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ウォーシュ氏の承認が遅れる場合の対応でFRBとトランプ政権が法解釈を巡り対立

米国の上院銀行・住宅・都市問題委員会は、トランプ大統領がパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の後任に指名したケビン・ウォーシュ氏の承認を巡る公聴会を、4月21日に開く(コラム「ウォーシュFRB議長候補が上院公聴会に:5月の議長就任は不確実」、2026年4月21日)。
 
しかし、共和党のトム・ティリス上院議員(共和、ノースカロライナ州)が、FRB本部ビルの改修に関する刑事捜査の問題が解決しない限り、どんな候補の承認にも反対する姿勢を示していることから、パウエル議長の任期が終わる5月15日までにウォーシュ氏が上院本会議で承認を得られるかどうかは不確実な情勢となってきた。
 
5月15日までにウォーシュ氏が上院本会議で承認されない場合の対応について、FRBとトランプ政権の間で法解釈を巡る対立が激しさを増している。
 
パウエル議長は先月、後任議長の承認が期限に間に合わない場合には、自身が「議長代行」として引き続きFRBを率いると表明した。パウエル議長は、従来の例に照らしても、「それが法律で求められていることだ」と指摘している。
 
一方トランプ政権は、5月15日までに後任議長の指名が承認されない場合には、パウエル氏は議長としての職務を継続すべきではない、との立場を示している。ベッセント財務長官は4月14日に、「パウエル氏だけでなく、数人がFRBの暫定的なリーダーを務める可能性がある」と述べ、候補としてフィリップ・ジェファーソン副議長とクリストファー・ウォラー理事の名前を挙げた。
 
さらにトランプ大統領は、議長職が任期終了を迎えても理事職を退かない考えを示すパウエル議長を解任する構えを示しており、両者の対立は強まっている。もっとも、実際には大統領がFRB議長を解任することは難しい。

議長代行を巡る議論ではパウエル議長の法解釈が妥当

FRB議長の任期が切れても後任議長が就任していなかったことは過去に5回あった。その際にはいずれも、現職の議長が継続して議長を務めた。それに対して、トランプ大統領のように異議を唱えた大統領はいなかった。
 
さらに、1998年に議会で可決された連邦空席改革法(FVRA)は、空席となった行政機関の長のポストの一時的な代行者を大統領が指名できる場合の特例を定めた。同法では、FRBのような複数人で構成され政府から独立した機関については、その特例の対象から除外された。昨年、ワシントンの連邦裁判所は3件の訴訟で、大統領には上院の承認なしに主要高官の代行を指名する憲法上の権限はないとの判断を示した。こうした点から、議長代行を巡る主張では、トランプ政権よりもパウエル議長の法解釈の方が妥当である。

パウエル議長はトランプ大統領との対決姿勢を一段と強める

パウエル議長は、FRB本部改修工事と議会証言を巡って刑事捜査が完全に終結し、透明性と最終性が確保されるまで理事会を離れない可能性を示唆している。しかし、トランプ大統領が議長代行を巡ってFRBへの介入を強める姿勢を見せれば、2028年1月の任期満了まで理事職にとどまり、トランプ大統領によるFRBへの政治介入に抵抗し続ける可能性があるだろう。
 
トランプ政権が仮にパウエル議長の議長代行を妨げることができるとしても、パウエル議長は米連邦公開市場委員会(FOMC)の委員長職にある。この職は、FRB議長から選ばれるのが慣例であるが、新議長の指名が遅れれば、パウエル議長がFOMC委員長職を来年1月まで続け、金融政策を主導することができる。トランプ大統領による金融政策への介入に抵抗し続けることが可能となる。
 
パウエル議長は議長職の任期終了が近づく中で、トランプ大統領との対決姿勢を一段と強め、最後までFRBを政治介入から守る覚悟である。
 
(参考資料)
“The Decades-Old Legal Question at the Heart of the Fed Chair Showdown(FRB議長職巡る対立、核心に長年の法的論点)”, Wall Street Journal, April 17, 2026

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。