物価高対策は必要だが、答えは消費税率引き下げではない
来年4月から食料品の消費税率引き下げを2年間1%にする政府の基本方針が、8月5日に閣議決定された。高市首相は9月に税制改正大綱を決定し、秋の臨時国会に消費税減税の関連法案を提出する考えを示している。
日本は巨額の財政赤字が常態化し、政府債務のGDP比率は主要国の間で突出して高い危機的水準にある。一方、急速な高齢化の進展によって今後も社会保障費が増え続ける中、社会保障費の基礎的財源として位置付けられている消費税の税率を下げることが果たして適切なのか、取り返しのつかない過ちとならないか、日本社会と経済の安定に寄与するのか、冷静になって慎重に考え直す必要があるのではないか。
近年の歴史的な物価高に対して、日本社会は十分に対応できておらず、中低所得層の生活は過度に圧迫されている。この点から、税制、社会保障などの制度を大きく見直し、物価高などの環境変化に柔軟に対応できる社会に変えていく必要があるだろう。
しかし、消費税率の引き下げは、こうした制度面での根本的な対応にはならない。消費税率の引き下げによる経済的メリットは限定的だ(コラム「高市首相が食料品の消費税率引き下げ方針を正式に発表:財源は明示されず、財政悪化への懸念が一段と強まる方向」、2026年7月31日)。
さらに、消費税率の引き下げの恩恵は、高額所得者により多く及ぶという問題もある。物価高対策としては一時的な消費税率引き下げではなく、中低所得層に絞った給付金でつなぎ、そのうえで、できるだけ早期に給付付き税額控除の創設を目指すべきだ。
日本は巨額の財政赤字が常態化し、政府債務のGDP比率は主要国の間で突出して高い危機的水準にある。一方、急速な高齢化の進展によって今後も社会保障費が増え続ける中、社会保障費の基礎的財源として位置付けられている消費税の税率を下げることが果たして適切なのか、取り返しのつかない過ちとならないか、日本社会と経済の安定に寄与するのか、冷静になって慎重に考え直す必要があるのではないか。
近年の歴史的な物価高に対して、日本社会は十分に対応できておらず、中低所得層の生活は過度に圧迫されている。この点から、税制、社会保障などの制度を大きく見直し、物価高などの環境変化に柔軟に対応できる社会に変えていく必要があるだろう。
しかし、消費税率の引き下げは、こうした制度面での根本的な対応にはならない。消費税率の引き下げによる経済的メリットは限定的だ(コラム「高市首相が食料品の消費税率引き下げ方針を正式に発表:財源は明示されず、財政悪化への懸念が一段と強まる方向」、2026年7月31日)。
さらに、消費税率の引き下げの恩恵は、高額所得者により多く及ぶという問題もある。物価高対策としては一時的な消費税率引き下げではなく、中低所得層に絞った給付金でつなぎ、そのうえで、できるだけ早期に給付付き税額控除の創設を目指すべきだ。
消費税率引き下げ議論が進む一方、財源の議論は後回しで財政悪化懸念が強まる
消費税率引き下げの議論が進む一方、財源の議論は明らかに後回しになっている。年間5兆円規模の安定財源を確保するのは、事実上、無理なのではないか。高市首相は、赤字国債の発行に頼らないとしているが、実際には安定財源を確保することができずに、赤字国債の発行で賄う形になる可能性が相応にあるだろう。
また、税収の上振れ分、外為特会剰余金の活用など極めて不透明な形で2年間の財源を表面上は確保しても、消費税率を2年後に元の水準に戻すことの政治的ハードルは極めて高い。2年後に消費税率の引き下げがなし崩し的に恒久減税となるリスクが相応に高い中、恒久財源へ移行しうる安定した財源を当初から確保できなければ、金融市場の財政悪化懸念を緩和することはできない。
金融市場の財政悪化懸念は、円安や債券安を促し、物価高や長期金利の上昇を通じて国民生活を圧迫し、物価高対策としての消費税率引き下げの効果を容易に相殺してしまうだろう。
また、税収の上振れ分、外為特会剰余金の活用など極めて不透明な形で2年間の財源を表面上は確保しても、消費税率を2年後に元の水準に戻すことの政治的ハードルは極めて高い。2年後に消費税率の引き下げがなし崩し的に恒久減税となるリスクが相応に高い中、恒久財源へ移行しうる安定した財源を当初から確保できなければ、金融市場の財政悪化懸念を緩和することはできない。
金融市場の財政悪化懸念は、円安や債券安を促し、物価高や長期金利の上昇を通じて国民生活を圧迫し、物価高対策としての消費税率引き下げの効果を容易に相殺してしまうだろう。
海外のように時限措置の消費税率引き下げは難しい
コロナ問題が深刻化した2020年6月に、ドイツは日本の消費税に相当する付加価値税(VAT)を一時的に引き下げた。通常税率は19%から16%へ、軽減税率は7%から5%へ引き下げられた。実施期間は 2020年7月1日から12月31日までの6か月間だった。消費の前倒し効果は一定程度確認されたものの、景気押上げ効果の大きさについては評価が分かれている。
ちなみに、コロナ禍のもとではドイツ以外にも、2020年7月に英国が観光・宿泊・飲食業などに対象を絞りVATの税率を20%から5%に引き下げる時限的減税を実施した。その後、税率は段階的に引き上げられ、2022年4月1日に元の税率に戻された。アイルランドでも、VATの標準税率23%を21%にする措置が2020年9月に講じられ、2021年2月まで続けられた。いずれの国でも、税率を元に戻す際には大きな混乱はなかった。
欧州の国々で、VATの税率を元に戻すことに大きな混乱が生じなかった理由の一つは、標準税率が20%程度と高いことから、税率を3%程度上げることにも下げることにも、国民の間で大きな抵抗が生じなかったからではないか。
他方、日本では、消費税率の水準が相対的に低いことから、税率を元の水準に戻す際には国民の間で抵抗が強くなり、結果的にそれが実行できなくなる可能性が相応にあるだろう。
ちなみに、コロナ禍のもとではドイツ以外にも、2020年7月に英国が観光・宿泊・飲食業などに対象を絞りVATの税率を20%から5%に引き下げる時限的減税を実施した。その後、税率は段階的に引き上げられ、2022年4月1日に元の税率に戻された。アイルランドでも、VATの標準税率23%を21%にする措置が2020年9月に講じられ、2021年2月まで続けられた。いずれの国でも、税率を元に戻す際には大きな混乱はなかった。
欧州の国々で、VATの税率を元に戻すことに大きな混乱が生じなかった理由の一つは、標準税率が20%程度と高いことから、税率を3%程度上げることにも下げることにも、国民の間で大きな抵抗が生じなかったからではないか。
他方、日本では、消費税率の水準が相対的に低いことから、税率を元の水準に戻す際には国民の間で抵抗が強くなり、結果的にそれが実行できなくなる可能性が相応にあるだろう。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。