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代替関税の期限が迫る

トランプ米大統領は2025年に、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき中国、カナダ、メキシコに対してフェンタニル関税、すべての国に対して相互関税を課した。しかし、2026年2月に米国の最高裁はIEEPAに基づくこれらの関税は、大統領の権限を逸脱しており違法、との判決を下した。それによって、日本に対して15%を課していた相互関税は失効したのである。しかしトランプ政権は、即座に通商法122条に基づく新たな関税(代替関税)を発動した。税率は一律10%である。
 
しかし、この通商法122条は、国際収支が悪化した際に暫定的な対応として関税を認めるものであり、関税率は最大で15%、議会の承認が得られない場合にはその期間は最大150日と定められている。その150日の期限が7月24日に迫っている。
 
トランプ政権は、通商法122条が失効した後には、通商法301条に基づいた新たな関税を課す考えを示してきた。それによって、失効した相互関税の枠組みを再構築する考えだ。

強制労働品への対応が不十分であることを理由に日本に12.5%の関税案

米通商代表部(USTR)は今年6月2日に、通商法122条に基づく10%の代替関税に代わる、通商法301条に基づいた新たな代替関税の案を示した(コラム「トランプ政権が代替関税の新たな案を提示:日本には12.5%の関税率が適用される可能性」、2026年06月05日)。
 
欧州連合(EU)、英国、その他10数か国・地域に対して、強制労働によって生産された製品の輸入を十分に阻止していないと判断されたとして、最低10%の新たな関税を課す。一方、中国、日本、インドなどの国々については、そうした輸入を禁止しておらず、対応がより不十分であるとして、さらに高い12.5%の関税が適用される見込みだとUSTRは説明している。
 
ちなみに、現在原則10%の代替関税が12.5%に引き上げられれば、日本の実質GDPは1年間で0.06%押し下げられる計算となる。
 
日本は強制労働製品の輸入を禁止しておらず、対策が不十分な国とされた。主要国の中でも日本は規制が弱いと見られているのは事実である。米国、EU、カナダ・メキシコなどのように、強制労働製品の輸入を禁止する包括的な「輸入禁止法」は日本にはない。しかし、日本もサプライチェーンにおける人権尊重ガイドライン(2022年)を策定するなど、取り組みは進められている。

通商法122条に基づく関税から通商法301条に基づく関税へ

ただしこの案は、一般からの意見募集(パブリックコメント)を踏まえて最終的に決定されるものであり、現時点ではなお確定的なものではない。
 
またUSTRは、強制労働だけでなく、過剰生産を理由に通商法301条に基づく代替関税も検討していると報じられている。その場合、日本ではなくEU、中国などに10%よりも高い関税率が課される可能性があるだろう。
 
さらに、USTRのグレア代表は、議会の承認を経ずに150日間の期限を過ぎても通商法122条に基づく10%の関税を続けることができる、との法解釈も示している。そして7月18日のNHKの報道によれば、NHKの取材に対してグレア代表は、今後数週間のうちに何らかの結論を出したい考えを示している。つまり、7月24日の期限までに新たな関税策を示すとは限らない。
 
7月24日になって通商法122条に基づく代替関税が失効する可能性と失効しない可能性、強制労働への対応が不十分なことを理由に、代替関税を引き継ぐ通商法301条に基づく関税を課す可能性と過剰生産を理由に関税を課す可能性など、なお多くの可能性が残されている。
 
日本にとって大きな関心事であるのは、関税の負担の上限を15%にする軽減措置の扱いだ。トランプ政権は相互関税のもとで、日本に追加関税と既存の関税をあわせた税負担の上限を15%にする軽減措置を約束していた。グレア代表は「トランプ氏が過去1年間で結んだ貿易合意を順守したい」としており、明言は避けているものの、軽減措置を継続する考えを示唆している。

司法の壁、世論の壁に阻まれてトランプ関税は行き詰まりか

米最高裁が2月下旬に下したのは、IEEPAに基づく相互関税、一律関税の違法性判断であった。ただし、同法に限らず、議会の承認を経ずに大統領の権限だけで関税を課すこと自体の違法性を示唆している。そのため、通商法301条に基づく新たな代替関税が発動されても、訴訟により短期間でそれも失効に追い込まれる可能性があるだろう。
 
その際には、杜撰に見える今回の通商法第301条発動のための調査についても、その正当性が問われることになるのではないか。トランプ関税は司法の壁に阻まれ、後退を余儀なくされるだろう。
 
関税政策は国内で不人気であり、そうした世論にもトランプ政権は配慮する必要がある。トランプ大統領は引き続き関税を武器に他国に揺さぶりをかけているものの、司法の壁と世論の壁の双方に阻まれてトランプ関税は行き詰まり、今後、縮小に向かう可能性があると見ておきたい。
 
(参考資料)
「トランプ代替関税が24日失効、新関税に移行へ 日本は12.5%案」、2026年7月17日、日本経済新聞電子版
「トランプ代替関税が24日失効、新措置移行に各国異論 再提訴の火種-News Forecast」、2026年7月19日、日本経済新聞電子版

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。