以降の一貫した長期金利の上昇は起こらなかったはずだ。逆に長期金利は下がった可能性がある。高市政権の政策は、金融市場の財政の持続性に対する信認を低下させているのである。それは、長期金利の上昇や円安進行を通じて、経済や国民生活に悪影響を及ぼしているのではないか。
こうした点にも十分に配慮して、「骨太の方針」に向けた財政健全化目標の議論をより慎重に進めていって欲しい。
(参考資料)
「債務、GDP比低下を 民間議員が提案 経財諮問会議」、2026年4月14日、朝日新聞
「積極財政巡り検証機能を提言 諮問会議の民間議員、規律求める 首相「市場の信認確保」」、2026年4月14日、日本経済新聞
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。