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自由貿易協定「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」の見直しを巡って、5月29日に米国とメキシコの協議が始められた(コラム「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)を巡り米国とメキシコの2国間交渉が開始」、2026年5月29日)。
 
トランプ政権はUSMCA見直し交渉において、自動車について米国部材調達比率を50%とする案を提示したと報じられている。USMCAで、域内貿易の関税免除の基準は、従来、域内調達比率だった。米国内調達比率を新たに導入することで、米国は国内自動車生産の拡大とメキシコ、カナダからの輸入抑制を通じた貿易赤字の縮小を目指す。
 
自動車分野については、2020年に発効したUSMCAの前身である北米自由貿易協定(NAFTA)で、域内調達比率の基準は62.5%だった。USMCAではこれが75%に引き上げられた。米国は今回のUSMCAで同比率を82%にまで引き上げることも求めているとされる。
 
仮に、自動車分野で域内調達比率が82%に引き上げられ、加えて50%の米国内調達比率が新たに導入されれば、米国内で自動車を生産する企業に適用される輸入関税免除は相当程度縮小し、収益に大きな打撃となる可能性が考えられる。サプライチェーンの見直しを迫られる可能性もあるだろう。トヨタの場合、メキシコで生産する完成車に占める米国産部品の比率は30%程度にとどまるとされる(読売新聞)。
 
USMCA見直しについての米国側の要求は、現状では自動車分野が中心だ。しかし、米国通商代表部(USTR)のグリア代表は、改定後のUSMCAはメキシコとカナダにある程度の関税を賦課するものになる可能性が高いとしている。
 
トランプ政権が課した追加関税について、カナダ・メキシコから米国への輸出については約85%がUSMCAの域内調達比率の基準を満たしていることで優遇関税が適用されている。
 
しかし、今回のUSMCA見直しでは、自動車分野以外でも域内調達比率の見直しなどを通じて関税免除範囲が縮小される可能性もあるのではないか。見直し後のUSMCAは、自由貿易協定としての性格を一段と後退させることになるだろう。
 
(参考資料)
“Trump Administration Wants Autos Under USMCA to Be at Least 50% Made in America(トランプ政権、車部材に米国産5割要求へ USMCA見直し交渉)”, Wall Street Journal, May 30 2026
「米、域内調達80%超要求 北米 車部品、日本勢影響も」、2026年5月31日、読売新聞
「米政権、メキシコに車部品「50%米調達」要求 USMCA交渉」、2026年6月2日、日本経済新聞

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。