植田総裁の入院でも利上げは揺るがない
日本銀行は10日に、植田総裁が肝嚢胞感染症の治療のため入院しており、15~16日に開く金融政策決定会合を欠席する見通しだと発表した。在任中の日銀総裁が通常会合を欠席するのは1998年の新日銀法施行以降で初めてのこととなる。植田総裁は決定会合に書面で意見を提出する予定だが、議決には参加できない。そのため今回の決定会合では、8人の政策委員の投票により金融政策が決定される。
ただし、日本銀行は政策金利を引き上げる方針を事前に伝えており、利上げ実施は揺るがない。政策委員会内では、総裁、副総裁などの執行部は利上げに慎重とみられる中、物価高への対応が遅れることを警戒する審議委員が早期の利上げ実施に前向きとなっており、利上げ見送りの議長(総裁)案が否決される可能性が高まってきた。そこで今回は、総裁は、議長案を利上げ見送りから利上げに差し替え、議長案が否決される不名誉な状況を回避することを決めたとみられる。非執行部が金融政策変更を主導する、歴史的な利上げとなるだろう(コラム「植田日銀総裁の講演は6月利上げを示唆したものか」、2026年6月4日)。
ただし、日本銀行は政策金利を引き上げる方針を事前に伝えており、利上げ実施は揺るがない。政策委員会内では、総裁、副総裁などの執行部は利上げに慎重とみられる中、物価高への対応が遅れることを警戒する審議委員が早期の利上げ実施に前向きとなっており、利上げ見送りの議長(総裁)案が否決される可能性が高まってきた。そこで今回は、総裁は、議長案を利上げ見送りから利上げに差し替え、議長案が否決される不名誉な状況を回避することを決めたとみられる。非執行部が金融政策変更を主導する、歴史的な利上げとなるだろう(コラム「植田日銀総裁の講演は6月利上げを示唆したものか」、2026年6月4日)。
先行きの方針を伝える情報発信への影響は避けられないか
決定会合の議長は、氷見野副総裁が代行する。これは、既に定められている議長代行の序列に従うものだ。他方、決定会合後の記者会見は、総裁代行の序列に従って、内田副総裁が行う。記者会見は、決定会合の決定内容や議論を対外的に伝える役割を担っており、本来は、決定会合の議長が行うのが適切であり、今回は氷見野副総裁が行うのが自然だと思える。ただし、対外的な情報発信に慣れている内田副総裁が行うことになったのだろう。
内田副総裁が決定会合に復帰したのと入れ替わるように植田総裁が入院するという異例の事態となり、執行部は逆風に晒されている。政策決定の主導権を非執行部の審議委員に握られている状況と重なっているようにも見える。
植田総裁が決定会合を欠席しても、もはや利上げの決定は揺るがないが、記者会見での先行きの方針を伝える情報発信への影響は避けられないのではないか。内田副総裁は、今後の政策方針について明確な方向性を示さないだろう。
内田副総裁が決定会合に復帰したのと入れ替わるように植田総裁が入院するという異例の事態となり、執行部は逆風に晒されている。政策決定の主導権を非執行部の審議委員に握られている状況と重なっているようにも見える。
植田総裁が決定会合を欠席しても、もはや利上げの決定は揺るがないが、記者会見での先行きの方針を伝える情報発信への影響は避けられないのではないか。内田副総裁は、今後の政策方針について明確な方向性を示さないだろう。
国債買い入れ減額の見直しは既定路線か
次回金融政策決定会合では、国債買い入れ方針の見直しも議論される。2027年4月以降は、国債買い入れの減額を停止し、保有国債残高の減少ペースを緩める措置が実施される見込みだ。
これは、足もとの長期金利上昇を受けて、国債の需給に配慮した措置との受け止めもあるが、実際には当初からの既定路線に近いのではないか。日本銀行は、国債保有残高の縮小により、国債市場の機能が回復してきたと判断している。そのため、残高削減を急ぐ必要性は低下している。
他方、足もとの長期金利上昇は国債市場の機能の低下によるものではなく、原油価格高騰によるインフレ懸念の上昇や、財政悪化懸念によるものと日本銀行は判断しているだろう。こうしたもとで、国債買い入れ減額の方針を大きく見直せば、それはバランスシート政策を緩和方向に修正することになり、政策金利の引き上げ策と矛盾してしまう。また、市場のインフレ懸念を高め、むしろ長期金利を上昇させてしまう恐れがあるだろう。
さらに、日本銀行は国債買い入れ減額の方針を大きく見直さないことで、長期金利の上昇が政府の財政規律を促す効果を期待するのではないか。
これは、足もとの長期金利上昇を受けて、国債の需給に配慮した措置との受け止めもあるが、実際には当初からの既定路線に近いのではないか。日本銀行は、国債保有残高の縮小により、国債市場の機能が回復してきたと判断している。そのため、残高削減を急ぐ必要性は低下している。
他方、足もとの長期金利上昇は国債市場の機能の低下によるものではなく、原油価格高騰によるインフレ懸念の上昇や、財政悪化懸念によるものと日本銀行は判断しているだろう。こうしたもとで、国債買い入れ減額の方針を大きく見直せば、それはバランスシート政策を緩和方向に修正することになり、政策金利の引き上げ策と矛盾してしまう。また、市場のインフレ懸念を高め、むしろ長期金利を上昇させてしまう恐れがあるだろう。
さらに、日本銀行は国債買い入れ減額の方針を大きく見直さないことで、長期金利の上昇が政府の財政規律を促す効果を期待するのではないか。
バランスシート政策の正常化が将来的には大きな課題に
このため、2027年4月期以降、国債買い入れの減額を停止する措置は、長期金利上昇に配慮した国債買い入れ減額の方針の見直しではなく、当初からの既定路線と考えられる。いずれは、日本銀行は国債買い入れ額を保有国債の償還額に見合う水準まで再び増加させて、国債保有残高を一定に維持するとみられる。しかしそうした政策転換はまだ先のことであり、今回、それに関わる見通しを示すことはないだろう。
2008年のリーマンショックをきっかけに異例の非伝統的政策として主要国で開始されたバランスシート政策は、経済が改善しても解消されることなく、通常の政策の一環を担うようになっている。
一方で、日本銀行が相当規模の国債を経常的に保有し続け、高水準の超過準備を維持することは、銀行の資金繰りを助ける一方、銀行自らが財務環境を改善させる意欲を削いでしまい、モラルハザードの問題を生むだろう。また、そうした政策は、円安の修正を妨げ、物価の安定回復の障害になるなどの弊害もある。政策金利の正常化が一巡すると、将来的には、バランスシート政策の正常化が日本銀行の大きな課題となってくる。
2008年のリーマンショックをきっかけに異例の非伝統的政策として主要国で開始されたバランスシート政策は、経済が改善しても解消されることなく、通常の政策の一環を担うようになっている。
一方で、日本銀行が相当規模の国債を経常的に保有し続け、高水準の超過準備を維持することは、銀行の資金繰りを助ける一方、銀行自らが財務環境を改善させる意欲を削いでしまい、モラルハザードの問題を生むだろう。また、そうした政策は、円安の修正を妨げ、物価の安定回復の障害になるなどの弊害もある。政策金利の正常化が一巡すると、将来的には、バランスシート政策の正常化が日本銀行の大きな課題となってくる。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。