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米雇用情勢に再び不安

米労働統計局が7月2日に発表した6月分雇用統計で、非農業雇用者増加数は前月比5万7,000人と、事前予想の11万人程度を大きく下回った。また、4月と5月の雇用者増加数は合計7万4,000人下方修正された。
 
昨年悪化した雇用情勢は年明け後には持ち直していたが、再び雇用の弱さが示された形だ。過去の傾向をみると、6月の雇用者増加数の速報値は、後に改定される傾向があり、大幅に下方修正される可能性もある。
 
業種別にみるとレジャー・接客業の雇用者数は前月比マイナス6万1,000人と大幅に減少した。サッカーのワー​ルドカップ(W杯)に伴う雇用増加への期待に反して、2020年12月以来の大幅な落ち込みとなった。また小売業の雇用者数が7,500人減少するなど、個人消費関連の雇用の弱さが目立った。これは、中東情勢の緊迫化によるガソリン価格上昇の影響が、遅れて個人消費の抑制につながった可能性が考えられる。
 
時間当たり賃金は前年同月比+3.5%上昇と、5月の+3.4%からやや上昇した。ただし賃金上昇率はなお物価上昇率を下⁠回っており、実質賃金環境の悪化が個人消費を抑制し続けている。

労働力人口の減少が続く

失業率は4.2%と、前月の4.3%から低下。ただし、その背景には約72万人が労働市場から退出し、労働力人口が減少したことがある。労働参加率(労働力人口 ÷ 生産年齢人口)は61.5%と2021年3月以来、約5年ぶりの低水準となった。高齢化や厳格な移民政策により労働力人口が減少している可能性がある。労働力人口は第2次トランプ政権発足以来、約130万人減少した​。
 
こうした労働供給の減少は、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策判断を難しくする面がある。労働供給の減少は、労働市場の逼迫傾向を促し、賃金・物価の上昇圧力を高める。これは利上げを促す要因だ。他方で、労働供給の減少はやや長い目で見れば経済の潜在力を低下させ、政策金利の中立水準を押し下げる可能性もある。これは、利下げを促す要因にもなり得る。

日本政府のドル売り円買い介入の可能性は根強く残る

6月の雇用者増加数が事前予想を下回ったことで、FRBの早期利上げ観測がやや低下している。金融市場が織り込む7月29日の次回米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ確率は、統計発表前の30%程度から、統計発表後には20%未満へと低下した。ただし、年内1回の利上げ観測は揺らいでいない。
 
今後発表される物価統計では、ガソリン価格の低下によって物価上昇率が下振れる一方、景気指標は、原油価格、ガソリン価格上昇の影響が遅れて表れることによって当面下振れる可能性も考えられる。その場合には、FRBの利上げ観測が一段と後退することになるだろう。
 
予想外に下振れた6月分雇用統計を受けて、為替市場ではドル安円高が進んだ。2日の東京市場で1ドル162円台後半にあったドル円レートは、一時160円台後半までのドル安円高となった。その幅は2円近くに及び、日本政府によるドル売り円買い介入の可能性も一部に浮上した。
 
実際には、為替介入が実施された可能性は低いと考えられるが、今後、ドル円レートが円高方向に振れたタイミングを捉えた「円押し上げ介入」の可能性も含め、為替介入が実施される可能性が高い状況は当面続くだろう(コラム「39年ぶりの水準まで円安が進行」、2026年6月30日)。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。