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電気・ガス補助金導入検討が補正予算編成の議論のきっかけに

高市首相は補正予算の編成を強く否定してきたが、いよいよ検討せざるを得ない状況に追い込まれている。それは、原油価格高騰を受けた個人・企業の支援策を進めるためだ。
 
現在実施している支援策は、3月19日に始めたガソリン補助金であり、ガソリン以外にも軽油、重油、灯油、航空燃料も対象となっている。しかし現在のペースで補助金支給を続けると、6月末には予算が底を突いてしまう計算だ(コラム「ガソリン補助金の予算枯渇シミュレーション:残り1か月半」、2026年5月14日)。予算が底を突きガソリン補助金が廃止されるとの不安を消費者に抱かれないようにするために、政府は早めに追加の予算を手当てする必要があると考えている。それは5月中かもしれない。
 
ガソリン補助金の追加予算の候補となるのは、今年度予算の1兆円の予備費の活用だ。しかし政府は、原油およびLNGの価格上昇の影響から6月頃から電気・ガス料金が顕著に上昇することに対応して、7~9月に電気・ガス料金への補助を検討し始めた。一部の報道によると、予備費から5,000億円程度の予算を確保することを政府は検討しているという。
 
昨年度の補正予算編成で確保された今年1-3月期の電気・ガス補助金の予算は5,296億円だった。報道通りであれば、政府はこれと同程度の規模の7-9月期の電気・ガス補助金の予算を、予備費から確保することになる。
 
ちなみに、原油価格が平均で30%上昇するケースを想定すると、電気料金は6%程度上昇することが予想される。これは、世帯当たり(4人家族)の電気代を月額で792円、年間で9,500円増加すると試算できる。これに、ガス代の値上げ分を加えると、家計の月額の負担増加は1,317円、年間で1万5,800円に達する。
 
こうした追加の家計負担を緩和するために、政府は電気・ガス補助金を実施する方向となった(コラム「電気・ガス代は6月に大幅値上げが始まる:政府の補助金制度にも注目」、2026年5月1日)。

今回の補正予算編成は本来の制度の趣旨に沿ったもの

しかしその場合には、ガソリン補助金の延長に回す予算を予備費から捻出することが難しくなる。自然災害など不測の事態に備えて一定額の予備費は確保しておく必要があるからだ。そこで、異例ではあるがこの春のタイミングで、補正予算編成が検討され始めたのである。
 
高市首相が今まで補正予算編成を強く否定してきた背景には、補正予算改革を打ち出したことがあるだろう。本来補正予算は、本予算編成時には予見できなかった事態に対応するものだ。ところが実際には、毎年秋に、補正予算編成が恒例化しているのは異常なことである。そのたびに巨額の経済対策が実施され、予算が無駄に使われがちだ。本予算と比べて補正予算は、国会での審議が十分ではなく、監視の目が届きにくい。
 
そこで、第2の本予算とも呼ばれる大規模な補正予算編成をやめ、必要な予算は本予算に計上する、との方針を高市首相は掲げた。これは正しい考えだ。
 
しかしながら今回は、中東情勢の緊迫化、原油価格高騰といったまさに不測の事態が生じている。それに対応するための補正予算編成であれば、本来の制度の趣旨にかなったものと言える。

ガソリン補助金の見直しも検討すべき

ただし、今まで実施してきたガソリン補助金、電気・ガス補助金をそのままの形で続けるのは問題なのではないか。第1に、すべての家庭に対して一律に補助をする現在の制度は、予算をかなり圧迫してしまうからだ。低所得層に恩恵が行く形に修正すれば、低所得者対策としてより有効性が高まる一方、予算規模を抑えることも可能となる。所得制限を付けた補助金制度が技術的に難しいのであれば、一律のガソリン補助金、電気・ガス補助金をかなり限定された規模に抑え、他方で、低所得層には別途給付金を支給しても良いだろう。
 
さらに、中東情勢の緊迫化、原油価格高騰への対応が財政環境を一段と悪化させ、市場の財政に対する信頼の低下から円安や長期金利の上昇を招かないように、来年度予算では高市政権の積極財政姿勢を弱める考えを予め伝えることが求められる。
 
第2に、高市首相は、原油・ガソリンの供給不足のリスクは小さいとして、企業や家計に電力、ガソリンなどの消費を節約するように呼びかけることに否定的だ。しかし、石油備蓄の放出や代替ルートでの原油・ナフサの調達にはその持続性に不安がある。それが、企業が原油関連の原材料や製品の減産を続け、各種製品の品不足や価格高騰を生じさせる原因ともなっていると思われる(コラム「原油・ナフサの代替ルートでの調達を進めても、供給不足と価格高騰のリスクは高まっていく(1~3月期GDP統計の見通し)」、2026年5月14日)。
 
政府が企業や家計に電気、ガソリンなどの需要を節約するように呼び掛ける需要抑制策を、石油備蓄の放出や代替ルートでの原油・ナフサの調達といった供給側の政策と併せて実施すれば、企業の不安は緩和され、減産の動きも弱まるのではないか。
 
その際、ガソリン補助金、電気・ガス補助金で家計の負担を相殺すれば、消費者の節約のインセンティブを損ねてしまう。電力、ガソリンなどの需要を節約するように呼びかける需要抑制策と矛盾してしまうのである。
 
この点から、一律のガソリン補助金、電気・ガス補助金の規模を抑え、一定程度のガソリン価格、電気・ガス料金の上昇を家計に受け入れてもらう一方、低所得者の生活は、別途、給付金制度で支援することなどが選択肢となるだろう。迅速な物価高対策として、給付金は食料品の消費税率の2年間ゼロ化などよりも実効性は高いだろう(コラム「迅速な物価高対策として給付金は選択肢」、2026年5月8日)。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。