金融市場が「タカ派的」と受け止めた3つの理由
4月28日の金融政策決定会合で、日本銀行は政策金利引き上げの見送りを決めた(コラム「日本銀行が今後利上げを一時停止する可能性も」、2026年4月28日)。政策金利は据え置かれたものの、金融市場は、展望レポートも踏まえて、「日本銀行が利上げに前向きであることが示された」、つまり「タカ派的」な内容だったと受け止めた。その結果、為替市場では、1ドル159円台半ばから一時1ドル158円台まで円高が進んだ。
金融市場が「タカ派的」と受け止めたのは、主に3つの理由からだった。第1に、3人の政策委員が、政策金利据え置きの議長案に反対し、1%への利上げを提案した。政策金利据え置きの決定に反対したのは、前回の1人から、今回は3人へと予想外に増えた。
第2に、展望レポートで消費者物価指数(除く生鮮食品)の上昇率見通しは、2026年度が前回1月の+1.9%から+2.8%へと予想外に大幅に上方修正された。さらに、2026年度、2027年度については、この物価見通しに対して、上振れリスクの方が大きいとの見方が多く示された。
第3に、展望レポートの概要の最後は、「とくに、物価上昇率が大きく上振れていくリスクが顕在化し、それがその後の経済に悪影響を及ぼすことがないよう、十分に留意する必要がある」と締めくくられ、中東情勢、原油価格上昇による景気の下振れよりも物価の上振れリスクを日本銀行がより重視している印象を与えた。
金融市場が「タカ派的」と受け止めたのは、主に3つの理由からだった。第1に、3人の政策委員が、政策金利据え置きの議長案に反対し、1%への利上げを提案した。政策金利据え置きの決定に反対したのは、前回の1人から、今回は3人へと予想外に増えた。
第2に、展望レポートで消費者物価指数(除く生鮮食品)の上昇率見通しは、2026年度が前回1月の+1.9%から+2.8%へと予想外に大幅に上方修正された。さらに、2026年度、2027年度については、この物価見通しに対して、上振れリスクの方が大きいとの見方が多く示された。
第3に、展望レポートの概要の最後は、「とくに、物価上昇率が大きく上振れていくリスクが顕在化し、それがその後の経済に悪影響を及ぼすことがないよう、十分に留意する必要がある」と締めくくられ、中東情勢、原油価格上昇による景気の下振れよりも物価の上振れリスクを日本銀行がより重視している印象を与えた。
植田総裁の発言は予想されていたほど「タカ派的」ではなかった
そのため金融市場は、植田総裁が会合後の記者会見で、次回6月15・16日の金融政策決定会合での利上げを示唆するなど、「タカ派的」な発言をすることを事前に予想していた。
しかし実際には、記者会見では、次回の金融政策決定会合での利上げを示唆するような発言はなく、総裁の説明は全体としてかなり曖昧なものだった。これを受けて、金融市場の利上げ観測がやや低下し、記者会見終了後にドル円レートは1ドル159円台半ばと、金融政策決定会合前の水準にまで戻った。
また、OIS市場から計算された次回6月の会合での利上げ確率は3分の2程度(ブルームバーグ)と、高めではあるものの、6月の利上げが確実視されている状況にはない。
しかし実際には、記者会見では、次回の金融政策決定会合での利上げを示唆するような発言はなく、総裁の説明は全体としてかなり曖昧なものだった。これを受けて、金融市場の利上げ観測がやや低下し、記者会見終了後にドル円レートは1ドル159円台半ばと、金融政策決定会合前の水準にまで戻った。
また、OIS市場から計算された次回6月の会合での利上げ確率は3分の2程度(ブルームバーグ)と、高めではあるものの、6月の利上げが確実視されている状況にはない。
利上げ見送りの3つの理由
植田総裁は、日本銀行が引き続き利上げを進める方針であることを再度確認したが、今回利上げに踏み切らなかった理由として主に3点を挙げた。第1は、中東情勢、原油価格上昇によって、日本銀行の経済・物価見通しが実現する確度が低下したことだ。
第2は、原油価格上昇というサプライショックは、物価の上振れリスクを高める一方、景気の下振れリスクを高め、どちらのリスクがより大きく顕在化するかはしばらく分からない。こうした局面では、中央銀行は金融政策を変更せずに様子見をする(ルックスルー)のが通例であることだ。
第3は、今回の展望レポートは、中東情勢によってもサプライチェーンの大規模な混乱は生じないことを前提としている。仮に原油不足が深刻度を増すなど、サプライチェーンの大規模な混乱が生じれば、展望レポートでの見通しよりも成長率は大きく下振れるリスクがある。この点も踏まえ、植田総裁は、中東情勢を巡る不確実性をことさら強調したように思われる。
第2は、原油価格上昇というサプライショックは、物価の上振れリスクを高める一方、景気の下振れリスクを高め、どちらのリスクがより大きく顕在化するかはしばらく分からない。こうした局面では、中央銀行は金融政策を変更せずに様子見をする(ルックスルー)のが通例であることだ。
第3は、今回の展望レポートは、中東情勢によってもサプライチェーンの大規模な混乱は生じないことを前提としている。仮に原油不足が深刻度を増すなど、サプライチェーンの大規模な混乱が生じれば、展望レポートでの見通しよりも成長率は大きく下振れるリスクがある。この点も踏まえ、植田総裁は、中東情勢を巡る不確実性をことさら強調したように思われる。
「ビハインドザカーブ」のリスクをそれほど警戒していないか
一方、原油価格上昇による物価上昇が、一時的な現象にとどまらず、中長期のインフレ期待の上昇などをもたらす「2次的波及」のリスクが高まれば、景気が多少下振れても利上げを実施する可能性がある、と植田総裁は説明した。
しかし現時点では、中長期のインフレ期待が上昇する兆しはみられないと説明している。また、9人の政策委員のうち今回利上げを主張した3人以外は、急いで金利を上げないと基調的な物価上昇率が上振れてしまうリスクが大きいとは考えていない、と説明した。つまり、政策委員全体の3分の2は、日本銀行の利上げが遅れることで、基調的な物価上昇率が2%の目標値を上振れ、経済に悪影響を与えるという「ビハインドザカーブ」のリスクをそれほど警戒していないということになるだろう。
しかし現時点では、中長期のインフレ期待が上昇する兆しはみられないと説明している。また、9人の政策委員のうち今回利上げを主張した3人以外は、急いで金利を上げないと基調的な物価上昇率が上振れてしまうリスクが大きいとは考えていない、と説明した。つまり、政策委員全体の3分の2は、日本銀行の利上げが遅れることで、基調的な物価上昇率が2%の目標値を上振れ、経済に悪影響を与えるという「ビハインドザカーブ」のリスクをそれほど警戒していないということになるだろう。
6月の次回会合でもなお様子見が続く可能性も
植田総裁は、6月の次回会合までに入手できる物価統計にも、まだ物価上昇の傾向は大きく現れない、との見方を示した。この点は、次回会合でも、金融政策の決定に大きな影響を与える材料は示されず、日本銀行は今回と同様に物価の上振れと景気の下振れの双方のリスクを引き続き見極めるために、政策金利を据え置くことは十分に考えられる、といった印象を金融市場に与える植田総裁の説明となったのではないか。
さらに、記者会見では説明できないことであるが、政権から強い利上げけん制を日本銀行が受けている可能性も考えられる。3人の政策委員が利上げを主張したのは、それに対する反発の意味もあったのではないか。
以上のような点から、筆者は、利上げ時期は年後半にずれ込むことをメインシナリオと現時点では考えているが、いずれにせよ日本銀行の利上げ時期の決定には、政権の利上げけん制姿勢の変化も含めて、ホルムズ海峡の状況を中心とした中東情勢の変化が大きく影響することは間違いないだろう。
さらに、記者会見では説明できないことであるが、政権から強い利上げけん制を日本銀行が受けている可能性も考えられる。3人の政策委員が利上げを主張したのは、それに対する反発の意味もあったのではないか。
以上のような点から、筆者は、利上げ時期は年後半にずれ込むことをメインシナリオと現時点では考えているが、いずれにせよ日本銀行の利上げ時期の決定には、政権の利上げけん制姿勢の変化も含めて、ホルムズ海峡の状況を中心とした中東情勢の変化が大きく影響することは間違いないだろう。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。