財政悪化懸念が長期国債利回りの上昇を促す
5月15日の東京市場で、10年国債利回りは一時2.73%まで上昇した。これは、1997年5月以来29年ぶりの高い水準だ。長期金利の上昇は世界的な現象であり、その最大のきっかけは中東情勢を受けた原油価格の上昇である。
ガソリン価格の上昇から、5月12日に発表された4月分の米消費者物価指数は前年同月比3.8%上昇し、2年11か月ぶりの高い水準となったことが、世界的な長期金利の上昇に弾みをつけた印象がある。
一方日本市場では、原油価格の上昇による物価上昇懸念に加えて、財政環境の一段の悪化懸念、日本銀行の利上げ観測が長期国債利回りを大幅に押し上げている面があるだろう。
政府が、3月に導入したガソリン補助金に加えて、7~9月に電気・ガス料金への補助を検討し始めたこと、それらの財源を賄うために補正予算編成を検討し始めたとの報道が、財政悪化懸念を再び強めている(コラム「政府は補正予算編成を検討:ガソリン補助金の見直しや低所得者向け給付金も選択肢に」、2026年5月15日)。
ガソリン価格の上昇から、5月12日に発表された4月分の米消費者物価指数は前年同月比3.8%上昇し、2年11か月ぶりの高い水準となったことが、世界的な長期金利の上昇に弾みをつけた印象がある。
一方日本市場では、原油価格の上昇による物価上昇懸念に加えて、財政環境の一段の悪化懸念、日本銀行の利上げ観測が長期国債利回りを大幅に押し上げている面があるだろう。
政府が、3月に導入したガソリン補助金に加えて、7~9月に電気・ガス料金への補助を検討し始めたこと、それらの財源を賄うために補正予算編成を検討し始めたとの報道が、財政悪化懸念を再び強めている(コラム「政府は補正予算編成を検討:ガソリン補助金の見直しや低所得者向け給付金も選択肢に」、2026年5月15日)。
積極財政政策は修正されるか
すべての家庭に対して一律に補助するこれらの制度は、予算をかなり圧迫してしまうため、対象者を絞って低所得者を中心とする補助金制度に修正する、あるいは補助金の額は縮小し、低所得者には別途給付金を支給するなどの施策を検討すべきだ。
さらに、中東情勢の緊迫化、原油価格高騰への対応は必要であるが、それらが財政環境を一段と悪化させ、市場の財政に対する信頼の低下から円安や長期金利の上昇を招かないように、財政政策全体を見直す必要があるのではないか。
例えば、来年度予算では高市政権の目玉政策である「危機管理投資」などの積極財政政策を弱める方針を市場に示すことが考えられる。また、財源確保の目途が立たない食料品の消費税率引き下げ策の見送りなども選択肢として考えられる。
円安進行や長期金利上昇などの金融市場の悪い反応を高市政権は無視できないとみられる。市場に配慮した財政政策の修正が見られるかどうかに今後は注目したい。
さらに、中東情勢の緊迫化、原油価格高騰への対応は必要であるが、それらが財政環境を一段と悪化させ、市場の財政に対する信頼の低下から円安や長期金利の上昇を招かないように、財政政策全体を見直す必要があるのではないか。
例えば、来年度予算では高市政権の目玉政策である「危機管理投資」などの積極財政政策を弱める方針を市場に示すことが考えられる。また、財源確保の目途が立たない食料品の消費税率引き下げ策の見送りなども選択肢として考えられる。
円安進行や長期金利上昇などの金融市場の悪い反応を高市政権は無視できないとみられる。市場に配慮した財政政策の修正が見られるかどうかに今後は注目したい。
日本銀行の金融政策では長期国債利回りの上昇を抑えることは難しい
14日には、前回4月の金融政策決定会合で政策金利据え置きに賛成した政策委員が、講演会で早期の利上げに前向きな発言をしたことで、日本銀行の利上げ観測が強まり、それも長期金利の上昇を後押しした。金融市場では、6月16日の次回金融政策決定会合で0.25%の政策金利引き上げが行われる確率が、78%程度にまで高まった。
金融市場では、日本銀行の利上げが遅れることで、中長期の物価上昇見通しが高まってしまうという「ビハンド・ザ・カーブ」のリスクが意識されていた。しかし、日本銀行の利上げ観測が強まっても、中長期の物価上昇見通しは下がらず、長期国債利回りの上昇は続いた。このことは、日本銀行の金融政策では、長期国債利回りの上昇を抑えることは難しいことを意味するだろう。
日本銀行は、今まで慎重だった国債買い入れ額を増額するバランスシート政策の修正を検討し始める可能性が出てきたのではないか。これが実施されるかどうかが、当面の大きな注目点となる。
金融市場では、日本銀行の利上げが遅れることで、中長期の物価上昇見通しが高まってしまうという「ビハンド・ザ・カーブ」のリスクが意識されていた。しかし、日本銀行の利上げ観測が強まっても、中長期の物価上昇見通しは下がらず、長期国債利回りの上昇は続いた。このことは、日本銀行の金融政策では、長期国債利回りの上昇を抑えることは難しいことを意味するだろう。
日本銀行は、今まで慎重だった国債買い入れ額を増額するバランスシート政策の修正を検討し始める可能性が出てきたのではないか。これが実施されるかどうかが、当面の大きな注目点となる。
株価の大幅調整が長期国債利回りの上昇を抑制する可能性
日本銀行の政策金利はなお経済に中立的な水準を下回っていると思われるが、2.7%台まで上昇した10年の国債利回りは、既に経済に悪影響を与える水準である可能性が考えられる。また長期金利の上昇は、資産価格の上昇を抑える一方、保有債券の含み損の拡大を通じて、金融機関の財務環境を悪化させる。
長期国債利回りの大幅上昇がもたらすこのような負の側面がより強く意識されれば、株価が大きく下落するだろう。それは長期国債利回りが低下に転じるきっかけとなる可能性がある。15日には日経平均株価が一時1,600円以上下落し、それが長期国債利回りの上昇に一定程度の歯止めとなった。しかしこうした状況が今後も続くかどうかはまだ分からない。
日本の債券市場の安定を取り戻すためには、原油価格が低下するのを待つしかないかもしれない。それ以外には、政府が財政の健全性に十分配慮した政策姿勢を示すことも重要だ。今週訪日していたベッセント財務長官が、今年1月のように高市政権に対して市場に配慮した慎重な財政政策を要請しなかったとみられることが、15日の長期国債利回りの大幅上昇の要因の一つとなった可能性もあるだろう。
長期国債利回りの大幅上昇がもたらすこのような負の側面がより強く意識されれば、株価が大きく下落するだろう。それは長期国債利回りが低下に転じるきっかけとなる可能性がある。15日には日経平均株価が一時1,600円以上下落し、それが長期国債利回りの上昇に一定程度の歯止めとなった。しかしこうした状況が今後も続くかどうかはまだ分からない。
日本の債券市場の安定を取り戻すためには、原油価格が低下するのを待つしかないかもしれない。それ以外には、政府が財政の健全性に十分配慮した政策姿勢を示すことも重要だ。今週訪日していたベッセント財務長官が、今年1月のように高市政権に対して市場に配慮した慎重な財政政策を要請しなかったとみられることが、15日の長期国債利回りの大幅上昇の要因の一つとなった可能性もあるだろう。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。