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違法判決で失効した相互関税の復活を目指すトランプ政権

トランプ政権は7月24日に、強制労働で作られた製品の輸入への対応が十分ではないことを理由に、主要60か国に対して、通商法301条に基づく新関税を導入した。関税率は10%~12.5%であり、日本には高い12.5%が適用された(コラム「トランプ政権が日本に12.5%の新関税を発動:日本経済への追加的な影響は限定的」、2026年7月24日)。
 
しかし、通商法301条に基づくこの新関税には第2弾が実施される可能性が残されている。トランプ政権は、今年2月に国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく相互関税が最高裁の違法判断で失効した際に、通商法122条で150日間つないだ後に通商法301条に基づく関税で相互関税を復活させる考えを示していた。
 
失効した相互関税は10%の基礎部分と上乗せ部分からなり、筆者の試算では平均で約21%であった。ところが今回の新関税の関税率は10%~12.5%であり、失効した相互関税と比べてなお低水準だ。そのため、トランプ政権は、相互関税の復活を目指して、さらなる関税率の引き上げを考える可能性がある。

過剰生産を理由にした通商法301条に基づく追加の関税の可能性

通商法301条に基づく関税発動には、事前の正式な調査プロセスが法的に必須とされる。外国政府の貿易に関わる行為、政策、慣行が、不合理で差別的であるか、国際協定に違反しているかどうか、米国の通商(貿易)に負担・制限を与えているかなどが調査される。
 
強制労働によって作られた製品の輸入への対応について調査するのと並行して、米通商代表部(USTR)は、3月11日から過剰生産の調査を続けてきた。過剰生産に関する調査は、16か国を対象としている。
 
現時点ではトランプ政権は、過剰生産を理由にした通商法301条に基づく追加関税については何ら明らかにしていないが、調査の進展を受けて、今後発表される可能性は残されているのではないか。
 
過剰生産への対応は、トランプ政権の「米国製造業基盤の復興」という経済戦略の中核となっており、追加関税導入の根拠として今後使用される可能性がある。
 
その場合、トランプ政権が過剰生産を指摘してきたのは、中国と欧州連合(EU)である。中国を対象にするかどうかは、中国との関係悪化や報復としてのレアアースの輸出規制を中国が行うリスクなどを踏まえて最終的には慎重に判断するのではないか。
 
EUについては、15%の相互関税率で合意していた。強制労働への対応を理由にした新関税は10%であったことから、過剰生産を理由に追加で5%の関税を課して、合計で15%と相互関税と同水準になる可能性があるのではないか。
 
一方、日本についても、仮に過剰生産を理由にした追加関税の対象になるとしても、日米で合意した相互関税の15%を超える可能性は低いだろう。その場合、日本には2.5%の追加の関税が課され、通商法301条に基づく新関税率は合計で15%になる可能性が考えられる。

他国を翻弄する新たな関税を次々と繰り出してくる可能性

通商法301条に基づく新関税についても、多くの訴訟に晒され、最終的には相互関税と同様に違法判決が下される可能性が考えられる。しかしそれまでには1年以上の時間がかかると見られ、トランプ政権は関税を武器に他国を揺さぶる戦略をなお続けるだろう。
 
新関税の導入に前後して、トランプ大統領は7月20日に、カナダの乳製品、アルコール、自動車部品に対して50%の追加関税を発表したほか、ブラジルに25%、後発医薬品(ジェネリック医薬品)には最大200%の関税を発表している。
 
分野別関税の根拠となっている通商拡大法232条や通商法301条は、それぞれ調査や意見提出などの手続きが定められているが、カナダへの新たな関税の根拠となる通商法338条はそうではない。米国に対して差別的な扱いを行う国からの輸入品について、最大50%の追加関税の措置を取る権限を大統領に認めている。
 
トランプ関税は国民からの批判と司法の壁に阻まれて、全体としては行き詰まりつつあると考えられるが、しばらくの間は、トランプ大統領は法律の抜け道を探し出し、他国を翻弄する新たな関税を次々と繰り出してくる可能性がある。
 
(参考資料)
“Trump’s Trade Wars Are Back—Despite the Supreme Court(トランプ氏の貿易戦争が復活、最高裁判決を経てもなお)”, July 24, 2026

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。