米国債市場への介入の効果は長くは続かず
米財務省は8月19日に、10年~30年の米国債を買い戻す際の1回当たりの上限額を、20億ドルから40億ドル以上に引き上げると発表した(コラム「米トランプ政権が国債の買い戻し額を拡大:日米協調介入に続く市場介入、日本の政策への介入も強めるか」、2026年8月21日)。
この措置は、長期金利の上昇を牽制する狙いで行われた市場介入との見方が強い。この措置の発表を受けて、19日には米30年国債利回りは1日で約0.1ポイントも低下した。
しかしその効果は長く続かず、21日には、利回りは措置発表の前の水準まで戻ってしまった。金融市場では、この措置が米国債の需給に与える影響が小さいことに加えて、長期金利上昇の要因に直接働きかける対応策ではないとの見方がされている。
長期金利の上昇をもたらす大きな要因の一つはインフレリスクであるが、イラン情勢を受けて一時高騰した原油価格は、その後低下したものの、長期金利は目立って低下しなかった。それ以外にも、財政の悪化懸念やAI向けの大規模データセンター運営企業による社債発行が急増したことが、債券需給を悪化させ、長期金利の上昇をもたらしている面がある。
この措置は、長期金利の上昇を牽制する狙いで行われた市場介入との見方が強い。この措置の発表を受けて、19日には米30年国債利回りは1日で約0.1ポイントも低下した。
しかしその効果は長く続かず、21日には、利回りは措置発表の前の水準まで戻ってしまった。金融市場では、この措置が米国債の需給に与える影響が小さいことに加えて、長期金利上昇の要因に直接働きかける対応策ではないとの見方がされている。
長期金利の上昇をもたらす大きな要因の一つはインフレリスクであるが、イラン情勢を受けて一時高騰した原油価格は、その後低下したものの、長期金利は目立って低下しなかった。それ以外にも、財政の悪化懸念やAI向けの大規模データセンター運営企業による社債発行が急増したことが、債券需給を悪化させ、長期金利の上昇をもたらしている面がある。
長期金利上昇には「ウォーシュ・リスク」も
また、米連邦準備制度理事会(FRB)のウォーシュ議長が長期金利上昇の一因になっている、との見方もある。いわゆる「ウォーシュ・リスク」だ。ウォーシュ議長が市場とのコミュニケーション戦略を見直し、フォワードガイダンス(政策金利見通し)などの情報提供を削減していることが、先行きの金融政策の不確実性を高め、長期金利の上昇につながっている面もある。
また、ウォーシュ議長が以前よりFRBのバランスシートの縮小を志向していることも、FRBが国債保有を削減し国債の需給を悪化させる、との懸念を生じさせている。
さらに、ウォーシュ議長がトランプ大統領の意向を受けて、金融引き締めに消極的な政策姿勢をとるとの見方も根強くある。対応の遅れが将来のインフレリスクを高めてしまうとの観測、いわゆる「ビハンド・ザ・カーブ」懸念から長期金利が上昇している面もある。
また、ウォーシュ議長が以前よりFRBのバランスシートの縮小を志向していることも、FRBが国債保有を削減し国債の需給を悪化させる、との懸念を生じさせている。
さらに、ウォーシュ議長がトランプ大統領の意向を受けて、金融引き締めに消極的な政策姿勢をとるとの見方も根強くある。対応の遅れが将来のインフレリスクを高めてしまうとの観測、いわゆる「ビハンド・ザ・カーブ」懸念から長期金利が上昇している面もある。
市場の安定に一層配慮した政策運営を高市政権に求める可能性
ベッセント氏は財務長官に就任した直後に、「トランプ政権は市場に影響を与え、利回りを押し下げることで、米国民の借り入れコストを抑制できる」と主張した。具体策としては、財政赤字の削減を通じて米国債の供給を減らすことや、石油・ガス生産を増やしてエネルギー価格を下げることを挙げた。実際には、この2つは実現していない。
そうした中、ベッセント財務長官は、国債市場に直接介入する道を選んだのだろう。しかし、その効果も期待されたほどではない。
ファンダメンタルズの変化を通じて長期金利の上昇抑制を図るにしても、政府が直接できることは限られる。11月の中間選挙を前に、財政赤字を大幅に減らす政策を打ち出すのも難しいだろう。
一方、足もとの長期金利の上昇については、金融市場で危機感も強まっている。トランプ政権が昨年4月に相互関税を打ち出した直後にドル安、債券安、株安のトリプル安が生じたことを想起する向きもある。
21日の米国債市場では、10年債利回りが上昇する一方、将来のドルの価値低下に備えて金や暗号資産を購入する、いわゆるディベースメント取引(通貨価値下落に備えた取引)も目立ったという。
金融市場と同様に、ベッセント財務長官が長期金利の上昇への危機感をさらに強める一方、打つ手がないという状況となれば、米国の長期金利上昇の一因になっているとみられる、日本の財政政策について、市場の安定に一層配慮した政策運営を高市政権に求めてくる可能性があるだろう。市場介入に続くのは、日本の政策への介入となるか、注目しておきたい。
(参考資料)
“The Wild Week When Scott Bessent Was Schooled by the Bond Market(米財務長官に債券市場からの「手痛い教訓」)”, Wall Street Journal, August 22, 2026
そうした中、ベッセント財務長官は、国債市場に直接介入する道を選んだのだろう。しかし、その効果も期待されたほどではない。
ファンダメンタルズの変化を通じて長期金利の上昇抑制を図るにしても、政府が直接できることは限られる。11月の中間選挙を前に、財政赤字を大幅に減らす政策を打ち出すのも難しいだろう。
一方、足もとの長期金利の上昇については、金融市場で危機感も強まっている。トランプ政権が昨年4月に相互関税を打ち出した直後にドル安、債券安、株安のトリプル安が生じたことを想起する向きもある。
21日の米国債市場では、10年債利回りが上昇する一方、将来のドルの価値低下に備えて金や暗号資産を購入する、いわゆるディベースメント取引(通貨価値下落に備えた取引)も目立ったという。
金融市場と同様に、ベッセント財務長官が長期金利の上昇への危機感をさらに強める一方、打つ手がないという状況となれば、米国の長期金利上昇の一因になっているとみられる、日本の財政政策について、市場の安定に一層配慮した政策運営を高市政権に求めてくる可能性があるだろう。市場介入に続くのは、日本の政策への介入となるか、注目しておきたい。
(参考資料)
“The Wild Week When Scott Bessent Was Schooled by the Bond Market(米財務長官に債券市場からの「手痛い教訓」)”, Wall Street Journal, August 22, 2026
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。