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夏季の電気・ガス料金の補助金は総額5,000億円、家計負担を5,000円引き下げ

5月25日に開かれた記者会見で高市首相は、中東情勢について国民の命と暮らし、経済活動に支障が生じないよう政府の取り組みをさらに強化するために、3兆円強の補正予算編成を行う考えを表明した。来週にも国会に提出する。ちなみに、3兆円の補正予算で実質GDPは1年間で0.11%押し上げられる計算となる(所得増加の支出弾性値0.25%と仮定)。
 
具体的な施策は、7~9月の電気・ガス料金補助、特別高圧電力やLPガスの利用者への支援など重点支援地方交付金、ガソリン補助金の継続、の3点だ。
 
電気料金の補助は使用量1キロワット時当たり7月と9月が3.5円、8月は4.5円とする。今年1~3月期の冬季の電気・ガス補助金では使用量1キロワット時当たり4.5円の補助だった。その際に政府は、二人以上世帯の電気・ガス補助金による負担減は、3か月間平均で7,300円との試算値を発表していた。今回の補助金は、標準的な家庭において3か月で5,000円程度の負担引き下げ効果を実現できると高市首相は説明している。
 
また、予算総額については、1~3月期には5,296億円だった。今回については、高市首相は2026年度当初予算の予備費1兆円から約5,000億円を充てるとしている。家計の負担減少額が世帯当たりの見積もりで5,000円程度と1~3月期の7,300円の68.5%であり、ここから計算される予算総額は3,627億円となる。実際には約5,000億円の予算規模とされており、やや多めに政府は電気・ガス料金補助の予算を確保するものとみられる。
 
この約5,000億円は2026年度当初予算の予備費1兆円から賄われるが、補正予算によって当初予算の予備費を1兆円に戻すため、実質的には7~9月の電気・ガス料金補助金は補正予算で賄われることになる。

現状制度のもとで3か月分のガソリン補助金の追加予算は1.5兆円程度

特別高圧電力や地方での利用者が多いLPガスの利用者への支援など地域の実情に応じた支援を強化できるよう「重点支援地方交付金」にも補正予算が充てられる。その規模は明示されていない。大規模工場や大型施設で利用される特別高圧電力への支援を行うということは、政府の支援が大手企業にも及ぶことを意味するだろう。
 
一方、6月下旬にも予算が底を突くガソリン補助金の追加予算も補正予算で確保されるとみられる。自民党内では予算を圧迫するガソリン補助金の縮小の必要性を訴える声が高まっており、最終的には高市首相も制度の見直しを行うことになるものと予想される(コラム「自民党内で強まるガソリン補助金見直しの議論」、2026年5月25日)。ただし今回の記者会見で高市首相は、「今後の物価動向や経済に与える影響を注視し、政府として必要な検討を進めていく」との説明にとどめた。
 
レギュラーガソリンを全国平均で1リットル当たり170円程度に抑える現在のガソリン補助金制度のもとで、5月25日までの過去1か月間の補助金の規模は推定で4,945億円とほぼ5,000億円程度に達した。そのもとで新たに3か月のガソリン補助金の予算を確保するのであれば1.5兆円、半年分であれば3.0兆円程度となる。今回の補正予算の多くは、ガソリン補助金の継続に充てられると考えられる。

補正予算編成による財政赤字の拡大を赤字国債の発行で賄う構図に変わりはない

中東情勢の緊迫化を受けた原油価格高騰などへの対策は必要であるが、補正予算の3兆円超という規模は小さくなく、財政や金融市場への影響は懸念されるところだ。
 
高市首相は、「2025年度分の特例公債のうち3兆円分は6月までの発行が予定されているが、税収などの見込みを踏まえると実際には発行せずに済む」と説明している。赤字国債の新規発行は抑制できても、補正予算編成による財政赤字の拡大を赤字国債の発行で賄う構図には変わりはない。
 
中東情勢の緊迫化への対応で補正予算の編成は必要としても、財政政策全体ではその信頼性を維持するように政府は努める必要がある。この観点から、財源の議論が全く進んでいないなかで審議が進められている食料品の消費税率を2年間0%にする案については、見送りを検討すべきではないか。また、高市政権のカラーが初めて大きく反映される2027年度当初予算での政府の投資拡大策などについても、縮小方向を検討すべきではないか。

広がりを見せるナフサ由来の石油製品不足

​記者会見で高市首相は、原油・ナフサの確保の状態についても説明した。原油は6月のホルムズ海峡を経由しない代替調達が8割程度まで引き上がり、年度を越えて来年春まで石油の安定供給を確保できるとした。またナフサについても中東以外からの代替調達が従来の8割超まで回復しており、ナフサ由来の石油製品は年を越えて供給継続が可能だとした。
 
政府が原油・ナフサの確保ができているとの説明をする中でも、ナフサ由来の石油製品の不足が日々報じられている。政府の言う流通の「目詰まり」よりも、企業が原油・ナフサの不足への根強い懸念を抱え、生産を削減していることがその背景にあるのではないか。原油・ナフサの代替調達が今後も安定的に続くかどうかを企業は懸念している。
 
政府は、原油・ナフサの代替ルートを通じた確保ができている中で、家計や企業に石油製品の節約を呼びかける必要はない、との姿勢を崩していない。今回の記者会見で高市首相は、「経済活動にブレーキをかける形で踏み込んだ節約をお願いする段階にはない」と改めて強調した。
 
しかし、原油・ナフサの確保が先行き確実ではない中、原油・ナフサの不足への企業の不安を緩和し、減産の姿勢を一定程度後退させることを通じて石油製品の供給を促す観点からも、緩やかな節約の呼びかけなど、需要面での対策に政府は早期に着手すべきではないか。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。