AIの利用拡大が経済全体に与える影響
過去数年の間、世界の株式市場はAIブームに支配されてきた。エヌビディアなど半導体企業、クラウド・ソフトウェア企業の株価は、市場全体の株高傾向を強く主導してきた。関連企業への需要増大だけでなく、生成AIの社会実装が急速に進むなか、経済全体が生産性向上の大きな恩恵に浴するとの強い期待が、株式市場全体に浸透した結果だ。
ただしAIの利用拡大が経済全体に与える影響については、慎重な意見もある。国際通貨基金(IMF)は2024年4月の「世界経済見通し」の中で、世界の中期成長率に大きなプラスの影響を与える要因の一つに「AIの採用」を挙げた。ただし年平均成長率に与える影響は不確実性が高く、+0.10%~+0.79%とかなり広いレンジでの試算値となっている。
その上限は+0.79%と大きめだが、それでも、「市場の分断化」と「過剰な政府債務」のマイナス効果の合計を凌駕するほどではない。また、「非効率な資源配分を改善する構造改革」のプラス効果+1.20%には及ばない。この分析が正しいとすれば、株式市場でのAIへの期待は行き過ぎている可能性がある。
ただしAIの利用拡大が経済全体に与える影響については、慎重な意見もある。国際通貨基金(IMF)は2024年4月の「世界経済見通し」の中で、世界の中期成長率に大きなプラスの影響を与える要因の一つに「AIの採用」を挙げた。ただし年平均成長率に与える影響は不確実性が高く、+0.10%~+0.79%とかなり広いレンジでの試算値となっている。
その上限は+0.79%と大きめだが、それでも、「市場の分断化」と「過剰な政府債務」のマイナス効果の合計を凌駕するほどではない。また、「非効率な資源配分を改善する構造改革」のプラス効果+1.20%には及ばない。この分析が正しいとすれば、株式市場でのAIへの期待は行き過ぎている可能性がある。
ITバブル・ニューエコノミー論
AIブームの持続性を占う観点から参考になるのは、1990年代後半から2000年代初頭にかけて米国で生じた、インターネット関連企業中心の株価高騰とその後の大幅下落だ。これは「ITバブル崩壊」、また「ドットコムバブル崩壊」などと呼ばれた。ネットビジネスの成長が期待されただけでなく、それが広く経済活動に利用されることで、経済全体の生産性と成長力が大幅に強まる、との期待が高まったのである。当時は、ネットビジネスにけん引されて米国経済が新たな高成長期に入った、という「ニューエコノミー論」がもてはやされていた。
しかし、後から振り返ればそうした期待は過大であった。経済統計からは成長率と生産性が一時的に高まったようにも見えたが、その主な要因はPCの生産拡大だった。ネットビジネスの拡大とともにPCの需要、生産も高まったが、経済統計では、PCの情報処理速度の向上が、PCの性能向上と付加価値の増加として反映される。それはユーザの利便性をそれほど高めることはなくても、一台当たりのPCの付加価値を大きく押し上げ、成長率や生産性を一時的に高めた。しかしそれは、ネットサービスの社会実装が進む中で、経済全体の生産性上昇率が高まるという現象とは全く別のものだった。ITバブル崩壊とともに、そうした過度な期待も一気に失われていったのである。
現在のAIブームも、AIの社会実装が進むことで、あらゆる経済活動の生産性が飛躍的に高まる、との期待に支えられている。しかし実際には、前出のIMFの分析に照らせば、それは過大な期待の可能性があるだろう。
他方で、将来のAI利用の拡大を見越したデータセンターの建設ブームが、経済活動を一時的に押し上げていることは確かだ(コラム「AI一本足の米国経済が抱える潜在的な脆弱性」、2026年5月20日)。しかしそうした建設ブームも、将来のAI利用の拡大についての過剰な期待に支えられている面もあるのではないか。
ITバブル崩壊時と同様に、AIの利用拡大がもたらす経済効果は期待されるほど大きくない、との見方が広がれば、株式市場でのAIブームも沈静化していくだろう。
しかし、後から振り返ればそうした期待は過大であった。経済統計からは成長率と生産性が一時的に高まったようにも見えたが、その主な要因はPCの生産拡大だった。ネットビジネスの拡大とともにPCの需要、生産も高まったが、経済統計では、PCの情報処理速度の向上が、PCの性能向上と付加価値の増加として反映される。それはユーザの利便性をそれほど高めることはなくても、一台当たりのPCの付加価値を大きく押し上げ、成長率や生産性を一時的に高めた。しかしそれは、ネットサービスの社会実装が進む中で、経済全体の生産性上昇率が高まるという現象とは全く別のものだった。ITバブル崩壊とともに、そうした過度な期待も一気に失われていったのである。
現在のAIブームも、AIの社会実装が進むことで、あらゆる経済活動の生産性が飛躍的に高まる、との期待に支えられている。しかし実際には、前出のIMFの分析に照らせば、それは過大な期待の可能性があるだろう。
他方で、将来のAI利用の拡大を見越したデータセンターの建設ブームが、経済活動を一時的に押し上げていることは確かだ(コラム「AI一本足の米国経済が抱える潜在的な脆弱性」、2026年5月20日)。しかしそうした建設ブームも、将来のAI利用の拡大についての過剰な期待に支えられている面もあるのではないか。
ITバブル崩壊時と同様に、AIの利用拡大がもたらす経済効果は期待されるほど大きくない、との見方が広がれば、株式市場でのAIブームも沈静化していくだろう。
ITバブル崩壊と現在のAIブームとの共通点
ITバブル崩壊と現在のAIブームとの間には、もう一つ共通点が見出される。それは、企業債務の増大だ。米国では家計の債務と企業の債務が過剰に累積する局面が生じ、それが調整を迎える中で経済危機や金融危機が繰り返し引き起こされてきた歴史がある。前回の危機は2008年のリーマンショックであり、それは住宅価格高騰に支えられた家計債務の増加が引き金となった。その前の危機が、まさに2000年のITバブル崩壊だ。
リーマンショック後の安定した成長と低金利環境のもと、中堅銀行やファンドの貸出、投機的格付けのハイイールド債などが、IT関連を含む中小企業への資金供給を担ってきた。そうした新たな資金供給チャネルの拡大が、AIブームを支える要因の一つとなった可能性も考えられる。
そうした中、近年は企業の債務増加が際立った。ただし足元ではすでに、過剰となった企業債務を削減する調整の動きも見られている。
関税による米国経済の下振れをきっかけに中小企業の経営不振が表面化すれば、ハイイールド債市場が混乱するなど、深刻な資金ひっ迫(クレジット・クランチ)傾向を生じさせる可能性がある。それは株式市場にも調整をもたらすだろう。
リーマンショック後の安定した成長と低金利環境のもと、中堅銀行やファンドの貸出、投機的格付けのハイイールド債などが、IT関連を含む中小企業への資金供給を担ってきた。そうした新たな資金供給チャネルの拡大が、AIブームを支える要因の一つとなった可能性も考えられる。
そうした中、近年は企業の債務増加が際立った。ただし足元ではすでに、過剰となった企業債務を削減する調整の動きも見られている。
関税による米国経済の下振れをきっかけに中小企業の経営不振が表面化すれば、ハイイールド債市場が混乱するなど、深刻な資金ひっ迫(クレジット・クランチ)傾向を生じさせる可能性がある。それは株式市場にも調整をもたらすだろう。
地政学リスクに注意
他方で、ITバブル崩壊時にはなかった要因として、今回は地政学リスクを考慮に入れておく必要があるだろう。第2次トランプ政権は、関税導入とともに中国に対して半導体の輸出規制も導入した。こうした政策は市場を分断化し、既出のIMFの見通しのように、AI利用の拡大による世界の成長率の押し上げ効果を相殺してしまう可能性があるだろう。そして、イラン情勢を受けた原油価格高騰についても米国経済、世界経済の大きな逆風である。
このように、AIブームを支える構造には大きな脆弱性が潜んでおり、ブームを一気に終焉させる契機となり得る諸要因が多く見出される。
このように、AIブームを支える構造には大きな脆弱性が潜んでおり、ブームを一気に終焉させる契機となり得る諸要因が多く見出される。
プロフィール
-
木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。