政府の目詰まり対策は「いたちごっこ」の様相も
イラン情勢を受けて原油、ナフサ、石油製品の供給不安が高まる中、政府は繰り返し「日本全体として石油の量は足りている」と説明してきた。しかし同時に、「一部に供給の偏りや目詰まり」が発生し、必要な場所に必要な石油製品が届いていない事例があることも認めている。
石油製品の供給は、輸入→製油所→元売業者→商社・卸業者→地域販売事業者→需要者といった多層構造を取る。政府が実施している石油の備蓄放出や代替ルートからの調達拡大は、この入口部分の量を増やす政策である。しかし途中部分で出荷の抑制、偏在、用途別滞留が起きれば、石油製品は末端には届かない。
石油製品の供給では、川中(商社、卸、中間加工、物流)の情報がブラックボックス化されやすい。それは、小口・多品種、用途別規格の多様性、地域密着取引といった特性によるものだ。このため統計や在庫データが集約されにくく、買い溜めなどが生じやすいと考えられる。
福祉施設や医療関連施設では、重油調達の見通しが立たず休止に追い込まれるリスクが顕在化している。政府は元売業者と調整して当面の必要量を確保しているが、地方や小規模需要家ほど影響を受けやすい構造が浮き彫りになっている。
足元では潤滑油の目詰まりが表面化しており、政府が対応に追われている。ただし、流通の目詰まりは日々新たに表面化している印象であり、政府が対応を進めるとまた別の目詰まりが生じる、といった繰り返しに見える。これは、「いたちごっこ」の様相ではないか。
先月以来の「目詰まり」と政府の対応を以下に整理しよう。
①医療器具の供給不安
3月から、人工透析用のプラスチック資材や医療器具の一部で供給不安が報告されている。これらの多くはナフサ由来の石油化学製品を原料としている。
政府は「医療施設、公共交通、重要インフラ」を最優先分野と位置づけ、石油元売に対し卸を経由しない直接販売を要請するという異例の対応を取った。これは「重要用途への優先配分」という危機対応の流通管理である。
②運輸・地域経済への影響
路線バスやトラック輸送に用いられる軽油でも、一部地域で納入遅延が報告された。特に地方では、物流網が細く、代替ルートが限られるため、小さな詰まりが即座に供給不安へと転化しやすい。
③塗装用シンナーの供給不足
4月に入ってナフサ由来の塗装用シンナーの調達が難しくなっており、自動車の製造、自動車整備などに支障が生じている。シンナーはナフサ(粗製ガソリン)由来のトルエンやキシレンを原料とする。政府は、シンナーの原料の供給について全体量は確実に確保できているとしつつ、卸売・物流段階で出荷が滞っており、塗装業者の間でシンナーの必要量確保が困難になっている事例があることを認めている。政府は調達に問題が生じた場合は、経産省の窓口を通じて相談するよう呼びかけた。
④ユニットバスの受注停止
TOTOは4月13日、ナフサからつくる素材を用いた溶剤が不足しているとして、住宅向けなどのユニットバスの受注を停止した。クリナップもシステムバスの受注を停止した。LIXILはユニットバスの新規受注停止はしないとしながらも、 4月14日以降の受注について「納期未定」とし、事実上の受注制限を行った。これを受けて政府は、納期遅れにつながる目詰まりの解消に取り組んでいる。TOTOは 4月20日から部材確保の状況を見ながら段階的に受注を再開した。
石油製品の供給は、輸入→製油所→元売業者→商社・卸業者→地域販売事業者→需要者といった多層構造を取る。政府が実施している石油の備蓄放出や代替ルートからの調達拡大は、この入口部分の量を増やす政策である。しかし途中部分で出荷の抑制、偏在、用途別滞留が起きれば、石油製品は末端には届かない。
石油製品の供給では、川中(商社、卸、中間加工、物流)の情報がブラックボックス化されやすい。それは、小口・多品種、用途別規格の多様性、地域密着取引といった特性によるものだ。このため統計や在庫データが集約されにくく、買い溜めなどが生じやすいと考えられる。
福祉施設や医療関連施設では、重油調達の見通しが立たず休止に追い込まれるリスクが顕在化している。政府は元売業者と調整して当面の必要量を確保しているが、地方や小規模需要家ほど影響を受けやすい構造が浮き彫りになっている。
足元では潤滑油の目詰まりが表面化しており、政府が対応に追われている。ただし、流通の目詰まりは日々新たに表面化している印象であり、政府が対応を進めるとまた別の目詰まりが生じる、といった繰り返しに見える。これは、「いたちごっこ」の様相ではないか。
先月以来の「目詰まり」と政府の対応を以下に整理しよう。
①医療器具の供給不安
3月から、人工透析用のプラスチック資材や医療器具の一部で供給不安が報告されている。これらの多くはナフサ由来の石油化学製品を原料としている。
政府は「医療施設、公共交通、重要インフラ」を最優先分野と位置づけ、石油元売に対し卸を経由しない直接販売を要請するという異例の対応を取った。これは「重要用途への優先配分」という危機対応の流通管理である。
②運輸・地域経済への影響
路線バスやトラック輸送に用いられる軽油でも、一部地域で納入遅延が報告された。特に地方では、物流網が細く、代替ルートが限られるため、小さな詰まりが即座に供給不安へと転化しやすい。
③塗装用シンナーの供給不足
4月に入ってナフサ由来の塗装用シンナーの調達が難しくなっており、自動車の製造、自動車整備などに支障が生じている。シンナーはナフサ(粗製ガソリン)由来のトルエンやキシレンを原料とする。政府は、シンナーの原料の供給について全体量は確実に確保できているとしつつ、卸売・物流段階で出荷が滞っており、塗装業者の間でシンナーの必要量確保が困難になっている事例があることを認めている。政府は調達に問題が生じた場合は、経産省の窓口を通じて相談するよう呼びかけた。
④ユニットバスの受注停止
TOTOは4月13日、ナフサからつくる素材を用いた溶剤が不足しているとして、住宅向けなどのユニットバスの受注を停止した。クリナップもシステムバスの受注を停止した。LIXILはユニットバスの新規受注停止はしないとしながらも、 4月14日以降の受注について「納期未定」とし、事実上の受注制限を行った。これを受けて政府は、納期遅れにつながる目詰まりの解消に取り組んでいる。TOTOは 4月20日から部材確保の状況を見ながら段階的に受注を再開した。
「目詰まり」の4つの主な要因
政府は原油、ナフサの供給は全体として確保しているが、その中でも石油製品の流通段階での供給不足、目詰まりが生じる主な理由は4つあると考えられる(コラム「代替調達が進んでも石油製品の目詰まりは続くか」、2026年4月13日)。
第1は、マクロとミクロの乖離である。石油化学製品は多様であり、ナフサ一つ取っても成分や用途が多岐にわたる。ナフサの量が全体として十分に確保されても、個々の企業が必要とする種類のナフサでなければ、既存の設備では製品を作れないといった事態が生じる。
この問題は、ホルムズ海峡の船舶の運航が正常化し、企業が元の中東の輸入先からナフサなど石油関連原材料の調達を再び確保できるまで続くだろう。
第2は、ナフサの価格高騰の影響である。政府がナフサを4か月~6か月確保したとする中でも、三菱ケミカル、三井化学、出光興産など主要メーカーは2026年3月以降、エチレンの生産抑制を続けているとされる。その一つの理由は、ナフサの価格高騰だ。ナフサからエチレンを生産する場合、原料となるナフサの価格上昇分をエチレンの価格に転嫁できなければ、企業はエチレンを作るほど赤字が拡大してしまう。また、エチレンの販売価格に転嫁できるとしても、それは川下の最終製品の価格高騰を招き、販売不振につながりかねない。その場合、エチレンへの需要も落ち、在庫が積み上がりかねない。
第3は、買い急ぎによる前倒し調達や過剰確保である。これが、流通目詰まりを助長している面があるだろう。経済産業省は2026年3月19日、石油元売や商社に対して「販売を抑制しないよう」「通常どおり流通させてほしい」と異例の要請を出した。
これには、売り控え・抱え込みなどによって、流通段階での出荷が滞っているとの認識があるのだろう。重油・シンナー・溶剤などでは、一部の福祉施設、建設・塗装業、地方の中小企業などで、供給が止まったら事業が成り立たなくなることを警戒し、必要以上に早く、あるいは多めに発注する傾向が報告されている。その結果、調達力の弱い事業者に回る分が減ってしまうのである。
第4は、原油・ナフサの代替調達への不安だ。これは第2、第3を引き起こす原因でもある。政府は、ホルムズ海峡を経由しない代替ルートで原油、ナフサの調達を急速に進めており、その結果、国内で必要な量は当面確保されたとしている。
しかし、この代替ルートを通じた調達にはその持続性に不安が残る。例えば、紅海ルートを通じた原油の輸入については、サウジアラビアの原油パイプラインが攻撃によって損壊し、また紅海の船舶の運航が戦闘によって遮断されれば、大きな制約を受けてしまう。そうした不安が、目詰まりの要因である第2のエチレンなどの減産や第3の買い急ぎによる前倒し調達や過剰確保の一因ともなっているだろう。
第1は、マクロとミクロの乖離である。石油化学製品は多様であり、ナフサ一つ取っても成分や用途が多岐にわたる。ナフサの量が全体として十分に確保されても、個々の企業が必要とする種類のナフサでなければ、既存の設備では製品を作れないといった事態が生じる。
この問題は、ホルムズ海峡の船舶の運航が正常化し、企業が元の中東の輸入先からナフサなど石油関連原材料の調達を再び確保できるまで続くだろう。
第2は、ナフサの価格高騰の影響である。政府がナフサを4か月~6か月確保したとする中でも、三菱ケミカル、三井化学、出光興産など主要メーカーは2026年3月以降、エチレンの生産抑制を続けているとされる。その一つの理由は、ナフサの価格高騰だ。ナフサからエチレンを生産する場合、原料となるナフサの価格上昇分をエチレンの価格に転嫁できなければ、企業はエチレンを作るほど赤字が拡大してしまう。また、エチレンの販売価格に転嫁できるとしても、それは川下の最終製品の価格高騰を招き、販売不振につながりかねない。その場合、エチレンへの需要も落ち、在庫が積み上がりかねない。
第3は、買い急ぎによる前倒し調達や過剰確保である。これが、流通目詰まりを助長している面があるだろう。経済産業省は2026年3月19日、石油元売や商社に対して「販売を抑制しないよう」「通常どおり流通させてほしい」と異例の要請を出した。
これには、売り控え・抱え込みなどによって、流通段階での出荷が滞っているとの認識があるのだろう。重油・シンナー・溶剤などでは、一部の福祉施設、建設・塗装業、地方の中小企業などで、供給が止まったら事業が成り立たなくなることを警戒し、必要以上に早く、あるいは多めに発注する傾向が報告されている。その結果、調達力の弱い事業者に回る分が減ってしまうのである。
第4は、原油・ナフサの代替調達への不安だ。これは第2、第3を引き起こす原因でもある。政府は、ホルムズ海峡を経由しない代替ルートで原油、ナフサの調達を急速に進めており、その結果、国内で必要な量は当面確保されたとしている。
しかし、この代替ルートを通じた調達にはその持続性に不安が残る。例えば、紅海ルートを通じた原油の輸入については、サウジアラビアの原油パイプラインが攻撃によって損壊し、また紅海の船舶の運航が戦闘によって遮断されれば、大きな制約を受けてしまう。そうした不安が、目詰まりの要因である第2のエチレンなどの減産や第3の買い急ぎによる前倒し調達や過剰確保の一因ともなっているだろう。
今後求められる「目詰まり」への4つの対応
深刻な目詰まりへの今後の対応としては、当面の対応、中長期的な対応を含めて、4点考えられる。
第1に、当面の対策としては、ナフサの価格を安定化させるための補助金が政府の選択肢となるのではないか。既述のように、ナフサの価格高騰が、エチレンなどの減産を通じた目詰まりの一因になっていると考えられるためだ。
さらに、ナフサの価格高騰は川下にも波及し、消費者が購入する様々な日用品の価格を上昇させ、国民生活を圧迫する。政府はガソリンなど燃料への補助金をいち早く決めたが、これは、国民生活や零細企業の経営の安定を維持することを意識した政策だ。大手企業への補助金支給については政府はより慎重な姿勢であろうが、目詰まりの緩和と国民生活の安定のためには、一時的な措置として検討されるべきではないか。
第2は、中東地域に過度に依存した原油、ナフサの調達先を多様化していくことで、地政学リスクなどの発生による調達遮断のリスクを低下させることだ。
第3は、地政学リスクなどの発生により、原油、ナフサの調達先を変えても、生産や製品の供給に大きな支障が生じないような柔軟な生産体制を整えることではないか。原油の精製やナフサからのエチレン製造などでは、異なる種類でも生産ができるような柔軟性を設備に組み込む技術の進展が重要だろう。
第4は、川上では生産・供給は続いているが川下ではモノが届かない、特定用途だけ不足している、という状態を緩和するために、サプライチェーンの途中(川中)の実態を見える化する仕組みを作ることだ。政府は既に川中企業への重点ヒアリングを実施しているが、原材料の総量の確認だけでなく、種類別、用途別のより詳細な情報を政府が集計し、それを企業と共有していくことが必要だろう。
目詰まり対策としての情報提供窓口の設置は進んだが、それは申告ベースに依存しており、把握のタイムラグがあるといった問題もなお残されている。情報不足による疑心暗鬼が、前倒し調達や過剰確保を通じて、目詰まりをより深刻化させる可能性があることから、それを回避するための情報基盤整備の一段の進展が望まれる。
石油製品流通の目詰まりは、イラン情勢を受けた一時的混乱ではなく、多層化したサプライチェーンと複雑な川中構造がもたらす構造問題であるとの認識を強く持ち、中長期の視点から対応を進めることが重要だ。
第1に、当面の対策としては、ナフサの価格を安定化させるための補助金が政府の選択肢となるのではないか。既述のように、ナフサの価格高騰が、エチレンなどの減産を通じた目詰まりの一因になっていると考えられるためだ。
さらに、ナフサの価格高騰は川下にも波及し、消費者が購入する様々な日用品の価格を上昇させ、国民生活を圧迫する。政府はガソリンなど燃料への補助金をいち早く決めたが、これは、国民生活や零細企業の経営の安定を維持することを意識した政策だ。大手企業への補助金支給については政府はより慎重な姿勢であろうが、目詰まりの緩和と国民生活の安定のためには、一時的な措置として検討されるべきではないか。
第2は、中東地域に過度に依存した原油、ナフサの調達先を多様化していくことで、地政学リスクなどの発生による調達遮断のリスクを低下させることだ。
第3は、地政学リスクなどの発生により、原油、ナフサの調達先を変えても、生産や製品の供給に大きな支障が生じないような柔軟な生産体制を整えることではないか。原油の精製やナフサからのエチレン製造などでは、異なる種類でも生産ができるような柔軟性を設備に組み込む技術の進展が重要だろう。
第4は、川上では生産・供給は続いているが川下ではモノが届かない、特定用途だけ不足している、という状態を緩和するために、サプライチェーンの途中(川中)の実態を見える化する仕組みを作ることだ。政府は既に川中企業への重点ヒアリングを実施しているが、原材料の総量の確認だけでなく、種類別、用途別のより詳細な情報を政府が集計し、それを企業と共有していくことが必要だろう。
目詰まり対策としての情報提供窓口の設置は進んだが、それは申告ベースに依存しており、把握のタイムラグがあるといった問題もなお残されている。情報不足による疑心暗鬼が、前倒し調達や過剰確保を通じて、目詰まりをより深刻化させる可能性があることから、それを回避するための情報基盤整備の一段の進展が望まれる。
石油製品流通の目詰まりは、イラン情勢を受けた一時的混乱ではなく、多層化したサプライチェーンと複雑な川中構造がもたらす構造問題であるとの認識を強く持ち、中長期の視点から対応を進めることが重要だ。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。